第38話 黒き聖女と聖なる光 8
俺の魔力。
いったいどんな結果が!
「魔力値はかなり高いです。魔導士であればAランクに近いですね」
「おぉぉ、それってすごい事なのか?」
「はい、多分私よりも高いです。すごい事ですよ」
ニコアは笑顔で俺にこたえてくれた。
「アクト様、すごいですね! Aランクですよ! 冒険者としてはFランクなのに!」
た、確かにそうだけどさ。
きっとすぐにEランク、Dランクってなるさ!
「ですが……」
「ですが? 何かまずい事でも?」
「属性の適性がないですね」
属性の適性? どういうことだろう?
「えっと、どういう意味だ?」
「魔法は、魔力と適性が必要です。魔力は魔法を発動させるのに必要な力。ですが、適性がないと、発動自体できません。私には水の適性がありましたので、水の魔法が使えますが、アクトさんの場合……」
ま、まさか……。
隣のセーラがゆっくりと口を開いた。
「適性がないので、魔法が使えないと」
「そうです。魔力があっても、魔法は使えません」
「そ、そんな……」
急に場が静かになった。
ニコアもなんだか申し訳なさそうな顔つきだ。
リリアも黙ってしまい、少し上の空になっている。
「ですが、魔道具を使えば魔法は使えますよ!」
ニコアがフォローをしてくれた。
「魔道具か……」
「はい、魔法の力が込められた魔道具があれば、アクトさんにも――」
「でも、高いだろ?」
魔道具は高い。
ろうそくの火を出す魔道具でも、家が買えてしまうくらいに高い。
駆け出し冒険者の俺には手に入れることが不可能だ。
「で、でも、魔力はあります。きっと、いつか魔法が使えるようになりますよ」
「ま、そうだな。魔道具を手に入れれば、俺にも魔法が使える!」
「主様、応援していますよ。頑張ってください」
セーラも応援してくれる。
よし、いつか魔道具を手に入れて、俺も魔法を使ってやる!
ニコアが真剣な眼差しで俺を見てくる。
何を考えているのだろうか?
「あ、あの……。アクトさんは冒険者でクエスト受けることができますよね?」
「ん、まぁランクは低いけどね」
「わ、私をパーティーに入れてはもらえませんか?」
ニコアをパーティーに?
「えっと、どうして?」
「今日、思ったんです。やっぱり一人だと難しいって。でも、孤児院の為に、どうしても私にはダンジョンに行くことが必要なんです。何でもします、荷物も持ちます。武器を手に取って、戦います。お願い、できないでしょうか……」
真剣な目。
本当に子どもたちの事を考えているんだな……。
「条件がある」
「何でも」
「一つ! 危なくなったら逃げる! 命は大切にしないといけない」
「はい、わかりました」
「二つ! 報酬はメンバーで均等割り。ドロップ品や回収したアイテムについてはその都度考える」
「均等割り? 均等でいいのですか?」
「あぁ、リリアもいいかな?」
「もちろんいいですよ」
「三つ! 子供たちにおいしいご飯を食べさせる!」
ニコアの瞼に薄っすらと涙が浮かび上がる。
「はいっ、喜んで……」
視線をリリアに向けると、リリアも微笑んでいる。
セーラはどうかな?
「では、私はしばらくこちらの孤児院に通いますね。菜園の準備とか、子供たちに色々と教えたいこともありますので」
「いいのか?」
「もちろん。お庭でとれた野菜を食べるのも、楽しいですよ」
新しいメンバーも増え、明日からダンジョンに再び挑む。
俺とリリア、それにニコア。まだ、わからないことが多いけど、きっと何とかなると思う。
「それでは、明日ギルド前に」
「わかりました。準備していきますね」
待ち合わせの約束をして、孤児院を後にする。
すっかり夜も更け、俺とリリアは宿に。
明日以降の準備があると、セーラは一人で家に帰っていく。
よし、俺も準備して早めに休もう。
そんなことを考えベッドに転がる。
「アクト様! 魔力下さい!」
寝ている俺にリリアが飛び跳ねダイブしてきた。
「ごふぅ」
「ふぅぅぅ、落ち着きます……」
「リリア」
「はい!」
「ダイブ禁止!」
今夜もまだ寝ることができなさそうだ……。
――
深夜、街の隅にある酒場の裏路地。
普段であれば誰も通る事のない細い道に二人の人影が見える。
深くフードをかぶり、その姿が誰なのかは、はっきりとしない。
「で、どうだった? うまくいったのか?」
細い声の女は、目の前にいるもう一人に声をかける。
「はい、うまく誘導できました」
答えた少女は羊皮紙を懐から取り出し、女に渡す。
少女から羊皮紙を受け取った女は、まじまじと見つめる。
「これは、本当なのか?」
「はい、私がこの手で行いました。間違いはありません」
女は羊皮紙を折り曲げ、自分の懐に入れる。
「この魔力値は異常だな。しかし、適性が無いのも珍しいな」
「そうですね。何かしらの値が出てもおかしくはないのですが……」
「まぁいい。行動は一緒にできそうなのか?」
「はい。明日以降、共にダンジョンへ行くようになりました」
「ふん。相変わらず行動が早いね。色仕掛けでもしたのかい?」
少女は無言のまま返事をしない。
「まぁいいさ。ほら、例の物だ。くれぐれも、足がつかないようにね、聖女様」
女は小瓶を少女に手渡し、少女は大切そうに瓶を握りしめる。
そして何も言わずその場から消え去った。
「ふん、何がエミールの聖女だ。今まで何人闇に葬ってきたのか……。あんたは確かに聖女だよ、そう、あんたは真っ黒な聖女。その姿を、裏の顔をいつまで隠せるのか……」
暗闇に薄っすらと浮かぶ女の口元。
にやりと口角が上がり、そのまま暗闇に消えていった。
そして、暗い街の裏通り。
黒いローブから金色の髪が見え隠れしている少女が走っている。
その手には大切そうに、小さな瓶が握りしめられていた。
「やっと、薬を……。アクトさん、ごめんなさい。私はやっぱり……」
少女の頬には涙の流れた一筋の跡がみえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます