第11話 そのクラスメート、不在
「――それじゃあ、自己紹介をしようか。出席確認もかねて、出席番号1番の人から順にお願いするよ」
教室で始業式前のLHRにて、担任がそんな提案をする。
2年5組担任となった
メガネをかけた、ひょろっとした印象のある男教師だ。
優しい性格と穏やかな物腰、さらに授業がわかりやすいので、生徒受けは良い。
先生の言葉に姓が『あ』から始まる人より挨拶が始まる。
新谷、安藤、飯山、上田、榎本……順々に、部活動や趣味など自分のことを話していく。
「――
まくしたてるのは、去年も一緒だったオギやんだ。
がっしりした体格から運動部系に見けるけど、本人の言う通り映像研。
自他ともに認める目立ちたがり屋だから、当然自己紹介にも熱が入る。
「――
長々話すオギやんの言葉をさえぎって、後ろにいた女子が立ち上がり言い放つ。
ポニーテールで髪を結い、背筋を伸ばす凛とした
「え、オレまだ話してるんだけど……」
「まだ後ろの自己紹介が詰まってるのよ。このまま聞いてたら始業式がはじまるし、手短にすませなさい」
「あんだと?」
正論ではある。
でも、言葉自体にトゲがあるから、オギやんも振り向いて睨みつける。
「まぁまぁ、皆に自己紹介はしてもらいたいからね。扇くんの話は、放課後、興味のある人たちと話す……これでどうかな? その時は僕も聞きたいね」
「ま……そうっすね」
一瞬、険悪な空気が流れるが、先生の仲介もあってオギやんも引き下がる。
「うん、扇くんも門井さんも自己紹介ありがとう。
次は――ああ、
「え?」
九条――『シア』?
耳慣れた響きに思わず門井さんの後ろの席を見る。
その席には、誰も座っていない。空いている。
休みなのか。
「うーん、九条さんから連絡が来てなくてね。九条さんから何か聞いてる人はいないかな?」
「――いません」
門井さんがすぐに反応する。
先ほどより声が冷たい。
「え、いや、お前さんが聞いてなくても、他の人が聞いてるかもしれねーだろ」
「私に連絡来なかったんだから、他の人に来てるはずがありません」
「あ、はい……」
オギやんの言葉にも、門井さんはっきりと断言した。
九条シアと……知り合いなんだろうか。
「そ、そうかい……もし、何か知ってる人がいたら教えてね」
先生の言葉を聴きながら、不在の席を見つめる。
……『彼女』なのか?
そんな偶然があるのか?
シアが『九条シア』で、俺と同じクラス?
その真実を早く確かめたい。しまった。
スマホの連絡先ぐらい、聞いておけばよかった。
「――あれ? 日辻くん。次は君だよ」
「あっ、はい」
先生に言われて立ち上がる。
でも、頭の中に占める『九条シア』のことで、自己紹介にまったく集中できない。
「日辻一郎です。よろしくお願いします」
結局、そんな自己紹介にもならない挨拶しかできなかった。
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