第15話 二人の生活と特訓 7
「はい、二人前ですね。ごゆっくりー」
なんだか冷たいお言葉。
でも、シャーリの持ってきてくれた食事は温かい。
出てきた食事をリリアは食べ始める。
「これ、おいしいですね。こっちも、こんな味がするんですね!」
まるで初めて食べるかのような感想。
実際、初めて食べるんだろうな……。
リリアに聞いてみたけど、食事はとらなくてもいいらしい。
食べても食べなくても魔力を吸収すれば、体は維持できるようだし、ナイフも修復できる。
ただ、俺の我儘で食事に付き合ってもらっているだけだ。
「アクト様、それ食べないのですか?」
「なんだ、欲しいのか?」
無言でうなずくリリア。
「いいぞ、ほら」
フォークで肉を一切れ差し、リリアの口元に運ぶ。
リリアは大きな口を開け、待機していた。
「んー、おいしいでふね。ありがとうございまふ」
笑顔で食べるリリア。
それを見ているだけで、俺は少しだけ心はホワンと暖かくなるのを感じた。
食事を終え、部屋に戻る。
ベッドに転がり、明日の事などをリリアと話をする。
「アクト様、少しだけ外に出ませんか?」
リリアに誘われ、少し遅い時間だが中庭にやってきた。
月明りと、ほんの少しのランプの光。
リリアの顔もはっきりとは見えない。
「そこに目をつぶって立っていてもらえますか?」
「ん? あぁ……」
言われたまま、目を閉じ棒立ちになる。
一体何をされるのだろうか。少しだけ鼓動が高鳴る。
「いきますよ」
少し離れたところに立っていたリリアが、近づいてくる足音が聞こえる。
そして、俺の目の前でその音がやみ、頬に何かを感じた。
――パシーーーーン
痛い。
平手打ちをくらったかのような痛み。
「アクト様、今何か感じましたか?」
俺は目を開けリリアの方を見る。
「な、なぜ俺は平手打ちを……」
リリアは少し楽しそうな表情で答える。
「練習です。目を閉じ、暗闇の中で私を感じてください。そして、よけてくださいね。さぁ、もう一度しましょうか?」
再び目を閉じ、今度はしっかりと身構える。
「リリア、できれば慣れるまでゆっくりとしてほしいんだけど……」
「わかりました。今度はもう少しゆっくりとしますね」
――パシンッ
今後は腹部に少しだけリリアの拳が触れた。
痛くはない、でもよけることはできなかった。
「これでもゆっくりしましたよ。今度は何か感じましたか?」
「もう一度」
宿屋の中庭に響き渡る音。
はたから見たら、変な光景だろう。
だけど、弱い俺は練習が必要だ。もっと、もっと強く。
――
灯りの付いていない一軒家。
庭の草木は乱れ、はたから見たら廃屋にも見えるだろう。
「ウィィって、コラー。こんなところに壁なんて立てやがって!」
一人の酔った男がふらつきながら廃屋のある庭に入ってきた。
月明りだけが辺りを照らし、周りの木々がうっそうとしている。
たまに吹く風が、木々を揺らし、まるで人の話声のようにも聞こえてくる。
「今日も疲れたなー、どーれ、この木に栄養でもやってやるかー!」
冒険者は木の前に立ち、用を足そうとしている。
誰も入ろうとはしない廃屋の館。
『――ケテ。タス――テ。ソコノ――、ワタシ――ハ、――ニイル』
男は用を足しながらあたりを見回した。
何か聞こえた気がしたが、気にもしない。
枝の揺れる音がしたのだろう。
そして、男は目の前に浮かぶ光景を、後にこう語る。
『浮かんだ魔剣が、俺の方に向かって飛んできた。あと少しで、俺は殺されるところだったんだ! あの噂は本当だったんだ、あそこは呪われた館だ……』
数か月前から依頼されているクエスト。
『屋敷に現れる魔剣の駆除』はいまだ誰もクリアしていない。
魔剣の姿も曖昧、だが被害者は出ていない。
『タスケテ。タスケテ。ソコノアナタ、ワタシハ、ココニイル』
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