第37話 黒き聖女と聖なる光 7
「アクト様……」
リリアの目が何かを訴えている。
セーラの方に視線を向けると、セーラも何か言いたそうだ。
「セーラ、何かいい方法はないかな?」
「そうですね、孤児院の庭で菜園をしてみては? 子供たちだけでもできそうですよ?」
「菜園か……。ちなみにセーラは野菜造りできそうなのか?」
「もちろんです。すでに主様のご自宅にも菜園があります」
え? 菜園あるの?
いつの間に作ったのだろうか。
「そ、そっか。リリアは何かいい案あるか?」
「はいっ! えっと、ニコアさんに聞きたいことが」
「なんでしょうか?」
「一人で二階層に行っていましたよね? どうやって戦っていたのですか? 武器らしい武器を持っていなかったと思いまして」
「あ、そ、それはですね……。武器はあったのですが、逃げる途中に落としてしまって……」
「そうですか……。お一人だったからお強いのかと思っておりました」
「私は前衛向けではないですよ。少しだけ魔法は使えますが、魔道具なしだと正直きついですね」
魔法? ニコアは魔法が使えるのか!
「あの、ニコアは魔法が使えるの?」
「はい。水の魔法が少し使えます。水を出したり、飛ばしたりできますが、あまり戦闘向けではないので……」
「魔法か、すごいな。いいなぁー、俺も魔法使えればいいのになー」
ニコアが席を立ち、一枚の羊皮紙を持ってきた。
何か不思議な模様の書いてある羊皮紙。
書かれている内容は全くわからないけど、何かの魔法陣のように見える。
「これは?」
「これは魔法の適性を調べる魔法陣です。内職で私が一枚一枚書いているんですよ」
パッと見た感じ、かなり細かい。
文字や図形、数字ぽいものもあり、複雑な線が絡み合って、描かれている。
「この細かいものを?」
「はい。書いて、教会に収めています。結構いい金額になるので助かっています」
微笑むニコア。
でも、こんな細かいものを一日に何枚も書くのはきっと難しいだろう。
「で、これをどうするんだ?」
「流石にこの食事だけではお礼といえません。アクトさんの魔法適性、調べてあげますよ」
「いいのか?」
「はい、大丈夫です。書き損じ用として何枚か多めにいただいておりますので。食事が終わったら、お茶でもしながら調べてみましょう」
食事中は教会の事や子供たちの事、それに孤児院のやダンジョンの事など話をし、時間はあっという間に過ぎていく。
食事も終わり、セーラはニコアと一緒にお茶を入れに部屋を出ていった。
「アクト様、なんとなく違和感を感じまんか?」
「違和感?」
「タダで魔法適正を調べたり、こんな状況で食事に誘うとか、なんか怪しくないですか?」
「そんなことないだろ? 彼女なりの誠意だと思うよ。気にしすぎだ」
「そうですか……」
リリアは鋭い目つきで部屋の中を観察している。
いったいどんな違和感を感じているのだろうか?
「お茶入りましたよ」
二人が戻ってきて、テーブルにはお土産の茶菓子が出されている。
リリアはさっそく茶菓子に手を出し、笑顔で食べ始めた。
「主様、魔法はお使いに?」
「いや、ないな。死んだじーさんに、魔法について色々と言われた気がするけど、正直あまり覚えていない」
ニコアは魔法陣の書かれた紙をテーブルの真ん中に置き、その四隅にろうそくを立てる。
そして、順番に火をともし始めた。
「あまり緊張しなくていいですよ。すぐに終わりますから」
「おう。ズバッとやってくれ」
「では、初めますね」
かなり緊張している。
心拍数が高鳴る。痛くないよね?
「では、この魔法陣の中央に手のひらを乗せてください」
俺は言われるまま、手のひらを魔法陣に乗せる。
そして、ノエルは何カ呪文のようなものを唱えながら、俺の手のひらに自分の手のひらを重ねる。
「――その力の根源を。今、ここに示さん」
重なった手のひらが少しだけ暖かくなり、そして光りだした。
だが、その光もすぐに消えてしまい、何事もなかったかのように、静かになる。
おやつを食べながら、リリアは魔法陣を見て話し始める。
「もう終わりですか?」
「はい、簡単でしょ? アクトさんの魔力を感じることができましたから、大丈夫です。とても、温かくいい魔力でしたね」
魔力にいいも悪いもあるのだろうか?
ニコアが俺の手から自分の手を放し、ろうそくの灯を消す。
「さ、アクトさんの魔力の結果は……」
内心ドキドキする。
いったいどんな結果なのだろうか。
もしかしたら規格外のすごい魔力とか、全属性の魔法が使える賢者クラスとか。
期待しながらニコアの言葉を待つ。
「……えっと、正直にお伝えしますね」
俺は期待に胸を膨らませ、無言でうなずく。
リリアとセーラも何か期待しているようだ。
「アクトさんの魔力は――」
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