11章 悪女の裏側

第103話 私達、恋人同士でしょ?

「……ヒツジくーん?」


 ……ん?


「ありゃ。まだ、寝てるかぁ……」


 浅い眠りの中で、シアが俺を起こす声が聞こえた。

 だが、気のせいに違いない。


 明宮とのすれ違いを解消させ、また俺とシアはいつもの二人の日常へと戻っている。朝が弱いシアは毎日のように寝坊をして、俺に揺り起こされていた。

 二人で生活を始めて、シアが先に起きた日は一日たりともない。

 つまり、ことはありえない話だ。


「んー……寝てる、ということは……ふふふ♪」


 だとしたら、これは夢?

 夢だとしたら、やけにリアルで――


「――ちゅっ♪」


「っ!!??」


 飛び起きる。


「おっとっ。わー……効果てきめん♪」

「え、え、え……?」


 かたわらに目を丸くしつつも、楽しげな顔をシアがいる。

 急に起きた俺を避けたのか、体を反らしている。

 でも、すぐに俺の顔を覗き込んできた。


「おはようっ、ヒツジくん♪」

「お、おはよう……え? いや、シア?」

「うん、どーしたの?」


 いくつもの疑問が湧いては消え、湧いては消える。


「えっと、シアが起こした?」

「うん?」

「でも、今のって……」


 唇を押さえる。

 かつて一度だけあった、忘れられるはずのない、柔らかな感触は――


「そりゃ、起こすならキスと相場が決まってるでしょ?」


 自身の唇を人差し指で撫でながら、さも当然と言った様子でシアがウインク。


「やっぱり!? な、なんで?」

「なんでって……あっ、そっか。寝てる時にされるの嫌だった? それならヒツジくんからする?」


 言うやいなや、シアが両目を閉じて唇を突き出してくる。


「いつでもどうぞー。んん~~~~っ♪」

「いやいやいや、なんで突然……?」


 バクバクと鳴る心臓を押さえつつも、シアを止めれば「あら残念」とおかしそうに笑いながら、キスを止める。


「突然ってほどじゃないと思うなぁ。前にもキスしたことあるし」

「いや、けど……」

「それに私達、恋人同士でしょ。キスしたいに決まってるじゃない」

「あ……え……うん、はぁ……」


 イタズラっぽく笑うシアに、こちらも曖昧に頷くことしかできない。


 明宮との気持ちの整理をつける中で、俺はシアに気持ちを伝えた。

 となれば、俺達は名実ともに“恋人”なのだろう。


「それに、キスしたら一発で起きたんだから。こんな効果バツグンのこと、しちゃうに決まってる」

「起き……――ってそうだ! なんでシア、起きてるんだ?」

「朝になったから」

「その朝に、ずっと起きてなかっただろ! 本当にシアなのか? どう考えたって俺は今、夢を見てる……そうに違いない……」

「わー……けっこう失礼なこと言ってない?」

「いや、寝坊し続けていたシアを見てればこうもなる」

「あはは……それもそうか」


 さすがに寝起きが悪いことを認めるしかないようで苦笑い。


「でもね。今日は早く起きちゃうの」

「今日って……」


 4月の終わり――


「そうっ! ヒツジくんと一緒に過ごせるゴールデンウィークなんだからっ!」


 両手を広げて、いっぱいの笑顔でシアが宣言した。

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