第8話 裏山の怪その1

俺の通っている東ケ丘高等学校。

その高校で2年連続で同じクラスになり、趣味も似通っている細田春彦という友人がいる。


そいつは少し変わっていて変な冗談を言うキャラではないのに突然、「子供の泣く声がする」だの、「天井裏から赤ん坊の足が突き出ている」だの言う、いわゆる幽霊(?)が見える人、らしい。


細田がそういう霊的なものを見たり聞いたりしているとき、隣に俺もいるのだけど特に何か見えたり聞こえたりすることはない。 


それでも、別に俺と細田の友情に変わる所はなかった。

ーーーーそんなある日の放課後。



授業が終わり皆帰ってしまった教室で、二人でダラダラとゲームやアニメの話を続けていると、

「おい、さっきから女の声が聞こえないか?」


「…えっ?別に俺には何も聞こえないけど…。」


「…何か弱々しい声でこっちに来いって言ってる……。」


「……お前、まさか行く気じゃないだろうな?」


「だってなんとも言えない哀れな声で懇願してくるから、何か気になるよ…。」


そう言って、細田はフラッと教室から出ていく。慌てて俺もその後を追いかけた。



……細田は学校の裏側にある山へとどんどん分け入っていく。


「ちょ、お前待てって…!!」

思わず声を掛けるけど、全くこちらを気にする様子はない。


俺は細田の前まで回り込んで、

「おいって!!」と肩に両手をかけて揺さぶった。それまで、どこか虚ろだった眼鏡の奥の瞳に生気が戻る。


「……あれ?ここどこだい?」


「お前、何も覚えてないのかよ?」


「…えっ?僕何かしたの?」


「教室で話してたら突然女の声が聞こえるとか言って、ここまでガンガン進んできただろ?」


「そ、そうなのか…。……ごめん。全く覚えてない…。」


……もう辺りはだいぶ暗くなってきている。早く下まで降りないと厄介なことになりそうだ。

「おい!取り敢えずとっとと下まで戻ろうぜ!」

そう言って二人で来た道を引き返していく。


その途中で、

「……ああ、僕を呼んでる…。早く行かないと……。」

と、また虚ろな瞳でうわ言のように細田が繰り返した。


「ちょっ、おい細田!!」また両手を肩にかけて呼び掛けるけど細田の目は虚ろなままだ。


……ホウーーッ!ホウーーツ!ホウーーッ!

どこか離れた所からフクロウだろうか?鳥の鳴く声がする。


「……母さん、今そっちに行くからね…。」

うわ言を繰り返して、細田が俺の手を振りほどき、なおも山の奥へと入っていく。


「おい!!お前いい加減にしろよ!!」

走って追いかけようとしたとき、何かに足がつまづいて俺は山の斜面を転がっていった。



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