第35話 東雲氷菓は頬を膨らませる
「あのゲームやったよ! 本当鬼畜ゲーだよな」
「そうですそうです! ノーダメ縛りで全クリするまでに三日かかっちゃいました……」
「そうそう、ノーダ――ノーダメ!?」
「あれ、ノーダメ縛りやらなかったんですか?」
「無理無理、俺のような凡百のゲーマーにはそんな高難度なことは無理だ……。さすがRyuseiだな……」
こうゲームの上手いエピソードを聞くと、改めて星佳がRyuseiであることを再認識する。見た目は小さくて可愛らしい女の子だが、ゲームの中では重厚な鎧を身に纏った屈強なプレイヤーなのだ。
「そりゃそうですよ! ……いやあでも、実際に話せるなんて夢見たいです」
「そうか?」
「はい! 学校でも美少女と名高い氷菓ちゃんに、全身コーディネートして貰ってから会おうと思ってましたから……引き合わせてくれた氷菓ちゃんには感謝してます!」
そう言って、星佳は俺の奥に座る氷菓に満面の笑みで頭を下げる。
「そ、そう。そりゃ良かったわね」
「はい!」
うーん、何という温度差。
氷菓はここ最近調子がおかしい。星佳と会うまではノリノリだったのに、あの日以来何だかどこか距離感がバグっている。
朝迎えにきたのもそうだし、今のこのお昼だって、氷菓から一緒に食べようと誘ってきたのだ。まあ、その途中で星佳に会って、結局三人で食べることになった。
「でよ、今度発売のさあ――」
「うんうん! RPGね。ダークファンタジーで――」
「そういや新しい格ゲーが――」
「すごい! PLLも確か来週に――」
「最近は殆どデジタルでしか買ってないな――」
「そういえば私のランクが――」
「ねえ!!」
と、不意に氷菓の大きな声が俺達の話をピタリと止める。
「ど、どうしたの氷菓ちゃん……?」
星佳は大きな声にびっくりしてオドオドした様子で氷菓の方を見る。
俺も同様にそちらへ顔を向ける。
「ど、どうしたと言うか……」
氷菓はいつになく焦った様子で、声をだしながら必死に言葉を探しているようだった。
「どうしたよ?」
「あーっと……ほら、私もクラウドナイツやってるしさ」
「そういえば! 氷菓ちゃん上手だよね」
「え、そう? 私って才能ある?」
「うん!」
氷菓はまんざらでもない様子で笑う。
「あ、そういえば新ジョブしってる!? ネクロマンサー!」
「見たみた! カッコいいよなあ。でもちょっと俺の戦闘スタイルと合わないというか……星佳もだろ?」
「そうなんだよね。だからサブ垢作ろうかなって」
「ガチ勢かよ……」
「えへへ、ゲーマーですから」
と、星佳は楽しそうに言う。
これが保健室で叫んでいた女の子だろうか? 全然中身はRyuseiじゃないか。
ゲーム友達であり、そして妹のような存在。趣味を分かち合えるというのはこんなに楽しい者なのかと俺は再認識する。
はあ、これが友達か。これよこれ、俺が求めていたものは。後輩だが、そんなの関係ねえ。好きなことを好きなように話せる! それが大事!
「うぅぅ……」
「?」
ふと後ろを振り向くと、氷菓がぷくっと頬を膨らませ、少し怒った様子で声を漏らしている。
え、何!? 何事!?
「な、え、ひょ、氷菓さん……?」
「うぅぅ……! うがあああ!」
そう言い、氷菓はぐいっと俺のほっぺたを両手で挟み、ぐにっと潰してくる。
「な、なんですか……」
「何でもない!」
「絶対何でもなくないじゃん……」
「うう!!」
なんだ、幼児退行してやがる……。
「か、顔から手を離せ」
「うん……」
「どうしたよ」
「ゲームの話ばっか」
「あぁー悪い」
「ご、ごめんね氷菓ちゃん! 私つい伊織先輩と話すの楽しくって……」
星佳は目をぎゅっと瞑り、両手を合わせて謝る。
「そ、そんな謝らないでよ」
「いや、悪い悪い、つい嬉しくて話し込んじまった。三人で飯食ってるしな、のけ者にしちゃだめだよな」
「誰がのけ者よ!」
「めんどくせえ!」
「うるさい!」
「まあまあ、静まりなさいお二人さん」
そう言いながら、俺と氷菓に後ろから抱き着いてきたのは――
「陽! なんか久しぶりだな」
「よ、陽先輩……!」
星佳はあわあわと唖然とした表情を浮かべる。
「話は聞いたよ、伊織!」
「何がだ」
「氷菓は嫉妬してるんだよ!」
「してなああああい!」
陽の発言に、氷菓は全力で否定する。
そりゃそうだ、あの氷菓だぞ? 何を嫉妬するってんだ。訳わかんねえ。
「ええー。何だか楽しそうな雰囲気を察してきたんだけど」
「何が楽しそうよ!」
「星佳ちゃんだっけ? ゲーム得意なんでしょ?」
「え、ええまあ……」
「じゃあ……伊織の家でゲーム大会しましょ!! 伊織をかけて勝負だ!」
「「はああ!?」」
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