第36話 黒き聖女と聖なる光 6


「あの、アクト様」

「なんだ?」

「この孤児院って、もしかして……」


 一言でいえばあまり環境が良くない。

もう少し何とかしてもいい感じがするけどな。


「そうかもな。さっきも子供たちがお金って言っていたし……」


 しばらくすると、二人が戻ってきた。

宿で食べる食事よりも貧祖に見えてしまう。


「こんなものでしかお礼ができませんが……」

「いや、十分だよ」


 リリアは薄そうなスープをじーっと見つめている。

そして、何気に扉の隙間から子供たちが覗き込んでいることに気が付いてしまった。


「では、感謝の言葉を……」


 ニコアの言葉に続き、俺達も同じ言葉を繰り返す。


「では、いただきましょう」


 静かな時間が流れる。

固いパンに薄いスープ。俺達が土産で買ってきたものの方がうまそうに見えてしまう。

これが、この街の、孤児院の姿なのか……。


「おい、押すなよ!」

「だって、俺達だってまだ――」


 扉が開いて子供たちが部屋の中になだれ込んできた。

ニコアは無言で席を立ち、子供たちの前に歩み寄っていく。


「お願い、少し静かに待っててもらえないかな? あとでおいしいご飯準備するから。お願い……」


 少し悲しげな声。


「おねーちゃん……。ごめん、俺たち向こうで待っているよ」

「ごめんね、もう少しだけ待っててね」


 子供たちの声が遠ざかっていく。

そして、ニコアは席に戻り、食事をとり始めた。


「ごめんなさい、ここにお客様が来るのが珍しいみたいで」


 笑顔で俺達に話すニコア。

でも、その表情は少し寂しそうだ。

俺は固いパンをかじりながら話し始めた。


「ニコアさんは……」

「ニコアでいいですよ、私の事は」

「わかった。ニコアはなんでダンジョンにいたんだ? しかも一人だし、冒険者でもないのに」


 ニコアのスプーンを持った手の動きが止まる。

そして、視線を少し左右させ、何かを決意したかのように話し始めた。


「実は、この孤児院の継続運営が難しく……」


 ま、そんな感じがしますよね。


「寄付金とかないんですか? 教会から少し補助が出ているとか」

「昔はそれなりにあったんですが、最近はどんどん少なくなるばっかりで……」

「じゃぁ、どこから資金を?」


 ニコアがテーブルを見ながらゆっくりと話し始めた。


「私がダンジョンに入ったり、近所の農園でお手伝いをして野菜をいただいたり。子供たちはまだ小さいので、なかなか……」


 作り笑いをして、それでも無理して笑顔を作ろうとしているのがわかってしまう。

なんだかね……。


「何とかなるのか?」


 首を横に振るニコア。


「じゃぁ、この先どうするんだ?」

「まだ、考えている最中です。少しは貯えがあったのでいいのですが、それもいずれ底をつきます。それまでに何とかしないと」


 セーラは出されたスープを飲みながら、無言で話を聞いている。


「何かあては?」

「今のところ特にありません。教会に所属していると、冒険者に登録できないのでクエストの受注ができないんです。でも、魔石は換金できますから、それで何とか……」


 いろいろと大変そうだ。

この孤児院にはニコア以外に大人はいないのか?


「なぁ、ほかに大人はいないのか?」

「何人かいますが、一人は今、教会の本部に出かけていています。あと、もう一人ご年配のシスターが教会におりますので、たまに来てくれますね」


 うーん、厳しい。

この状況を打破できる何か良い案はないものだろうか。


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