第104話 実は、照れている

「~♪ ふっふっふ~~~んっ♪」


 俺を起こしたテンションそのままに、シアが朝食を作っている。

 シアが料理を作るのは珍しくないが、『朝食』は稀有な状況だ。


「パンは何枚食べる~?」

「じゃ、2枚」

「りょうかーい♪」


 流しから顔を覗かせ頷くと、鼻歌混じりにパンを焼き始める。


 なんだろう……。

 その姿を見ていると、妙にソワソワしてしまう。

 やはり『キス』をされてしまったからか。


 平然とキスしてくるんだもんなぁ……。

 こちらは、平静ではまったくいられないのに。


 あっさりと話したり行動に出たりするのは彼女らしいが、慣れるものでもない。

 嘘をつかないシアだからこそ、好意を伝えることにもためらいがないのはごく自然なこと。


 だとすると、今までは俺が『好き』と伝えていなかったから、シアも遠慮をしていたということか?


 もしかして、これからシアはもっと大胆に俺に好意を伝えてくるのでは……?

 性的な知識はゼロに近い彼女だが『誘惑』についてはしっかりわかっている。

 その結果がわからないだけ。

 となれば、さらに大胆なこともされるかもしれない。


 このまま迫られたら……俺は、どうなるんだろう……。


「むむむ……」

「ほーい、準備完了♪ んん? どうしたの、うんうん唸って。お腹痛い? ご飯の前にトイレ行く?」

「あっ、いや、大丈夫。朝食の準備ありがとう」

「私だってたまにはね!」


 得意げにふふんと笑って、シアがこたつ机に朝食を並べる。

 ハムエッグにレタスとタマネギとトマトのサラダ。

 コーンポタージュスープは、おそらく即席のもの。

 こんがり焼けたパンには、バターが塗られている。

 十分過ぎる朝食だ。


「それじゃ、いただきましょー♪」

「いただきます」

「はい、召し上がれー♪」


 さっそく朝食を食べ始める。


「ねぇねぇ、ご飯食べ終わったらなにする? のんびり映画? それとも天気もいいからお散歩? あっ、ついでに買い物もいいかも!」


 答えれば、そのまま飛び出しそうな勢いだ。


「ゴールデンウィークって言っても、明日は学校あるし、そんな飛ばして大丈夫?」

「大丈夫に決まってるでしょ。明日1日学校行けば、その後は5連休! 今日はまだまだ小手調べ!」


 自信満々。

 パワフルなシアに、完全に引っ張られてしまっている。


「そうだなぁ」


 前にもゴールデンウィークの話になった時、シアは『俺と一緒にいられることが一番』と言っていたし、間違いなく本心だと思う。

 とはいえ、引っ張られぱなしというのはいいのか。

 シアに好意を伝えた時のように、こちらからも積極的に行った方が良いのでは……。


 朝食を食べつつ、考える。

 そのまま無意識に醤油に手を伸ばし――


「あっ」

「あ、悪い」


 シアも醤油を取ろうとしたらしく、彼女の手を握ってしまう。

 なんてベタなことをしてしまったのか。

 『私の手、握りたかったんだ?』と、シアがからかくるに決まって――


「え、えっと……」

「あれ?」


 ぱっと醤油から手を離すと、シアが自分の手と俺の手を見比べてソワソワ。

 気のせいか、頬が赤いような……。


「シア?」

「えっ、な、なに? 醤油、どうぞ!」


 すごく露骨にアワアワしてる。

 え? まさか手を触れただけで?


 ……考えてみれば。


 俺からシアに触れることはあまりない。

 もしかして、するのは大丈夫でもされるのは慣れてない?

 いや、これもシアのからかいの可能性もある。


 ――それならば。確かめてみればいい。

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