第53話 紅の剣と呪いの魔剣 6


 教会の敷地内をしばらく歩き、着いたのは墓地だった。

墓地を通り抜け、結構奥の方にやってきた。


「ここが、私の両親が眠る場所。お母さん、お父さん久しぶり。元気にしてた?」


 少しだけ胸がちくっとする。


「えっと、初めまして。アクトと申します」


 俺もとりあえず挨拶をしてみる。

ニコアは持ってきた大きな何かの布をほどき始め、中身を取り出す。


 現れたのは剣。真っ二つに折れた剣だった。

紅い刀身の剣。だが、真っ二つに折れており、剣としては全く使えない。


「お父さん、私のお願い、聞いてもらえないかな?」


 しばらく沈黙の時間が流れる。

吹き抜ける風、ニコアのきれいな長い金色の髪が、風に流される。


「……わかった。約束するよ」


 立ち上がったニコアは、折れた剣を俺に差し出す。


「ニコア?」

「お父さんの剣、直してアクトさんに使ってもらいたいの」


 ニコアのお父さんが使っていた剣。

形見の剣だ、そんな簡単にもらえるか!


「ニコア、俺にはこれをもらうことはできない。これは、ニコアの……」

「え? アクトさんにはあげないですよ。さすがに父の形見を手放すのは……」


 言葉の行き違い、考えのすれ違い。

なんだか、ものすごいカッコ悪い気がする。

そして、かなり恥ずかしい。


「えっと、どういうことだ?」

「この剣を直しても私には使えません。でも、弟には冒険者になってほしくないんです」


 ニコアの視線が、まっすぐに俺を見てくる。

俺もニコアの金色に光る、大きな瞳を見ながら、話を聞く。


「このままだと父も悲しんでいる気がします。ですから、もう一度剣として使ってほしい。アクトさん、私の為にこの剣を使ってはもらえませんか?」


 ニコアの差し出した手には折れた剣が一本乗っている。

俺はこの剣を握ってもいいのか?

それだけの覚悟はあるのか?


 俺はこの剣を振るう時、一体何の為に振るう?


 俺は強くなりたい。

もっと強くなって、――を守れるくらいに俺は強くなりたい。


 思い返す過去。

リリアもニコアも危険な目に合わせてしまった。

この先も同じように危険なことが待っているだろう。


 もう、守ってもらってばっかりなのは嫌だ。

俺が強くなって、みんなを、俺の側にいてくれる人を守るんだ……。


 自然と手に力が入る。


「ニコア。俺、今よりも、もっと強くなれると思うか?」


 満面の笑顔で、ニコアは俺に向けて微笑む。


「もちろん。私たち、まだまだ駆け出しですよ?」


 折れた剣を握ってみる。

不思議と懐かしい感じがした。


 なんだろう、この感覚。

以前にも似たような感覚が……。


「お父さんにも許可をもらったので、さっそく修理に出しましょう!」


 ニコアは俺の腕に絡みついてきて、歩き始める。


「あ、危ないって!」

「大丈夫ですよ。ほら、早くしないとエレインさんが探しに来ちゃいますよ!」


 ニコアの両親に軽く挨拶をして、お父さんの使っていた紅の剣を借りることになった。

もしかしたら、この剣でニコアを守る日が来るのかもしれない。


 でも、できればそんな危険な事が起きないことを願っている。

ふと振り返る。

 

 誰もいない墓地。

誰もいないはずなのに、なんとなく遠くの方にニコアの両親が立っているように見えた。

そして、こっちを見ながら手を振っているように見える。


 ニコアのお母さん、お父さん。

俺はきっとニコアを危険から守って見せます。

だから、この剣をしばらく貸してください。


 きっと、守りますから……。

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