第3話 冒険の始まりと出会い 3

 教会に行くよりも先に一度武器屋に寄っていこう。

なけなしのお金を手に握り、ギルドから紹介された武器屋に足を運んでみる。

そこにはナイフやショートソード、盾に鎧。そしてケースに入った魔剣が陳列されている。


 手元のお金は少ない。しかし、武器は必要。

自分に何か買える武器はないか、店の隅から隅まで探して見たが買える武器がない。

手元のお金で買える武器はないのだろうか。

ちらっと視界に入った小箱に目が行く。


「そこはガラクタしかないぞ?」


なんとなく気になって箱を開けてみる。

確かにガラクタしか入っていなさそうだ。

割れた兜に、半壊した鎧。それに折れた剣に錆びだらけのナイフ。


『私を、外に……。お願い……』


ふと、誰もいないのに女の子の声がした。

気のせいか?


箱の中を漁ってみると、さびた黒いナイフが一本目に入った。

なんとなく手に持つと思ったより手に吸い付き、そして温かさを感じた。

なんだこのナイフ?


「おじさん、これは?」

「あぁ、昔有名だった鍛冶師が作ったナイフらしい。だが錆びててヒビも入っている。まともには使えんだろ? 安くするが、どうだい?」


 ボロボロの鞘に錆びてヒビの入った刀身。

よく見ると、刀身の根元に何か文字が打ってある。


――リリア=ヴェトン


 なけなしのお金でナイフを一本購入。

さっきの声は何だったのだろうか。


 ナイフをバッグにしまい込み、教会へ向かう。

そして、ギルドで言われた通り洗礼を受けた。


 淡い光が俺を包み、温かさを感じた。

これが洗礼……。


 目を閉じ、何かが体に入ってくる気がした。

そして、また誰かの声が脳裏に響いてきた。


『魂の、声を、聞く者――』


 魂の声を聞く者? なんだろう。

美しい声、しかしどこか悲しそうな声が響いてきて、そして聞こえなくなってしまった。



 目を開け、目の前にいる司祭の方を見つめる。

この方は男性、さっきの声は女性だった。

いったい誰の声だったんだ?


「これで洗礼は終わりです。アクトさん、命は一つしかありません。くれぐれも無理はしないように」

「わかりました。ありがとうございます」

「さて、神の声は聞こえましたかな?」

「神の声?」

「えぇ。そうですね『魔道を司る者』や『神速の者』、『拳気をまとう者』など、何か声を聞くことはできましたか?」

「はい、声は聞こえましたが、意味がよくわからなく……」


 司祭がゆっくりと俺に向かって歩き始めた。

そして、俺の肩に手を乗せ微笑みながら話し始める。


「それはそれは……。何かしらのスキルですね。きっといつか、アクトさんを導いてくれるでしょう。神に感謝を」

「スキル……。わかりました、今はまだわからないことが多いですが、頑張ります」

「そうそう、スキルについては他言しないように」

「なぜでしょうか?」

「特殊なスキルだと、持っているだけで命がを狙われますぞ?」

「そうなんですか?」

「えぇ、教会でも『神の声を聞く者』『聖女の祝福を受ける者』などを授かっていれば、勧誘していますし」


 どうやらスキルについては話さない方がいい。

まぁ、俺のはよくわからないスキルだったから、狙われることはないと思うけど。


 日も暮れ初め、教会を後にする。

どんなスキルでも俺にはスキルがあった。

素直にうれしい。


 心躍りながら走って宿を目指す。

ナイフはなくしてしまったけど、いいこともあった。

明日から俺の冒険が始まる!

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