第52話 紅の剣と呪いの魔剣 5
リリアと別れた後に宿に戻ってきた。
一度自分の部屋に戻り、手荷物を置いてくる。
食堂に降りると、すでにエレインさんが来ており、お茶を飲んでいる。
「すまない、遅れてしまった」
「いえ、私も今来たところですから」
飲んでいるお茶は半分くらいなくなっている。
結構待たせてしまったようだ。
「アクトさん、お引越しされるんですか?」
シャーリに声をかけられる。
あ、いうの忘れてた。
「あぁ、こないだのクエスト報酬で家をもらえたんだ。掃除も終わったし、明日にも引っ越そうかと――」
次第にシャーリから、いつも身にまとっている覇気がなくなるのを感じた。
そして、今にも泣きそうな顔つきになる。
「そう、なんだ……。もう、ここには来ないの?」
「そんなことないよ。ご飯食べに来るさ。それに、シャーリも遊びに来てもいいぞ。きっとリリアも喜ぶと思うし」
少しだけシャーリの顔に笑顔が戻る。
「わかった、今度遊びに行くわね。それと、私はまだ料理の勉強中なのよ。ダンジョンに行くときのお弁当は、実験がてらアクトさんにあげますから」
「いいのか?」
「その代わり、感想をきちんと聞かせてください。あと、必ずお弁当箱と包みは持って帰ってくるのよ!」
最後の方はいつものシャーリに戻っていた。
シャーリの作るお弁当はいつでもおいしいし、毎日でもいいくらいだ。
そんな話をしたあと、エレインさんと一緒に孤児院へ足を向ける。
「アクトさんも隅におけませんね」
「ん? 俺はいいように実験に付き合わされているだけだよ。それなりに付き合いも長いし、年も近いし、まぁ頼みやすいんじゃないかな?」
「そういうことにしておきましょう」
しばらく街を歩き、孤児院へやってくる。
庭では子供たちが何やら畑の周りで騒いでいる。
「どうした?」
「にーちゃん! 芽が出たんだ。この畑で野菜が取れるんだって!」
「おいしいのが、大きくなるんだって! 早く食べたいなー」
セーラと子供たちが作った畑に何かの芽が出た。
きっと、子供たちもしっかりと世話をしてくれるに違いない。
「ニコアはいるか?」
「いるよ、呼んでくる?」
「あぁ、頼むよ」
子供たちに迎え入れられ、いつもの席に座る。
「あのさ、エレインさんはここの記憶ってあるのか?」
気になったので聞いてみた。
「そうですね、全てではありませんがそれなりに覚えていますよ」
「そうなんだ……」
誰かの足音が近づいてくる。
「お待たせしました」
「おはよ、怪我の具合は?」
「お陰様ですっかり治りました。あの、お二人に会ってほしい人がいます」
ニコアに案内され、二階の部屋に通される。
そこにはベッドに寝ている男の子。
「誰?」
「おっす、俺はアクト」
「アクトさん! いつも姉さんがお世話に――」
ベッドから起き上がろうとした弟は、なんだか苦しそうに胸を押さえはじめた。
「バイス、落ち着て。そんな急に起きようとしてはだめよ」
「この人、お母さんに……」
「こんにちは、私はエレインと申します」
びっくりした顔つきになるバイス。
まぁ、そうですよね。
「バイス、この人は似ているけどお母さんじゃないの」
「そう、なの? でも……」
ニコアはバイスの背中をさすり始めた。
「エレインさん、お願いがあります。バイスの病気を診てもらえないでしょうか?」
「わかったわ。少しバイスさんの症状を確認させていただいても?」
「はい……」
エレインはベッドに横になっているバイスの隣に座り、手をかざしている。
色々と見たり、触ったりしている。一体何をしているのだろうか?
エレインさんの表情が、少し曇っている気がする。
「調べるのに時間がかかると思うので、お二人はしばらく外に出ていてもいいですよ」
「いえ、私もここに――」
なんとなく察する。
もしかしたら治らないかもしれない。
そんな時に隣にニコアがいると、ちょっと大変かもな。
「ニコア、ここは二人っきりにさせてあげよう」
なんとなく納得はできていないようだけど、ニコアを部屋の外に連れ出すことには成功した。
部屋から出ていくとき、エレインさんから微笑みでお礼を言われた。
「アクトさん。私、昨夜いろいろと考えたんです」
「何をだ?」
「これからの事、私自身どうしたらいいのか」
途中、ニコアはどこかの部屋に入り、何かを持ってきた。
白い布に包まれた何か。なんだろう? 結構大きそうだけど。
そして、ニコアは両手でそれを抱きしめ無言で歩き始める。
「少し、外を歩きましょうか」
ニコアは孤児院を出て歩き始めた。
言葉は交わさない。ただ無言で俺はニコアと並んで歩く。
ニコアは一体何を考えているのだろう。
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