第53話・エヴィリバディカァンフーゥファイター♪

 凪がヨイチから不穏な話を聞いて、早くも1ヶ月が経った・・・・・・

今日は霧雨市の連合の格技場で驚くことに、あのノブが玲奈の剣の稽古についてくれていたのだ。


「まだ粗削りだけど、ここ数週間で太刀筋がかなり洗練されてきている。基礎的な筋力があと少しあればもっと重い一撃を振るえるようになるはずだ」


 竹刀を片手に、額から滝のような汗を流しながら、ノブは竹刀を杖のようにして両膝をついている玲奈にそう言うと、玲奈は仮面を少し上にずらして息を荒げながら「あっ・・・・・・ありがとう・・・・・・ございました!」と今日の稽古に礼をいった。


 そんな様子を凪とヨイチの2人が、格技場の隅の壁に背中を預けて、眺めながら雑談していた。


ヨイチ「いつ見てもノブさんの剣術って凄いね。僕じゃ目に追えないや」


凪「まあ、剣術ならこの街で敗けることがないって言われてる人だからな。ところでお前の妹の宣言から早くも1ヶ月経っちまったけど一向に現れる気配が無いんだが・・・・・・」


ヨイチ「僕の妹は情報収集能力が皆無だからね・・・・・・」


 ここでヨイチは改まって「ところで凪君、もし僕の妹と喧嘩になった場合だけどさ」と凪にあることを頼んだ。


 ちょうどその頃・・・・・・メリッサは連合の秘密の入り口である交番に入ると駐在さんこんなことを聞かれた。


「そういえば少し前にここらじゃ見ない魔祓い師の女の子が「お前の兄貴が来たか?」って尋ねてきたけど、隣町の知り合い?」


 それを聞いたメリッサは誰なのか考えた。


(伊佐乃市から来た魔祓い師で女性って言うと咲さんしかいないよね? 他の伊佐乃市支部の魔祓い師ならアポイントを取っているから僕に聞く必要が無いし・・・・・・一体誰なんだろう?)


 場所は変わり、凪は一度メリッサが入ってきた場所とは反対側にある出入り口付近の自販機で飲み物を買っていると、何か路地の奥から騒がしい声が聞こえた。


 何事かと思って凪は様子を見に行くと、自分達の歳の近い少女がチンピラ3人と喧嘩をしていたのだ。


 少女の容姿はアホ毛が垂れた黒髪ショートヘアで、この街の中学校とは違う学生服に身を包んでおり、チンピラ3人の内、2人は既に地面に倒れて気を失っており、最後のひとりも既に詰んでいた。


 この時、凪は驚くべきものを見ることになった。

後ろに下がろうとして体勢が崩れているチンピラに対して、少女が止めの一撃を放とうとしていたのだが、その構えにとても覚えがあったのだ。


 少女はスーッと息を吸って、左手を前に出して右拳を脇に構え、右足を半歩後ろに、左足を半歩前に出した構えを取り、こう叫びながら拳を突き出した。


「オーバードライブ!」


 少女は確かにそう叫んで、自身より体格のいいチンピラを殴り飛ばす。

チンピラ数m程後ろに吹き飛んで、地面に勢いよく倒れて気を失った。


 気になった凪は、少女のほうへ歩み寄ると、少女は凪の姿を見るなり、自身のことを知っているのか「鈴羅 凪」とフルネームで呼んだ。


 呆気に取られていた凪は、少女の接近を許してしまい、気づけば腹部に右拳を当てられていた。


 少女は「身体連破・・・・・・」と呟やいてスーッと息を吸った。

そして、凪に向かって右拳を反時計回りに捻じ込みながら「オーバードライブ!」と叫んで突き出した。


 だが、ドンッという衝撃音だけがその場に鳴り響き、凪はよろめくどころか何事も無かったかのように「なんかしたか?」と少女に尋ねる。


「そんな!? 今確実に芯で捉えたのに!」


 少女は驚きながら凪から2m程距離を取ると、凪は疑問と、その理由を口に出す。


「氣功術を使えるのはこの街で俺と師匠と俺の兄弟子の3人しかいないし、伊佐乃市でその技を使える人間はいない。一体誰からその技を習った? 体の動きと氣の流れがしっかり噛み合ってなかったぞ?」


 凪はそう言うと、少女は右手で刃が鉤爪のような形をした折り畳み式のカランビットナイフを右手で抜いて、凪に斬りかかった。


 少女の攻撃に凪は「おっと!」と言って後ろに飛んで、その一閃をかわして少女に対して言い放つ。


「奈留上 夏美だな? ヨイチから話は聞いてるよ。俺に相手して欲しいならまず捕まえてみな」


 凪はそう言って自身に襲い掛かってきた夏美に、背中を見せて路地裏へと入った。この街を知り尽くしている凪にとって、この場所は自宅の庭と大差がない。


「鈴羅 凪・・・・・・お前に奪われたモノを取り返す!」


夏美はそう呟いて、左手をスカートのポケットに入れて凪の後を追った。


 凪は裏路地を歩きながら「さあて、どうしたもんかね?」と呟きながら頭の中で戦略を練る。


(あれがヨイチの妹の夏美か・・・・・・かなり厄介な異能者だと聞いたが、まさか気功術まで使えるとはな。こっちも下手に手札を見せない方が良さそうだ)


 そんなことを考えながら歩いていると、目の前の通路から夏美が現れた。

両手には投げナイフを握って、凪を見つけるなり大量に投げつけてきた。


 凪は「うおっ!?」と驚きながら体を捻ってかわすが、狭い路地故に横に避けるには限界がある。


 幸いにも金属のトタンが置いてあったため、それを手に取って盾にし、来た道を引き返す。


 大量のナイフが突き刺さったトタン板を投げ捨て、凪は左へ曲がろうとしたが、またもや夏美が目の前に現れた。


 予想外の出来事に凪は思わず「おい、嘘だろ」と驚きながら右へ逃げる。

少し開けた小さな空き地に出ると左脇からいつの間に回り込んできたのか。今度は両手にトンファーを装備して襲い掛かってきた。


 格闘戦なら凪の方に分がある・・・・・・氣功術で肉体を硬質化していれば、カーボン合金のトンファーを受けることなど容易い。


 夏美の両腕から繰り出されるトンファーの打撃を、凪は素手で受け流しながら下がる。


「ぜあああああ!」


 夏美は声を張り上げながらトンファーを振り回し、凪は受け流しと回避をしながら表の通りへと通じる路地に入った。


 狭い路地の壁が邪魔となり、壁を殴りつける音が連続的に響き渡る。

やがて路地を出ると同時に、夏美の様子が急変した。


 突然トンファーを手放し、右手を胸部を抑え込むように当てて両膝をついて「ヒューッ! ヒューッ!」と息を荒げながら苦しみだしたのだ。


「おい! 大丈夫か!?」


 演技ではないと感じた凪は、慌てて夏美に駆け寄ると、偶然にもその場に藍色の仲居の作務衣姿で買い物袋を提げた霞が、その場に現れ「凪! 一体どうした」と声をかけてきた。


 霞はすぐさま夏美の容態を確認すると「喘息じゃないか! 吸引機は?」と驚くと、夏美の右手に吸引機が握られているのに気づく。


 霞は夏美の吸引機を取って「ゆっくりだぞ?」と言いながら夏美に吸引機を口に当てて薬を吸引させる。


 夏美はようやく落ち着くと、まだ苦しそうな声で「ありがとう・・・・・・ございます」と霞に礼を言うと、霞は凪の方を見て「知り合いか?」と尋ねた。


 凪は簡潔に「俺の友人の妹です」と答えると、訳ありであることを察した霞は、買い物袋を拾い上げて「まあ、ここでの話もあれだし店に来い」と言って、3人は「風見鶏」へ向かった。

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