第52話・おてんばJCと無能の団長 その3

 ヨイチは確実に死んだと確信した斗真は「はっ・・・・・・本当に自分を犠牲にした」と呟いて呆然としていると、噴煙が晴れて無傷のヨイチとメイがその場にいた。


「無傷! 一体どうして!?」


 驚く斗真に、ヨイチはボロボロと崩れていく文から渡されていた今日の予定を書いたメモ帳の千切ったページを、右手で取り出してこう言った。


「夜天華撃団は常にもしもの備えをしている。だから文さんがくれたメモ帳のページも、魔道具と同じ効果がついていることを僕は知っていた!」


 そう、文はヨイチの身になにか会った時のために、メモ帳に瀕死のダメージを一度だけ肩代わりする魔法の指輪と同じ効果をつけていたのだ。


 人質を失って、一気に劣勢になった斗真は「クソ!」と言って、その場から扉に向かって走りだしたが、バンッと扉が外から勢いよく開かれ、その場に私服姿の幽麻が現れた。


「爆発音が聞こえたと思って着てみたら・・・・・・」


 斗真はポケットナイフを抜いて幽麻に飛びかかったが、相手が丸腰のヨイチだったらまだ可能性があったが・・・・・・


 光と同じ速度で動ける幽麻に、目にもとまらぬ速さで抑え込まれてしまった。

そこへ慌てた様子で私服姿の咲が来て、ヨイチを見るなり「団長! ここで何をしているんですか!?」と驚きの声を上げると、メイがヨイチの顔を見て「え? 団長?」と驚きの声を出す。


 それも当然だろう・・・・・・伊佐乃市で最も実力のある異能者で構成された夜天華撃団を指揮っているのが、異能の力を持たないただの高校生だというのだから・・・・・・


 警察がその場に駆けつけ、容疑者である斗真を警察に引き渡した。

ヨイチは駅から勝手に離れて一般人を巻き込んだことで、異能捜査課の職員にその場で説教を受ける羽目になったが、警察側にも対応が遅かったという非があったため、そこまで強く非難されなかった。


 そんな最中、メイがヨイチの服を後ろから引っ張って声をかける。


「あの・・・・・・助けくれてありがとうございました!」


礼を言われたヨイチだったが、あまり喜べる状態では無かった。


「今回はこちらの対処が悪かった・・・・・・駅に留めておくべきなのに僕に対する私怨に巻き込んでしまい申し訳ない」


 ヨイチはそう言ってメイに向かって頭を下げると、メイは助けてもらった命の恩人に頭を下げられて「いっ・・・・・・いえそんな!」と動揺しているメイを見て、咲は頭を下げていたヨイチのうなじと腰を掴んで、無理矢理ビッと、頭を挙げさせながらこう言った。


「団長! アナタは腰が低すぎるっていつも言われているでしょう? 少しはクランを束ねる人間として強気にいってください!」


 咲は華奢な体格のわりに力が強いため、非力なヨイチは抵抗することすら出来なかった。


「イタタタ! 咲さん待って! 首が吊る!」


ヨイチは痛そうな声でそう言うと、咲はパッと手を離す。


 そんなヨイチに、メイは頬を少し赤らめながら「あの!」と断ってから耳元で囁くようにこう言った。


「良ければ私とお付き合いしてくれませんか?」


 唐突な告白に耳がいい咲と幽麻は、ヨイチも似た者同士になるのかと2人揃って鼻の下を伸ばしたが、ヨイチの返事はこうだ。


「悪いけど中学生と付き合う趣味は無いから却下で」


 まさかの玉砕にメイはガーンと撃沈し、警察署へいかなければならないヨイチは警察官に連れられて覆面パトカーに乗り込むと、その場で意気消沈しているメイに咲は励ますようにこう言った。


「団長は硬派な人で口下手なんです。さっきの言葉を要約すると「10年後に出直してこい」って意味になります」


 それを後ろで聞いていた幽麻は「そんなとってつけたような嘘を・・・・・・」と思いながら呆れたが、これが10年後のフラグになったりならなかったりするのである。


 その日の夜、ヨイチはメールで凪と連絡していた。


凪「なるほど・・・・・・そんなことがあったとは・・・・・・」


ヨイチ「斗真君は完全に私怨を利用された形だけどね。にしても起爆装置は素人が用意できる物じゃなかったって言うのが気になるな」


凪「警察からの報告はどうなってる?」


ヨイチ「あとはこっちの仕事ってことで僕らの出番はないってさ」


凪「身内に警官がいなくて良かったな。俺なんか中学時代にお袋の残業に付き合わされたことがあったぞ?」


ヨイチ「今でも残業に付き合わされてるの?」


凪「いや、玲奈が監視役に就いたからそれをやると迷惑になるってことでそれは無くなった」


 ここでヨイチは、ふとあることを思い出した。


ヨイチ「話は変わるんだけどさ・・・・・・僕に妹がいるのは知ってるよね?」


凪「なんだ藪から棒に・・・・・・会ったことは無いがメリーと同い年だって話だよな?」


ヨイチ「うん、夕飯の時に今日あったことを話したらすごい剣幕で取り乱しちゃってさ・・・・・・おまけに僕が凪君とつるむようになってから問題起こすようになって・・・・・・」


凪「ちょっと待て話が見えない・・・・・・そもそもお前の妹って師団に所属している魔祓い師だよな? 前から疑問に思っていたが、なぜ夜天華撃団に入れなかった?」


ヨイチ「理由としては僕と違って思い込みが激しくて喧嘩っ早い性格が原因・・・・・・実質、凪君と会うまで虐めっ子を撃退していたのって僕の妹なんだよね」


凪「俺みたいに武道でもやってるのか?」


ヨイチ「道場どころか運動部にも入ってないよ。でも素行の悪い空手部の生徒をコテンパンにしたって話は聞いたことがある」


凪「機会があれば会ってみたいもんだな」


 呑気にそんな返信をしてきた凪に、ヨイチはお顔真っ青でこう打った。


「・・・・・・1時間前に風呂場で君のこと潰すって言ってたの聞いたんだけど」

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