第86話 私だって、大胆に
部屋には、俺と明宮しかいない。
明宮はすでに風呂上がりで、パジャマ代わりの学校指定のジャージ姿。
風呂上がりだからか頬は紅潮しており、しっとりと湿った髪が頬に貼り付いている。大人っぽい容姿も相まって、どことなく艶やかさが溢れている。
それでも正座して両手を太ももの上に置いている姿は、真面目な彼女の性格が出ていた。
「お茶飲む?」
「はい、ありがとうございます」
まずい……。
自分の部屋で明宮と二人きりという状況に緊張している。
何かがあるとは思っていないが、それでも……。
気になっていた子……だしな。
「あー……夕飯、ごちそうさま」
「おそまつさまでした。後片付けありがとうございます」
「いや、食べてばっかりだったから」
「美味しく食べてもらえるのが一番ですから」
「そっか」
「……はい」
会話が止まる。
何を話せば良いのかばらく疎遠だったこともあってかパッとは思いつかない。
「あっ、そうだ。いつもはシアがベッドで寝てて俺は床に布団を敷いて寝てるんだけどさ。俺、今日は廊下で寝るから、布団使ってここで寝てくれ」
ひとまず思い浮かんだ、今夜の話をしておく。
「えっ、廊下?」
「ああ、座布団あるから、それと毛布を使えば十分眠れるし」
部屋のスペース的にもベッドに一人、床に一人がちょうどいい。
それに女の子が二人いる部屋で寝るのは、間違いなく落ち着けないと思う。
「ダメです。そんな……」
でも、明宮は気にしている。
彼女の性格を考えれば、遠慮するのは見えてはいるものの。
「でもスペースないし、部屋はシアと明宮の二人で使ってくれれば――」
「わ、私はっ」
明宮がぎゅっと両手を握ると、力を込めた声を上げる。
「一緒に寝るでも……その、かまい、ません」
「え?」
耳を疑う。
少なくとも、俺の知っている明宮はそんな大胆なことを言い出す性格ではない。
「なに言ってるんだよ」
「だ、だって……いつもは日辻さん、シアさんと同じ部屋で寝てるんですよね」
「いや、シアはベッドで寝てるし」
「一緒に寝ることは、ないんですか?」
「それは――」
『無い』と言いかけたものの、シアが俺の布団に潜り込んでくることはある。
さらっと流せばいいのに『嘘をつかない』シアとの付き合いのせいか、思わずためらってしまった。
「……やっぱり」
「ご、誤解だって!」
そう伝えたものの、明宮は何か感じ取っている。
「――でしたら」
「わわっ」
明宮が腰を浮かせると、俺の手を取る。
「私だって……大丈夫です……」
顔を近づけられると、石鹸のいい香りがする。
大丈夫って、何が?
そんな決意を込められた瞳で見つめられても――
「日辻さんなら、何をされても……信じられますから……」
「あ、明宮……」
『何をされても信じられる』
急接近されて都合のいいことを言われたら、理性が音を立てて崩れる――
「こら」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます