第51話・おてんばJCと無能の団長 その2
2人は犯人を追いかけるために、駅を出て裏路地へと入っていった。
「全く・・・・・・大事な予定があったのに・・・・・・」
ヨイチはスマホでメールを打ちながら、女子中学生と一緒に駅の近くの裏路地を歩いていた。
昼だというのに日の光もまともに注さない場所で、辺りは湿った空気が漂い、明かりのついていない窓が、不気味さを醸し出している。
「嫌なら手を振り払えばよかったじゃないですか」
女子中学生はブルーな気分のヨイチにそう言ったが、ヨイチはわけあってワザと振り回されたのだ。
「これでも夜天華撃団の一員だからね。無茶しようとしている市民を放っておくわけにもいかないし」
そう、ヨイチはこの女子中学生が無茶をしないようにするために、ワザと振り回されたのだ。
「いやぁ、心強いわぁ! 美人で有名なクロノスの咲さんでないのが残念だけど」
女子中学生は、あからさまに余計な一言を言った相手が誰なのか理解していないのはここだけの話である。※ヨイチは夜天華撃団の団長
しかし、ヨイチはそんな安い挑発には乗らない。
(まあ、夜天華撃団の団長が僕であることを知っている人は限られてるからね。そもそも咲さんはこの街の師団の支部長の娘だから目立つって言うのもあるけどさ)
実質、この街の市民で夜天華撃団のメンバー全員の事を詳しく知る人間は少ない。
(そもそも情報戦を主体としているクランだからあまり表に出ないんだよね。他の3人もそうだけど、僕も目立つの嫌いだし……)
そんなことを思いながら歩いていると、ヨイチは「君・・・・・・えっと・・・・・・名前何だっけ?」まだ名前すら知らない女子中学生に誰何すると、女子中学生は名を名乗った。
「メイ! 神楽坂 メイ! お兄さんの名前は?」
ヨイチはメイに自分の正体を知られても面倒だと思ったため「ヨイチ・・・・・・夜天華撃団の者だ」と名乗る。
ここでヨイチは不思議に思っていたことを口に出した。
「ところでどうしてこんなに裏道に詳しいんだい? 異能者ではないただの中学生の君が来るような場所ではないはずだけど? 危ない人達がうろついている時だってあるのに・・・・・・」
そう、ヨイチ達が今いる場所はこの街であまり治安が良い場所ではない。ゴロツキや浮浪者がうろついていることが多く。迷路のように入り組んでいる上に、警察の巡回ルートから外れていることもあって、普通の学生が来るような場所ではないのだ。
そんな場所を迷うことなく臆さずに歩いていることに、違和感を感じられずにはいられなかった。
「他人には言わないって決めていたんだけど、夜天華撃団の人なら・・・・・・」
メイはそう切り出して、事情を少しだけ明かした。
「実は親と喧嘩ばかりして、いつも家に帰ろうとせずに街をぶらついて・・・・・・でも普段行くような公園とか友達の家とかだとすぐに場所が割れちゃって、その場で言い争いしたりして友達とも仲悪くなっちゃって・・・・・・そんなこんなで逃げ場を探し回っていたら・・・・・・この場所に来るように・・・・・・」
メイの話を聞いて、ヨイチはどこか共感できるところがあった。
「親との喧嘩か・・・・・・頭では解っているんだけど、なんでか意見が噛み合わないんだよね?」
異能の力を持たない云々よりも、喧嘩嫌いで大人しいヨイチですら、親と喧嘩したことがあるのだが、ヨイチにはメイと大きく違う点がある。
「でもなぜか親との喧嘩だけは逃げようなんて思った事が無いんだよね? なんか逃げちゃったら自分の意思を突き通せない気がするんだ・・・・・・まあ、そのせいで終わる頃にはよく空が白んでるけどさ」
それを聞いてメイはこの街で有名なクランの人でも、ありふれた問題に真正面から立ち向かっていることを聞いて、少し考えを改めようかと考えた。
「もし、喧嘩の際に手を挙げるような親だったら、僕らが警察にそう言った事に対処してくれる職員さんに相談に乗ってくれないかお願いしてあげるけど?」
もしもの時のために、ヨイチはメイにそう言った。夜天華撃団はこの街の市警と密接な関係なうえに、学校の生徒から民事事件の相談も引き受けることもある。
十字路の真ん中でメイは、一度立ち止まって「そっ・・・・・・そこまでは!」と動揺してしまう。
ヨイチはメイの様子から「流石に考え過ぎだったか」と思いながら、メイを背に数歩歩いていると、ドサッと後ろで何か倒れた音がした。
何の音だと思ったヨイチは振り返ると、そこにメイの姿は無く。地面にメイのサブバックが落ちているのが見える。
「・・・・・・」
不穏な気配を感じながらも、ヨイチは十字路の真ん中に落ちているメイのサブバックを拾おうとしたその時、左の通路から飛び出してきた何者かが右手に持つスタンガンを押し付け、ヨイチはその場で気を失った。
一体どれだけ時間が経ったのだろう? ヨイチは目を覚ますと、どこかのテナントのいない雑居ビルの薄暗い一室で、首に電子タイマーがついた金属製の円筒缶がついた首輪がつけられ、両手を背中の方に回された状態で縛られていた。
「起きた? 久しぶり・・・・・・いや、面と向かっては初めましてかな?」
そんな風に声をかけてきたのは、黒のウィンドブレーカーとジーンズ姿で、顔が隠れるように前髪を伸ばした青白い肌のやせ型の青年で、ヨイチはその青年に見覚えがあった。
「・・・・・・いや、中学の時に一回だけアニメの事で話をしたことがある。桐生 斗真君……だよね?」
そう、ヨイチの目の前にいるのは、中学時代のクラスメイトなのだ。
「どうして君がこんなことを? 僕と同じ異能の力を持たなくて喧嘩嫌いの君がこんな誘拐みたいなことをするなんて・・・・・・」
ヨイチの疑問に対し、斗真は「なぜ?」と怒りの籠った声を出して、理由を話した。
「初めて話した時はようやく友達が出来たと思った・・・・・・でも、すぐに僕の前から消えた・・・・・・それから現れるのは僕の事を気持ち悪がる生徒・暴力のはけ口にする生徒・罪を擦り付ける生徒・・・・・・そんないなくなればいい奴らだけが僕の前に現れた」
斗真はそう言って、右手で左腕の袖をめくると、腕には火のついたタバコで押し付けられたような火傷の跡がいくつもあった。いわゆる「根性焼き」というモノだ・・・・・・
斗真は捲った袖をそのままにして話を続ける。
「僕がそんな奴らに虐げられている中で、君だけは色んな人たちに正義の味方だと称えられてきた。警察・連合・師団、異能の力を持たない人間が異能者の腰巾着をしただけで出世していく中で、僕だけは誰にも救われず、ただ虐げられていくだけだった!」
段々口調が感情的になっていく斗真は、口をガムテープで塞いで両手を結束バンドで拘束したメイを物陰から引きずり出した。
ヨイチはそれを見て驚いた。何と・・・・・・メイの首にも自身と同じ電子タイマーがついた金属製の円筒缶が首輪のようにつけられていたのだ。
「だから今度は僕が虐げる番だ! 異能の力を持たないのに異能者の腰巾着をして正義の味方だなんて思い込んでる奴に現実を見せてやるためになぁ!」
そう叫ぶ斗真よりも、ヨイチは恐怖で怯えているメイを助けることを考えていた。
(ポケットに入れていた魔道具は彼に奪われている・・・・・・この状況を打開するためには・・・・・・)
ヨイチは柱に縛られたまま立ち上がろうとしたその時、斗真は無駄であることを告げる。
「無駄だ! 君は魔道具が無ければ何もできないことは知っている! 縛り付ける前に外しておいた」
斗真はそう言ってヨイチから没収していたアクセサリーの形をした魔道具の数々を左手で取り出して見せつけると、ヨイチは「それでいいんだ!」と言って両足を柱に押し付けて前方に体重をかける。自身の体重で結束バンドを引きちぎろうという算段だ。
斗真はそんなヨイチに「何を言って・・・・・・」と戸惑うと、ヨイチは大声で「フラッシュ!」と叫んだ。
すると、斗真の左手に持つ魔道具の中にある指輪のひとつが、目も開けられない程の眩い閃光を放った。
いきなり視覚を潰された斗真が「くおっ!?」と怯むと同時に、結束バンドがブチッと音をたててちぎれ、ヨイチはそのまま勢いに乗って、斗真に体当たりをぶつけた。
斗真と一緒に突き飛ばされて、床に散らばった魔道具をいくつか拾って、魔法の眼鏡をかけたヨイチは、メイの口を塞いでいるガムテープを引き剥がし「大丈夫? 今これを外すから」と爆弾を調べたその時だった。
「まさか・・・・・・これは・・・・・・」
とんでもないことに気づいたヨイチは倒れている斗真の方を見ると、斗真は倒れた状態で不敵な笑みを浮かべてこう言った。
「そう・・・・・・君とその子につけた爆弾は駅の踏切付近に設置した爆弾のセンサーと連動している。その子の爆弾を外せば踏切に設置した爆弾だけが起爆し、首輪が爆発すれば踏切の爆弾は起爆しない仕掛けになってる!」
走行中の電車が線路の爆発に巻き込まれれば脱線して大惨事になる。しかし、そちらを救えばメイと自分が死ぬ・・・・・・自分達が助かるか? 電車に乗ってる大勢の人を助けるか? 究極の選択をヨイチは迫られた。
(手が無いわけじゃない・・・・・・瀕死のダメージを一度肩代わりしてくれる魔法の指輪がひとつだけある・・・・・・でも、これは装着している人間にだけしか効果を発揮してくれない・・・・・・このことまで計算していたのか?)
魔道具を使えば、電車に乗っている人たちは間違いなく救える・・・・・・だが、メイを助ければ自分が助からない・・・・・・そんなヨイチを煽るように、斗真はこう言った。
「正義の味方なんだろ! だったらその子を救うために自分が犠牲になってみせろよ!」
そんな煽りに対してヨイチは、怖がるメイの右手人差し指に魔道具の指輪を嵌めて、ギュッと抱きしめてから「ゴメンね・・・・・・怖い思いをさせちゃって・・・・・・」と謝ると、その場で爆発が起こり、爆発音と共に噴煙が2人を包み込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます