第9話 二人の生活と特訓 1


 何とかウルフを撃退し、それなりの傷を受けたがダンジョンから街に戻ることができそうだ。

帰る時も何回かラビットに遭遇したが、リリアが率先して倒してくれた。


「アクト様、なんだか不思議な感じがしますね」


 ナイフを片手に俺の前を歩くリリアが何かぼやいている。


「不思議な感じというと?」

「自分が人の形をして、こうして自分自身を手に持ってモンスターを倒すことですよ。今までそんな経験したことないですし……」


 リリアは武器屋で手に入れたナイフだ。それが今さっき、ウルフと戦闘しているときにナイフから人の形になった。

手元からナイフが消えた今、あのナイフがリリアで、目の前にいる少女もリリアだってことには間違いなさそうだ。


「まぁ、俺も初めての経験だけどさ。どう? 自分の足で歩いてみるのは?」

「そうですね、不思議な感じはしますけど、なんだかいい気分ですね」


 笑顔でくるくる回りながら歩いているリリア。

自分の足で歩くことって、当たり前だけどなんとなくその気持ちもわかる。


「あ、またラビットですね。ちょっと行ってきますね」


 少し遠くに現れたラビット目掛け、一人で走って行ってしまった。

リリアの接近に気が付いたラビットも、攻撃態勢を整え、リリアに向かって飛び掛かる。


「よっと」


 ラビットの攻撃をあっさりとかわし、手に持ったナイフがラビットの腹部に突き刺さる。


「ふぅ。魔石魔石……」


 リリアは手に持ったナイフで魔石を砕かず、手に持って俺のところに持ってきてくれた。

回避属性はこんな時でも発動するのだろうか。


「アクト様! 魔石、回収しましたよ!」


 手に握りこまれた小さな魔石。

この魔石でもリリアが吸収すればもう少し治りも早くなると思うのだが。


「なぁ、吸収しなくていいのか?」

「いいのです! アクト様から後程魔力をいただきますので。それよりも、アクト様の方が……」


 リリアは俺を頭から足のつま先までじーっと眺め、何か言いたそうにしている。


 武器なし、ボロボロの服、そして左腕の怪我。

ま、自分で刺した傷だけど、それなりに痛い。


 しかし、実体化したリリアは俺よりも多分強い。

だが、当の本人が丸腰なのは困る。まさか、戦闘をすべてリリアに任せるわけにはいかないしな。


「まぁ、帰ったら換金してまた何か武器を探すよ。というか、リリアはナイフに戻らないのか?」

「……どうやったらナイフに戻れるのでしょうか?」

「「……」」


 どうやら俺たちは冒険者だけど、まだまだ初心者のようだ。

知らないといけないことが山のようにある。


 リリアと肩を並べ出口に向かう。

そろそろダンジョンの出口。あそこまで行けば無事に帰ることができる。


「ところでアクト様?」

「ん?」

「アクト様はまだ初心者なんですよね?」

「あぁ、まだまだ初心者だな」

「さっきの戦い方を見ていたんですが、ナイフの使い方雑ですよ?」


 ショック。

少しはじーさんに習っていたけど、ナイフ本人に言われると少し傷つく。

確かに、うまくはないけどさ。


「そ、そうか? まだまだ練習しないとだめだな」

「でしたら、私がナイフを使った戦い方を伝授しますよ! こう見えても今まで何人も短刀使いの人に使われてきましたからね!


 少しどや顔で話しているリリアはかわいい。

年下でクリっとした目がかわいい少女にナイフの使い方を習うのか……。


 ……年下?


「なぁ、リリアって何歳?」

「女性に年を聞くのですか?」

「え? いや、ちょっと気になって……」


 リリアは俺のそばにやってきて、耳打ちする。


「……百は超えていますよ? それ以上は秘密です」


 おっと、やっぱりね。

そんな気がしていました。

見た目はかわいい女の子だけど、実際は俺よりも、じーさんよりも年上。

色々な経験の差がありそうだ。


「わかった。リリアにナイフの使い方を習うよ。ありがとう」

「いえいえ、これも私自身のためでもあります! もう、目の前で……」


 少し悲しそうな表情になるリリア。

俺は、そっとリリアの頭に手を乗せ、優しくなでる。


「大丈夫。俺は強くなって、リリアを守ってみせるよ。いつか、俺が年を取って死ぬまで、一緒にいてくれよな」


 リリアの顔から笑みがこぼれる。


「はい! 明日らか、ビシバシ練習しますよ!」

「よろしくお願いしますね、リリア先生!」


 ナイフの使い方も二人でダンジョンに行くのも初めて。

でも、俺はリリアのため、自分自身の為に強くならなければならない。


 もう、リリアの前で自分の弱さを出すのは嫌だ。

俺が、リリアを守ってやる!

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