第35話 黒き聖女と聖なる光 5


「アクト様! そろそろ行きませんか!」

「ん? もうそんな時間か?」


 屋根から降りてリリアのところに行ってみる。

なぜかリリアも黒くなっており、すっかりと汚れてしまっている。


「アクト様、せっかくお呼ばれしているのです。一度宿に帰って湯汲しましょう! それに着替えて、お土産も必要ですかね!」


 なんだかんだ言って、リリアも楽しそうだ。


「どこかに行かれるのですか?」

「あぁ、ちょっとダンジョンで助けた人が、夕飯を作ってくれるって」

「……夕飯。皆さん、行かれるのですか?」


 なんだか、少しだけセーラの声が怖い。


「あ、うん。俺とリリアの二人で――」

「私も行きたいです。なんとか連れて行ってもらえないでしょうか?」


 うーん、セーラだけ残していくのも、何と無く悪い気がする。

一人で頑張っていたんだし……。


「一緒に来るか? お土産を少し多めに買っていくからきっと大丈夫だろう」


 多分、大丈夫だよね?


「是非ご一緒に。ありがとうございます」

「セーラさん、準備したら、宿に行って湯汲とお着換え! あとは、街の屋台でお土産を買いましょう!」


 なんだか楽しくなってきた。


 準備が終わり、こぎれいな格好で孤児院へ向かう。

お土産も多めに買ったし、おやつも多め。

きっと、子供が多くいるだろうからおやつは喜んでもらえるかな?


 三人で並んで孤児院へ向かう。

教会の隣にあるって言っていたから、場所はわかる。

が、教会の隣にそんな感じの建物はない。

あれ? おかしいな。


「どこだろう?」


 あたりを見渡すと、少し離れたところにいたリリアが手招きしている。


「アクト様! 隣じゃなくて裏です、裏!」


 あれ? 聞き間違ったかな?


「わかった、今行く!」


 教会の裏手。

少し日当たりが悪く、なんだか湿っぽい。

夕日の光が少しだけ建物に当たっており、なんだか少し寂しげな雰囲気だ。


「こ、こんにちはー」


 この時間なら、おばんですかな?

入り口の前で直立不動。手には両手いっぱいのお土産。


「誰か来たー」

「絶対にお土産あるぜ!」

「おもちゃとかないかなー」


 中から騒々しい声が聞こえてくる。


「こらぁー! お客様なのよ! あなたたちは向こうに行ってなさい! 静かにしているのよ、あとくれぐれも……」

「わかってるって!」

「大丈夫だよおねーちゃん、心配しないで!」

「絶対にお金のことは言わないから!」


 ……おーい、もう聞こえてますけど。

しばらくして静かになったころ、ゆっくりと扉が開く。


「お、お待たせしました」


 開いた扉の向こうには、美しい金髪の少女が立っていた。

白いベースの生地に、薄い水色の縁取りがされている服を着ている。

教会の服かな?


「少し早かったかな?」

「そんなことはありません。えっと、そちらの方は?」


 ニコアの視線がセーラに移る。


「初めまして、セーラと申します。主様の自宅にてメイドをさせていただいております」


 あるじさま? メイド? あれ? そんな設定だっけ?


「初めまして、この度はアクトさんに助けていただき、今夜そのお礼と思いまして……」


 なんだか堅苦しい雰囲気になってきた。

こんな時はリリアの出番だ。

さりげなく視線を送る。


「おーい! 子供たち! お土産あるから取りにおいでー! おやつもたくさんあるよ!」


 ニコアのずっと後ろ、廊下の奥の扉が開いており、何人もこっちをのぞき見している。


「おやつだってー!」

「やったぁー!」

「待てよ! 俺が先だぞ!」


 我先にと一気に玄関が人で埋まった。

いったい何人いるんだ?


「あ、こら! 待ちなさい! まだご挨拶が――」

「まぁ、挨拶なら後でもいいだろ?」


 俺の手からきれいにおやつが消えた。


「そ、それではいけません! 感謝の言葉もまだ……」

「にーちゃんありがとう!」

「うまそー!」

「あー! それ、俺も食べたい!」

「勝手に持っていくな! まずは数を数えて、分けないとっ――」

「って、先に食べるな!」


 嵐が去っていく。


「ご、ごめんなさい。本当に、ごめんなさい……」


 顔を赤くし、半分泣き始めた。


「いや、子供ってあんな感じが自然だと思うよ。これ、少しだけどお土産持ってきたから、夕飯の時に一緒に食べようぜ


 残った袋をニコアに差し出し、中に入る。

通された部屋は少し暗く、すでにろうそくの灯がついていた。

そして、きしむ床に音のなる椅子。


「アクト様、うちといい勝負ですね」

「静かに」


 中の様子をうかがうよにセーラはちらちら見ている。


「では、こちらでお待ちください。今、準備しますね」

「私も手伝いますよ」


 セーラもニコアと一緒に部屋を出ていく。

遠くの方から、子供たちの騒いている声が聞こえてきた。

思ったより喜んでもらえているみたいだ。


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