第4話 冒険の始まりと出会い 4


 宿に戻った俺は、部屋でナイフをまじまじと見るめる。

さっきの声は何だったのだろうか。

もしかしたらスキルと何か関係があるのか?


 確か『声を聞く』とか言っていたしな。


 とりあえず明日の為に、このナイフを使えるようにしないと。

刀身を鞘から出し、天井に向けて眺めてみる。

錆びだらけ、でも刀身はしっかりしている気がした。

手入れ、してみるか……。


『名前を……。私の、名前を……』


 誰もいない部屋なのに声が聞こえる。

部屋を見渡しても、誰もいない。空耳、ではないよね?


「誰? いったいどこに?」


 部屋を見渡してもやはり誰もいない。

おかしい、確かに声が聞こえたのに。


『名前を……。私の、名前を、呼んで……。私の、名前は――』


 握ったナイフに目を移し、刀身を眺める。

そして、刀身にあった文字を声に出してみた。


「リリア?」

『そう、私はリリア。名工ヴェトンが作りし、漆黒のナイフ。そして、ナイフに宿る一つの魂』

「名工ヴェトン? 一つの魂?」

『初めにお礼を。あそこから連れ出してくれてありがとう。助かりました』


 ナイフを見ながら話す俺は、内心焦っている。

今までいろいろな人と話したことがあるが、ナイフは初めてだ。


「えっと、どういたしまして? ところでなんであんな所にいたの? ヴェトンって誰? あと、魂って何?」


 俺は手に持ったナイフを眺めながら、リリアと名乗るナイフと話をした。

何十年も昔、ヴェトンって鍛冶師がリリアを作った事。

そして、ヴェトンって人が亡くなってから、多くの人の手に渡り、最後にさっきの武器屋に流れ着いたこと。


 リリアはずっとナイフの中で外を見てきた。

一本のナイフとして使われ、時にはモンスターを、時には人を。

たまに果物や肉も切ってきたことを話してくれた。


 武器に宿る魂。

ヴェトンさんって人が作った武器に魂が宿ったってことなのだろうか。


「――で、今は俺の手にリリアがいるんだね」

『はい。私の声が届く方は初めてですね』

「そっか。えっと、あのさ。俺、武器を無くして、今リリアしか武器がないんだけど、使っていいかな?」

『もちろんですよ。私はナイフ。アクト様に一本のナイフとして使っていただきたいです』

「そっか。それはよかった。リリアは今錆びているし、少しヒビも入っているんだけど、どうやったら直せるかな?」


 刀身は黒く、きっと昔はいいナイフだった気がする。

今では錆びにヒビ、いろいろとナイフとしての機能がなくなっていが、何とかなるかな?


『錆びは磨いていただければ何とか。刀身のヒビは魔石を吸収すれば徐々に治るかと……』

「魔石を吸収?」

『はい。魔石を剣先で砕いていただければ、そのまま吸収できますので……』

「わかった。今夜磨いてみて、明日はダンジョンで魔石を回収しよう」

『ありがとうございます。私もアクト様と一緒に頑張らせていただきますね』


 俺はまだパーティーを汲んでいない。

一人でダンジョンへ潜ることになっていたけど、リリアと一緒なら少し楽しい冒険になりそうだ。

なんとなくそんな予感がした。




 深夜。誰もが寝静まり、闇に覆われる。

一軒の宿屋、その一部屋にはまだうっすらと明かりがついている。


『んっんっんっんっ……。そこ、いいです……。ア、アクト様ぁ……』


 俺は一言も声を出さずに、黙々と作業をしている。


『な、なんで無言なんですか? アクト様ぁ』

「声を出さないでくれ。集中できない」


 ナイフを手にとり、ひたすら研磨。

少しづつ錆びが落ちてきて、刀身がやっと見えてきた。


 薄明りの中、手に握ったナイフを手に取り、じっと眺める。

そろそろ大丈夫かな?


「リリアって、ほぼ真っ黒なんだな」

『そんなに私の事を見つめて……』

「よし、出来上がり! あとは明日ダンジョンで魔石を――」


 深夜作業も終わった。

明日、魔石を回収してリリアを直さないと。


『アクト様……。もぅ、終わりですか?』

「終わり。疲れた、これで十分だろ?」

『また、私を磨いてくれますか?』

「いいよ、また時間作って磨いてあげるよ」

『約束ですよ。約束!』

「あぁ、約束だ。明日も早いから、早く寝よう」


 新しい仲間と、一緒の冒険。

これからよろしくな、リリア。

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