第27話 ゲームと幼馴染

 氷菓の部屋に通してもらい、俺達は床に座る。


「雨夜さんもゲームに興味とかあったんだね……」


 氷菓はいじけた顔でそう陽に問いかける。


「ん? いやあ、ゲームにはあんまり興味ないけど、最近伊織と遊ぶ時間とれないからさあ、せめてゲームなら離れてても遊べるかなって」

「…………素直過ぎるでしょ……」

「? なんで?」


 氷菓は大きくため息をつく。


「なんでもないわよ……で、そのクラウドなんちゃらってどういうゲームなの?」

「おう! これはな、最大4人パーティで出来るマルチプレイのRPGゲームだ」

「RPG……?」

「ロールプレイングゲームな。まあ、どっちかって言うとアクションRPGだけど」


 しかし、氷菓と陽は良く分からないと言った様子でぽかーんとした顔をしている。


「……まあとにかくやってみればわかる。とりあえずインストールしてみろよ」

「わかったわ。……へえ、ストアで7位だって。結構人気あるんだ」

「わーすごい。やっぱどうせやるなら人気あるゲームだよねえ。活気があるし」

「陽……お前意外と現金な奴だな……まあ気持ちはわかるが」


 そうして陽と氷菓にもゲームをインストールさせ、チュートリアルを進めさせる。


 パーティを組めるようになるのはレベルが7になってから。

 このゲームはリセマラ要素がないのが売りの一つでもある。課金もそこまで必要ではなく、俺のような苦学生にもやさしい。そして何より、今の時代を象徴すると言うべきか、同じデータを使ってPCとマルチでプレイすることができるのだ。


 外ではスマホ、家ではPC、といった具合に、環境に見合った端末でのプレイが可能なのだ。


 そんなこんなで二人のゲームを後ろからあーだこーだ言いながら進めさせる。


「私格闘家!! これがいい! 服が可愛い!」

「私は回復師? かなあ。後ろで回復してるだけとか楽そうだし」

「ほう、いいじゃないか。俺はもちろん剣士だぜ」


 すると、二人の視線が俺を突き刺す。


「なんか伊織は剣士ってよりこの盗賊ってのが似合ってそうだけどね」

「あはは、そうだね! 遠くから弓でチクチクするの凄い向いてそう」

「舐めてんのかお前ら」


 言われなくてもわかってますよ!!

 ゲームの中でくらいカッコいい恰好させてくれ!!


「……でだ、このゲームはストーリーも売りだからスキップとかは止めておけよ。多分お前ら一章で泣くぞ」

「え~そうなの? 私お涙頂戴系とか苦手なんだけど」

「安心しろ、俺もその口だが、一章をクリアした日は号泣した」

「ふーん……」


 そうこうしているうちにゲームも進み、やっとパーティが組めるようになる。

 俺のパーティに陽と氷菓を招待する。


「YouとiCeか……おしゃれだななんか」

「い、いいでしょ!? 可愛いじゃんiCe!」

「私は名前そのままだけどねえ。伊織は――……BlackKnight……」

「……名前は気にするな。名前を気にしてもいいことは無い」

「……痛いわ……」

「痛いね……」


 二人の憐れむような視線が突き刺さる。


「いいだろうが!! ゲームってのはこういうもんなんだよ!! お前らももっと自分の心を発散しろよ! 洒落やがって!!」

「そんなこと言ってもゲームとかよくわかんないし……黒騎士さんに教えて貰わないと」

「お前ぶっ飛ばすぞ!?」

「いやーんこわーい」


 すると、ピコン! っとゲームの通知音が鳴る。


「あれ、パーティに知らない人入ってきたけど?」

「Ryusei……だって。誰だろうこれ」

「あーこれは俺のゲーム仲間だよ。ゲームの中だけの友達」

「「え!?」」


 同時に二人が声をそろえる。


「え……? 何、驚くところ?」

「いや、リアルには友達の居ない伊織にゲーム仲間は居るんだなって……」

「ご、ごめん。つい私も驚いちゃった」

「わかってるよ、俺は一人が板についてるからな。流星は結構前からゲームでフレンドだったんだよ。このゲームも一緒に始めた」

「へえ~、なかなかの聖人ねそれは。伊織と一緒に長年ゲームができる何て」

「うるせえ。……まあ、すぐ人見知りする俺に根気よく付き合ってくれてるだけでも確かに聖人だけどな」

「ふーん……フレンドねえ。そう言う関係もあるのね」


 そうして俺と氷菓、陽、流星の四人で(まあ流星はオンラインだからこの場には居ないが)ゲームを進めた。


 初見では手こずるようなギミックや敵も俺たちが上手くサポートし、どんどん二人のレベルや装備が強くなっていく。


 ゲームは苦手と言っていた二人だったが、比較的操作が楽なゲームということもありサクサクと進めた。


◇ ◇ ◇


「んあ~! 疲れた!」

「だねー。こんなにスマホの画面見たの初めてかも」

「面白いだろ?」

「意外と面白い……かも」

「面白い!」

「一人でやるのはちょっとあれだけど、こうやって雨夜さんとか伊織と一緒にワーワー言いながらやるのは意外と楽しいかもしれないわ」


 そう言って氷菓はふふっと笑みをこぼす。


「その意見には賛成だけど――」


 っと、陽が氷菓の方へずいと寄る。


「な、何!?」

「氷菓ちゃんさあ……私のことそろそろ名前で呼ばない?」

「ええ!? 名前って……」

「陽でいいよ、陽で!」

「うーん……」


 そういや何で氷菓は陽のこと苗字呼びだったんだろうな。

 一ノ瀬さんだって梓って呼んでるし、俺のことも伊織だし。基本下の名前で呼ぶことに抵抗はないはずなんだが。


 何か上の名前で呼ぶ理由でもあったんだろうか。


 少しして、陽の圧に負けた氷菓が大きくため息をつく。


「――わかったわかったわよ。今度から陽って呼ぶわ」

「わーいやったー! よろしくね氷菓ちゃん!」

「はいはい、よろしくね」


 こうして、ゲームを教える会は、何故だか氷菓と陽の距離が縮まって幕を閉じた。


 まあ結果として二人が仲よくなったなら良しとするか……。


 二人ともゲームに興味を持ってくれたのは良かったし。もし続けるならまた一緒にやりてえな。……まあ、人に勧められたものって言うのはゲームに限らずその場限りになるっていうのは良くあることだからな……。


 と、そんな悲しいことを考えながら俺は自分の部屋でPCを付け、"クラウドナイツ"を起動する。


「さて、デイリーでもやるか――」


 とその時、個人チャットが届く。


「? だれだ……あぁ、流星か」


 そのメッセージにはこう書かれていた。


「"YouとiCeって……俺知ってるかも"」

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