第28話 東雲氷菓とフレンド登録

 俺は放課後の学校に残り、例の図書室裏のベンチに腰を下ろす。


 昨日は氷菓と陽の二人にゲームを教えるという結構な一大イベントだった。陽はいろんなものに手を出すイメージがあるから気にはならなかったが、氷菓の方は正直予想外だった。


 氷菓なら「なにこれ、ゲーム? 課金して強くなるだけでしょ? 時間の無駄じゃない?」とか言いそうなものだったが……。


 思いの外ゲームに興味があったようだ。確かに小さい頃は良く一緒にゲームをやったりして遊んだりもしたっけ。モンスターを交換したり戦わせたりして遊んだな。


 そしてどうやらゲームがかなり気に入ったのか、こうして俺は放課後何故かこのベンチに呼ばれたのだ。「今日は家にお母さんがいるから……仕方ないから学校で少し教えてよ」ということだった。


 陽は友達と遊ぶと昨日言っていたから来ることはなく、二人っきりだ。


 離れててもゲーム出来るんでしょ? とか言ってたのに直接教わりたいというのはどういうことなのだろうか。まあ機械音痴だしな、オンラインで一緒にプレイする方法は直接教えてもらいたいのかもしれない。何となく家が隣なのに通話して教えるというのも考えてみれば違和感がないではない。


 何はともあれゲーム仲間が増えてホクホクな訳だが、一つの気がかりなことがあった。それは、昨日の流星からのメッセージ。


 結論から言おう。流星は、どうやらうちの学校に通っているらしい。


 そんなばかな! そんな展開があるか! ……と、言いたくなる気持ちもわかる。だが信じて欲しい。俺だって理解が追い付かない。


 "クラウドナイツ"を始める前からのフレンドで、基本はゲーム内チャットでのやり取り。オンラインのゲームってのはただ誰かとチャットしたいだけの奴だったり、ライト層が多い中、流星は立派な効率厨だった。ほんっっのわずかな性能差でもかっこいい装備よりクソダサい装備を着るという徹底っぷり。


 そうして何個かのゲームを一緒にやるうちに、俺達は結構歴の長いフレンドとなっていた。お互いが同じ地域に住んでいるという情報までは知っていたのだが、きっかけがなくそれ以上は進展していなかった。もしかしたらすれ違ってるかもな、なんて話して盛り上がることもあった。


 だが、とうとうその"きっかけ"が訪れた。


『YouとiCeを知っている』


 なんと、流星は俺と同じ地域、そしてYouとiCeという名前でピンときたようなのだ。


 最近転校してきて学校中で美人だと噂になっていた陽。

 元から美少女が入学してきたと話題になっていた氷菓。


 同じ地域、そしてYou=陽、iCe=氷菓とわかりやすいプレイヤー名。これだけではわかる訳はないのだが、この二人を連れてきた俺は流星と同じ地域に住んでいる。流星の中で知っている二人と、俺と同じ地域という事実が、流星に答えをもたらした。


「多分、俺と同じ学校ですよ」


 まさかのカミングアウト――というより推理だ。陽と氷菓は流星の学校にいる美少女の名前。その二人と俺はリアルの知り合い。そして俺と流星は同じ地域。つまり、俺達四人は全員同じ学校にいる……と、流星は気が付いたらしい。


 俺と流星はお互いの知っている情報を初めて詳細に出し合い、答え合わせをした。学校名、地域名、学校の先生の名前などなど……。


 その結果、俺と流星は同じ学校だと完全に判明したのだ。


 歳は一個下だから恐らく後輩だろう。すれ違ってるかも、なんて話していたが、確実にすれ違っている。しかも校内で……!


 何だか不思議な気分だ。陽や氷菓がゲームをやりたいなどと言わなければこんなことは起こらなかっただろう。今までそんなそぶりはなかったのだから。


 氷菓と陽の顔は知ってるだろうから……もし流星が二人目当てで答え合わせをしてきたのだとしたら……。


 俺はブンブンと頭を振る。


 いやいや、そんな訳ないない。あいつは効率厨の武骨な男だ。ゲーム内でも女キャラの人と話しているのも見たことは無い。個人チャットしてたらあれだが……。


 ただ……もしめっちゃイケメンのチャラ男だったらどうしよう……。

 何かの拍子に顔合わせして、もしそんなだったら……。


 ――と、その時。かさっと俺の背後から音がする。


「うおっ!? な、何事ですか!?」

「あはは、何びっくりしてるのよ。眉間に皺寄ってたわよ」


 背後から近づいてきたのは、楽しそうな笑みを浮かべる氷菓だった。

 人を驚かせて楽しそうにしてるとか怖いんですけど。


「氷菓かよ……びびらせるなよ……」

「何こんな昼間からびびってるのよ」


 氷菓は不思議そうな顔をしながら俺の横に腰を下ろす。


「いろいろ考え事してたんだよ」

「ここから見える上の階の女の子のスカートでも覗いてたの?」

「してねえ! つうか見えねえだろこの角度!」

「見ようとしたことはあるのね……きも」

「うるせえ……そ、それよりゲームやるんだろ!」


 氷菓は、はいはいと言いながらスマホを取り出し、ゲームを起動する。


「今日は陽はいないみたいね……。ふ、二人っきりとか予想外なんだけど」

「はあ? 昨日今日はいないって言ってただろ。忘れたのかよ」

「あーそ、そうだったわね! 忘れてないわよ、もちろん。うん」


 氷菓は焦った様子でゲームに視線を戻す。

 何か変な様子だな……まあいいけど。


「じゃあマルチプレイするからフレンド欄見せてくれよ」

「うん。はい」


 氷菓はスマホの画面を俺の方に向ける。


「ここから――ってあれ、Ryusei……?」

「あぁ、昨日フレンド依頼? ってのが来たんだよねあの後。良く分からないから許可しちゃった」

「えっ……」


 おいおいおい、まじか流星。本当に狙ってるのかこの二人を……!?

 ……いやいや、慌てるな。一緒に遊んだプレイヤーとフレンドになるとか不思議じゃねえだろ。それも俺のフレンドだ。――いやでも、あいつフレンド登録とか気軽にするやつじゃねえし……。


 いやいや!! つーか別に流星が二人狙ってたとしても別に気にする必要ねえだろ! 普通に友達になればいいじゃねえか! 何で俺が動揺してるんだよ!


「どうしたの? 何かまずかった?」

「い……いや、別に問題はねえよ」

「そう? じゃあやりましょ」

「あ、あぁ」

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