第36話 雨夜陽は取り出す

「お、お兄ちゃんこれは……!?」


 瑠香は、唖然とした表情で俺達を見る。


「やっほー、瑠香ちゃん!」

「お邪魔するね、瑠香ちゃん」

「お、お邪魔……します……」


 目の前には三人の美少女。

 堂々と我が家の様に乗り込んでくる陽、どこか臨戦態勢な様子の氷菓、そしてどぎまぎしてきょどっている星佳。


 瑠香はぐいっと俺を部屋に引き釣り込むと、顔面を近づける。


「ちょっと、ちょっとちょっとちょっと! お兄ちゃん!?」

「いてえ! な、何だ妹よ」

「どういうこと!? 氷菓ちゃんはまだいいとして、陽さんと、さらにもう一人美少女追加ですか!?」


 瑠香の目が、ギンギンに鋭くなっている。


「何したの!? 弱み握った!? あんなか弱そうな女の子に!?」

「なんでそんな俺が悪人前提なんだ……」

「だってお兄ちゃんだよ!? 引きこもりコミュ障のお兄ちゃんだよ!? ハーレム築ける訳ないじゃん!」


 と、捲し立てる瑠香。


 そんな言い方あるかい!

 と、普通の「お兄ちゃん」なら突っ込むところだが、あいにく俺は妹を全肯定している。というか、否定できない正論すぎて受け入れざるを得ない。


 俺は渋い顔で、ぐわんぐわんと俺の首を揺らす瑠香の話を静かに聞き入れる。


「誰なのあの人!?」


 やっと、瑠香が本題に入る。


「えーっと、ゲーム仲間と言うか……」

「出会い厨!?」

「いや、ちげーよ! たまたま同じ学校だったというか……」

「都合よすぎる偶然……」

「しょうがないだろ、事実なんだから」

「ふーん……」


 そう言いながら、瑠香はドアからそっと玄関の方を見る。


 瑠香の視線には、おどおどしている星佳がしっかりと映る。


「やっぱり可愛い……」


 瑠香はしみじみとそう口を零す。


「何でお兄ちゃんの周りにこんなに美少女が集まってくるのか」

「妹も可愛いしな」

「……まあ脅して連れてきたんじゃないならいいけど……」

「それはねえよ」

「なら……チャンスだよお兄ちゃん」

「チャンス?」


 瑠香は大きく頷く。


「今ならより取り見取り! 美少女三人セット! 彼女作るなら今しかない! ラストチャンス!」

「いや、あの三人はそういうんじゃないから」

「はああ……」


 と、瑠香の大きなため息。

 そんなに溜息吐かれるとお兄ちゃん傷つくんですけど。


「そんなんだからいつまでたっても彼女できないんだよ」

「いや、俺が引きこもりコミュ障だからできないんだよ」

「うわ、私の罵倒を自分で言い直さないでよ……まあいいけど。せっかく私に似て顔は悪くないのに」


 普通兄が妹に俺に似てって言うんじゃないですかね。まあいいんですけど。


「こんなこと滅多にないんだから、ちゃんともてなしてあげなよ」

「わかってるよ」


 そうして、瑠香は三人に挨拶すると、そっと自分の部屋へと戻って行く。

 出来た妹だ。まったく。


「か、可愛い妹さんだね」

「だろ?」

「でたシスコン」

「うるせえ」

「あはは。前話してくれてた子だよね? 可愛い妹がいるって」

「ゲーム内でも言ってたんかい」

「いいだろうが!」


 玄関でわーきゃー話、俺たちは階段を上がり部屋へと向かう。


 目の前には、制服姿の三人のスカートがヒラヒラと舞う。思わず視線が吸い寄せられる。


「ちょ、見ないでよ伊織!」

「み、見てねえ!」

「えー私は別にいいよ?」


 そういい、陽はちらっとスカートをたくし上げて見せる。


「わーやめろ! あとで金請求する気か!」

「しないのに」

「いいから部屋行くぞ!」


 まったく、心臓が持たん……陽はちょっと奔放過ぎるぞ。

 隣の星佳が唖然とした表情で固まっている。刺激が強すぎだ。


 あくまで紳士的に……だめだ、誘惑に負けては……!


 そうして俺の部屋に入ると、各々好きなところに座る。

 氷菓と陽は慣れたものだが、星佳は何処に座ったものかとおろおろしている。


「そこ座ってていいぞ」

「う、うん、ありがとう。わ、これがクロ――伊織先輩の部屋かあ。やっぱりゲームも沢山あるね。あ、私とずっとオンラインプレイしてたタイトルだ」

「懐かしいな」

「うん! 楽しかったよねえ」

「ああ。ちょっと飲み物とか持ってくるから待っててくれ」


 そう言い、俺は下から飲み物と軽いお菓子を持ってくると、テーブルに並べる。

 

 それにしても、瑠香の言う通り確かに凄い光景だ。


 学校の美少女ツートップの氷菓と陽に、後輩でちょっと地味だが明らかに美少女の素養を持つ星佳。


 こんな三人が揃う家が、まさか陰キャコミュ障の男の部屋だとは、この世の誰も思わないだろう。なんだか申し訳なくなってくるな。


 そうして俺はゲーム機を用意し、ソフトを探している。


「ちょっと待ってよ伊織」

「ん? どうした」

「ゲームやるんだよ!」

「? だから探してるんだが」


 すると、陽はちっちっちと指を左右に振る。


「ゲームと言えば――これでしょ!」


 そう言い、陽は背負ってきたバッグから一つのアイテムを取り出す。

 それは――。


「ト……トランプ!?」

「そう! 古今東西、ゲームと言えばトランプ! これで勝負だ!」

「へえ、陽なかなかいい提案ね。それなら私にも勝ち目があるわ」


 と、ノリノリの氷菓。


「いいのかよ、星佳」

「もちろん! トランプも立派なゲーム。私負けないよ!」

「いいならいいんだが」


 完全にテレビゲームだと思ってたわ。 

 まあ確かに陽が最近のゲームをするイメージ湧かないわ。クラウドナイツは付き合ってくれたが、あれ以来殆どやってないみたいだし。


「じゃあ始めるわよ。トランプバトル、開始!」

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