第16話 二人の生活と特訓 8


 数日間リリアに特訓を受ける。

早めにダンジョンに潜り、特訓を受けてからクエストをこなす毎日が続いている。


 おかげでラビット数匹に囲まれても無傷で倒すことができるようになった。

しかもそのすべての攻撃を避けたり、ナイフで受け流したりすることもできるようになった。


「ふぅぅ。どうですか、先生。もう、一階層では無傷で最奥まで行けるようになりましたよ」


 後ろの方から俺を眺めているリリア。

少し満足げな表情をしている。


「だいぶ上達しましたね。びっくりです」


 腰を上げ、ゆっくりと俺のそばまで歩み寄ってくる。


「では、訓練しながら帰りますか」

「そうしようか。今日は結構魔石も手に入れたし、帰りに何か食べて帰ろうか?」

「いいですね! 私、屋台の串焼きを食べたいです」


 ダンジョンを軽く走りながら互いに手刀で攻撃し合う。

最近はうまく避けながら走ることもできるようになったし、俺の攻撃もリリアにあたるようになってきた。


「それそれ、いくぞー」

「なにおっ、負けませんよ!」


 無事にダンジョンから街に戻って、ギルドへ足を運ぶ。


「アクトさん、そろそろ二階層へいけそうですね」

「本当ですか!」

「えぇ、クエストの成功率や魔石の回収率。多分二階層への許可も出ると思いますよ」


 俺はうれしくなり、思わずフィーネさんの手を握ってしまった。


「あ、ありがとうございます! 俺、もっと頑張りますね! やったな、リリア!」


 ふとリリアの方に視線を移すと、なんだか機嫌が悪そうだ。


「アクト様、早く換金して帰りましょう」


 首根っこをつかまれ、カウンターから引っぺがされた。


「あ、ちょっと待ってください。クエストのお話が、まだ終わってないです!」


 呼び止められ、リリアも足を止めた。


「クエストなら先ほど完了したのでは? アクト様はきちんと魔石を回収してきましたけど?」

「あ、そちらのクエストではなく、新しいクエストです」


 フィーネさんは一枚のクエストが書かれた紙をテーブルに置いた。


「これは?」

「ランクZのクエストです。いかがですか? これをクリアしたらきっと二階層への許可もすぐに出ますよ」

「ランクZって、危険なのでは?」


 リリアがクエスト票をにらみながら、ぼやいている。

確かにランクZは普段見ることはない、難題のクエストだったはず。

なんで俺にそんな話を持ってくるのだろうか?


「実は、街の端にある家に魔剣が出るらしいのですが、誰も攻略できていないのです。しかし、被害者は無し。全く手掛かりもないままなのです」


 今まで何組も挑戦したが、結局魔剣を討伐できていないらしい。

だが、その魔剣に襲われた人はいない。しかし、魔剣を見た人はいるらしい。


 時間も、見た場所もバラバラ。

色々なスキルを持った冒険者や魔導士もいたが、結局解決せず。


「――ということでですね、危険はあまりないはずです。いかがですか?」

「この報酬は現物って書いてあるんですが?」

「はいっ、その文字の通り。魔剣を討伐した際は、そのまま家屋を報酬としております!」

「家、がもらえるんですか?」

「とはいっても、廃屋ですし、そこまで立派な家でもないです」


 しかし、ボロでも家。

これはもしかしたらチャンスなのでは?


 クエスト票をまじまじ見ているリリアをのぞき込む。


「アクト様と一緒に……。二人で……」


 何かぼそぼそ独り言。

なんだか視線も合っていない気がする。


「リリア?」

「な、なんでもありません! アクト様、このクエスト受けましょう」

「大丈夫かな?」

「いざとなったら逃げればいいんです。何事も挑戦です!」

「では、アクト様。このクエストを受理ということでよろしいでしょうか?」


 なんだか勝手に話が進んでいっているような。

でも、クリアしたら二階層にも行けるし、家ももらえる。

失敗しても、特に問題はない。


「わかりました。クリアできるかわかりませんが、頑張ってきます!」

「はいっ、よろしくお願いします。期限は七日間です、頑張ってくださいね」


 新しいクエストを受け、隣のカウンターで換金し街に出る。

少しだけ懐も温かくなった。


「アクト様、あそこです。あそこの串焼きがおいしいらしいですよ」


 リリアに袖をつかまれ、屋台に向かう。

今日はゆっくり休んで、明日はダンジョンと新しクエスト、魔剣討伐に挑戦だ。


「おいしいですね! ほら、アクト様もどうぞ!」


 リリアの手に握られた串焼きを一本、目の前に出される。

俺は、そのままかじりつき、その時を楽しんだ。


 お腹もふくれ、リリアと宿に戻る。

俺もリリアも早めに湯汲を終え、部屋でゆっくりとしている。

明日も早しい、そろそろ寝ようかと思っているとリリアがくっついてきた。


「あの、アクト様……。今日も、いいですか?」

「あぁ、もちろん」


 リリアはベッドで寝ている俺の横に転がり、抱き着いてきた。

そして、顔を俺の胸に乗せ、小さな腕を絡ませてくる。


「いきますよ」

「おう、いつでもこい」


 体から魔力が抜けていくのを感じる。

こうして、毎日少しづつリリアに魔力を吸われている。

一気に吸われたら俺が倒れてしまうからな。

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