第34話 黒き聖女と聖なる光 4
「え? そうなんですか?」
冒険者じゃない?
「一応私もここの勤務は長いの。あの年の女の子、ニコアという冒険者に記憶がないわ」
「そうですか……」
「それに、ニコアって名前にあの首飾り。間違いがなければ……」
間違いがなければ……。
少しだけ緊張する。なんだ、まさかこの国の王女様とか!
そして、孤児院も王女として行っている活動とかですかね!
「多分彼女は『エミールの聖女』。教会の見習いとして奉仕していたはず……」
「「エミールの聖女?」」
教会って、あの教会だよね?
「ニコアさん、聖女だったんですか!」
「えっと、正確には見習いだけどね。結構有名だと思うんだけど、アクトさん知らない?」
「えっと、すいません。初耳で……」
エミールの聖女。
教会に訪れる冒険者であれば一度は見たことがあるだろう。
彼女は見習いだが、教会の奉仕ごとにはよく顔を出しているらしい。
しかも、孤児院で小さな子供たちの面倒をみている。
さらに街で怪我人の手当てや炊き出しなど奉仕活動も行っているらしく、着いた名前が『エミールの聖女』だそうだ。
「フーン、結構頑張っているんだね」
「フーンって……。アクトさん、彼女はなぜダンジョンにいたのでしょうか?」
「うーん、さすがにそこまではわからないですね。フィーネさんが直接聞いてみれば?」
「そうですね、後で聞いてみます」
少しだけニコアの事を知ることができた。
一人で孤児院とか、街の奉仕活動とか、えらいんだな。
率直にそんな風に思っていた。
そして、俺たちはギルドを後にし、手元のお買い物メモに目を通している。
「結構買い物数が多いな」
「あの状態の家を直すのであれば、しょうがないですよ」
リリアと買い出しを行い、手に持てるだけ持ってマイホームに帰る。
街の中心から少し離れた住宅街の奥。
静かでいいところ、といえば聞こえがいいが街から少し遠い。
「な、なんだこれわぁぁぁ!」
何ということでしょう。
あれだけ荒れ果てた庭はサッパリと美しく、うっそうとしてた木々は小綺麗にカットされ、今ではその面影もない。
「これは、どういうことでしょう……」
ボロボロだった柵も一通り直っており、パッと見た感じおしゃれだ。
玄関まで普通に歩くことができるし、何より扉が直っている。
「セーラ! セーラはいるかー!」
玄関の前でセーラの名を大声で呼んでみた。
遠くからセーラの返事が聞こえてくる。
「はぁーい! 今行きます!」
だんだんと足音が近づいてくる。
そして正面の扉が開く。
「お帰りなさいませ!」
笑顔で迎えてくれたセーラ。
しかし、ボロボロの姿になっており、顔も肩までまくり上げた腕も黒くなっている。
それに心なしか、いたるところに擦り傷のようなものが……。
「これっていったいどうしたんだ?」
俺は視線を庭の方に向ける。
「昨夜からずっと庭の手入れをしておりました。そのあとは、お部屋のお掃除ですね」
さらっとすごいことを言う。
たった一晩でここまでできるのか?
「あ、新しいカーテンとテーブルクロスですね。ありがとうございます!」
「お、おう……」
俺から荷物を受け取ったセーラはそのまま家の中に入っていった。
「まだ、全部は終わっていないですが、中に入っても大丈夫ですよ」
セーラに言われ中に入る。
昨日とは違って、日の光が中に入っており、明るい。
テーブルも椅子もあるし、部屋が結構きれいになっていた。
「二階はまだですが、こことキッチンはある程度終わりましたよ」
頑張りすぎです。
「セーラさ、疲れていないか?」
「疲れていますよ。でも、早く皆さんと一緒に生活をしてみたくて、頑張ってみました」
「セーラさん、私も手伝いますよ!」
「リリアさんも? では、一度お茶にして、そのあと一緒に湯汲場をお掃除しましょうか」
「湯汲場あるんですか!」
「えぇ、今はちょっとすごいことになっていますけど」
宿ではなかった専用の湯汲場。
いやー、家ってありがたいですね。
みんなで少しお茶をして、俺も掃除を手伝う。
壁を直したり、屋根を直したり。
そういえばじーちゃんと住んでいた家も、しょっちゅう直していたな……。
あそこも、結構ボロ家だったし。
昔を思い出し、少し懐かしい気持ちになる。
でも、じーちゃんはなんであんな山奥に住んでいたんだろう?
絶対に街の方が住むのにはいいはずなのに。
屋根の上でトンカチ握り、屋根を直す。
夕日が街のはるか向こうに見える山に隠れ始めた。
あの山の向こうにも街とか国があるんだよな。
そして、この街にはほかの国の人や種族が沢山住んでいる。
ダンジョン。
この街の中心にあるダンジョンを目指し、多くの人が集まる街。
そんなんダンジョンに魅せられた、多くの冒険者たち。
その冒険者の一人として、俺も頑張ってみたい。
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