第37話 ゲーム大会
「これしかない!!!」
「ひっ……!」
氷菓は氷菓の圧に怯える星佳が手に持つトランプ二枚のうち、一枚を引き抜く。
「さあこれで私のターンが――……」
氷菓が引き抜いたのはどうやらお目当てのカードじゃなかったらしい。
ここまで露骨に顔に出る奴も珍しいな。
氷菓は下唇を突き出し、露骨にがっかりした様子で肩を落とす。
「あっ、私上がりです」
「うっそーすごーい!」
星佳が陽から引いたカードで、星佳は最後のペアが揃い、一位で上がる。
「なー! いつの間に……!」
「じゃあ私も引こうっと……やった、私もあがり!」
「お、やるな」
次は俺から引いた陽が、最後のペアを揃えて上がる。
そして残されたのは俺と氷菓。
「……なんか不本意なんだけど」
「なんでだよ」
「私は星佳ちゃんと戦いにきたんですけど」
「今見事に負けただろ」
「…………さっさと上がって次のゲーム行くわよ、さっさと引いて」
「ったく……。じゃあ――」
と俺がカードを引こうとしたとき、氷菓持つ右側のカードが異様に上にせりあがる。
「氷菓?」
「……好きな方引きなさい」
「心理戦かよ」
「負けないわよ」
「じゃあ出っ張ってる方を」
と、俺が手を出すと、氷菓はそのカードを引っ込めて、もう片方を突き出してくる。
わかりやす!!
完全に左のカードがジョーカーだろ。
俺は問答無用で右のカードを掴む。
「あぁ!! やめて!」
「うるせえ! 頂く!」
ばっと右のカードを引き抜く。
ハートの9。俺の持っているカードとペアとなるカードだ。
「あがりー!」
「うわああああ!」
「氷菓弱いね~」
「うぅ……」
「人を騙せないタイプなんですね」
「いい風に言わないで……」
氷菓は落ち込んだ様子でトランプを投げやりにポイと捨てる。
「ていうか、星佳はトランプ強いねー」
「そ、そうですかね?」
「ババ抜きで3戦3勝って、なかなかだよ」
「えへへ……ゲームだけが取り柄ですから」
実際星佳のゲームセンスは凄いものがある。さすがRyuseiだけある。まさかリアルのゲームにも才能があるとは。トランプなんて運もあるのに。
すると、氷菓はバッとトランプをかき集める。
「次は大富豪よ! 私大富豪得意だから!」
そう言い、氷菓はカードを配りだす。
「大富豪は私も得意だよ氷菓ちゃん!」
「だまらっしゃい!」
「あはは、なんか戦闘モードだね氷菓」
「絶対勝つ!」
そうしてカードが全て配り終わると、さっく大富豪が始まる。
◇ ◇ ◇
「負けたあああ」
氷菓はだらっとベッドに横たわり、嘆くようにして布団に顔を埋める。
辞めろ、布団にいい匂いが付くだろうが! 寝るときドキドキしたらどうすんの。
いいぞもっとやれ。
「大富豪強いんじゃなかったの~氷菓」
「強いと思ってた時期がありました」
「にしても、相変わらず星佳は強いねえ。大富豪も強かったし、その後やった7並べも神経衰弱も強かったね」
「えへへ。ポーカーとかも結構やるから得意だよ」
「すげえな。さすがゲーマー」
「ふふふ、ゲームはデジタルだけじゃないからね! 対戦は絶対負けたくないから!」
と、星佳はぐいっと両腕を上げる。
「そういえば、俺を掛けて勝負だ!! って陽が言ってたけど、なんだったんだ?」
「そう言えば私もよくわからなかったです……」
「言わせるなー!」
と、氷菓は布団に顔を埋めいう。
「いやー、ほら、多分伊織が星佳とゲームの話題で盛り上がってるから寂しくなったのかと思ってさ。軽く嫉妬してるのかなあって思って」
「うわあああああ!」
氷菓は俺の声をかき消そうと、大声を張り上げる。
「図星っぽいな」
「まあ幼馴染だからねえ、さすがにそう思っちゃうのも無理はないかも」
「うわああ……」
氷菓はじたばたと足を動かして悶える。
「ま、まあもう止めておいてやれよ、氷菓が死んじまう」
「…………」
「あはは、ごめんごめん。で、どうしよう、伊織をかけてたけど……」
「わ、私は別に伊織先輩とゲームの話出来ればそれで別に……」
「だそうだよ、氷菓」
「……わかってるわよ」
と、氷菓はむくっと起き上がる。
「私もゲーム覚える」
「まじか」
「氷菓ちゃん! 一緒に遊ぼう!」
と星佳は嬉しそうに氷菓に駆け寄る。
「私友達少ないから……氷菓ちゃんが良ければだけど」
と、星佳は悲しそうな顔で上目図解で氷菓を見上げる。
「ああもう!」
氷菓はぎゅっと星佳に抱き着く。
「友達だよ! 一緒にゲームしよ!」
「うん!」
なんだなんだ……まったく。
よく分からないけど……二人の仲が深まったならいいか。
「ゲーム教えてね、星佳ちゃん。私も強くなりたいから」
「うん、任せて!」
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