第33話 黒き聖女と聖なる光 3


 ギルドの一部屋。

ダンジョンで出会った少女がベッドに寝ている。

顔や体中傷だらけでおり、リリアに頼んで拭いてもらった。

薬もギルドからもらえることができたし、とりあえずは大丈夫だろうか。


 眠る彼女。

長い金色の髪が目立っている。

しかし、軽装にこの装備。多分冒険者だと思うけど、なんで一人でいたんだろう。


「うぅーん……」


 彼女は苦しそうに唸っている。


「大丈夫か?」


 ゆっくりと目を開け始めた彼女は、視線を俺達に向ける。


「誰? ここは……」


 まだ頭がはっきりしない様子。


「ここはギルドの一室。ダンジョンの事、覚えているか?」


 目を閉じ彼女は少し思い返しているのだろう。

しばらくし、彼女は目を開けゆっくりとベッドから起き上がった。


「ありがとうございました。助けていただいたのですね」

「怪我は? どこか痛くないか?」


 彼女は自分を手で触ったりし、確認する。


「大丈夫です、本当にありがとうございました。、あんな数のラットに囲まれたことなんてい今まで一度も……」

「まぁ、結構な数だったよ。でも、何とかなったし、えっと……」

「あ、申し遅れました。私はニコアと申します」

「よろしくニコア。俺はアクト、こっちがリリア」

「はいっ! リリアと申します! 大怪我じゃなくてよかったですね!」


 おっと、リリアさんの口調がなんだかいつもとちょっと違う。

初対面だから、猫かぶっているのかな?


「あ、あの是非お礼を……」

「礼なんていらないよ。な、リリア」

「え、あ、はい。そうですね。あんな数のモンスターを私たちに押し付けて、ここまで運んであげ、手当てもしてあげましたが、お礼なんていらないですよ!」


 ちょ、おい。

その口は何を言っている?

俺はリリアの頬を左右にこれでもかというくらい左右に広げてみる。


「い、いふぁいでふ」

「当たり前だ、痛くしているんだ。ニコアさん、本当にお礼はいらないよ」


 ニコアは俺とリリアのやり取りを見て微笑んでいる。


「ふふ、仲がいいんですね。もし、お時間があれば、夕飯でもご一緒にいかがでしょうか?」

「夕飯か、それくらいなら……」

「良いですね! 夕飯ごちそうになりますよ!」

「わかりました。怪我も大丈夫だと思うので、今夜教会の隣、孤児院にいらしてください」

「わかった。じゃぁ、今夜孤児院に行ってみるよ」


 まだ休むと思われるニコアを残し、俺たちはギルドのホールに戻る。


「あ、アクトさん」


 フィーネさんが声をかけてきた。


「彼女はニコアって名前らしいです。今は起きているみたいなので、話聞けますよ」

「わかりました。じゃぁ、薬代を請求しないと……」

「ちょ、ちょっと待って下さい。ただじゃないんですか?」

「まさか。一時的に使うのであればお部屋代はいただきませんが、薬は消耗品ですよ。少しはいただかないと……」


 た、確かに。

もしギルドの薬代がタダだったら、破綻してしまうかも。


「えっと、代わりに俺が払います」

「アクトさんがですか?」

「えぇ、彼女のおかげで魔石を多く回収できたので、少しくらいは……」


 リリアが俺の袖をつかんで、ふくれっ面になっている。

頬を膨らませ、なんだか小動物みたいだ。


「アクト様、お人よしすぎます」

「まぁまぁ、彼女だって大変だったんだ。冒険者同士、助け合わないとね!」


 バッグからお金を出そうとしたとき、フィーネさんが少し困ったような声で話し始めた。


「えっと、彼女冒険者ではないわね」


 予想していなかったセリフをフィーネさんの口から聞いてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る