第43話・オペレーション.バグバスター フェーズ1

 翌週、霧雨市にある鈴羅ファミリーの拠点にて・・・・・・


「いや実際に集まってみると、手狭に感じるな!」


 私服姿の鈴羅ファミリーと夜天華撃団全員がリビングに集合しているのをみて、凪は驚きの声を上げる。


「ここ見つけた時は夜天華撃団の吸収合併を前提にしとらへんかったからな」


 そんなことを言う亜由美に「まあ、そう言った事は今回の作戦が終わってからだ。ヨイチ! 作戦の説明を頼む」と凪はそう言って本題に移った。


 リビングのテーブルに広げられたのは霧雨市の地図で、郊外と市内の2ヵ所に円がつけられている。


「調査の結果、鈴羅ファミリーと夜天華撃団に攻撃をしているのが異能の裏組織「蟻の巣」って言う組織で、リーダーの名前は「園側 クロメ」黒魔術に使う触媒などを裏で扱う小さな「モグリの商人」だったんだけど・・・・・・鈴羅ファミリーが襲撃を受ける数日前から急激に力を付け始めて異能者が仕切ってたギャングチームを潰した。市内にある拠点は潰されたギャングチームの寄り合い所で今は「蟻の巣」が仕切ってる」


 ここで玲奈は夜天華撃団がそこまで知っていながら、なぜ警察が動かないのかが疑問を口に出す。


「なぜ警察が動かない? ギャングチームがひとつ潰されたとなれば大事だろう?」


 玲奈の疑問もごもっともだが、それについては凪が一番知っていた。


「十分な証拠が無くて警察が捜査に踏み込めないんだよ。おまけに師団や連合も「俺ら」に喧嘩売った時点で対処すると思っていたから組織同士の潰し合いでカタを着けたいのさ。お袋曰く首都方面じゃ珍しくないことだと・・・・・・」


 司法が干渉してこないことで自由に動けるのを喜ぶべきか、職務怠慢を訝しむべきか複雑な気持ちになる。


「で・・・・・・肝心な作戦だけど、今回は夏祭りの時とは違った本格的な合同作戦の実習も兼ねてのことだからちゃんとメンバーを振り分けておいた」


郊外拠点攻略組「凪・玲奈・文・サム」


市内拠点攻略組「幽麻・咲・亜由美・メリッサ」


 振り分けを発表した瞬間、誰から今回の事を聞いたのか? 黒のタンクトップに色褪せた黒のジーンズの半ズボンを穿いており、肩まで伸びた黒髪を凪のように紅の帯で結った暤が挙手して「はい! 質問いいですか?」と尋ねる。


 年齢的な面で、まだ実戦に出ることが出来ない暤がなぜここにいるのかはさておき、ヨイチは「はい、暤ちゃん!」と発言を許可した。


「あたしは何をすればいいんですか?」


 凪が暤の発言に嫌な顔をしたりしないのは、暤が聞き分けのいい子で前線に出してもらえないことも承知していると思っているからだ。


 暤の質問に対してヨイチは「大丈夫、暤ちゃんにも今回の作戦に重要な役をしてもらうから」と言って役割を話した。


「最近忙しくてここの掃除が行き届いていないから暤ちゃんは僕と大掃除して、それが終わったら夕飯の買い出し! カレーとシチューどっちがいいかな?」


 皆にどっちがいいかを尋ねると満場一致で「シチュー!」と答えたため、ヨイチは「じゃあ、食パンも買わないとだね」と買い物リストに追加する。


 方針が完全に固まったこともあり、凪は全員に出撃を呼びかけた。


「よーし、作戦開始だ! さっさと片付けて自由時間にしようぜ!」


凪の呼びかけに全員が拳を上に突き出して「オー!」と声を上げて外に出た。


 ちなみに、ヨイチがした振り分けにはキチンとしたわけがある。

まず郊外拠点側に凪と玲奈を向かわせたのは、凪は市内だと本気を出すのが難しい。玲奈は監視役の関係というのが理由で、サムと文は後衛要員として割り振った。


 市内拠点側の人選に関しては破壊能力に特化していないものの、能力の互換性がある咲と幽麻、そしていざという時の火力要員としての亜由美とメリッサを割り振り、バランスを取っている。


 一方、その頃・・・・・・霧雨署にて、異能捜査課のオフィスは静まり返っていた。

息子が裏組織を潰しに行っているのにも関わらず、いつものように書類仕事に打ち込んでいる薫の元に、書類を持ってきた部下の女性が話しかけてきた。


「頼まれた資料を持ってきました!」


 薫は「ご苦労さん」と言って資料を受け取ると、部下の女性は「凪君達大丈夫ですかね?」と薫がどれだけ心配しているのかカマをかける。


「今回はメリーも実地試験として向かっているからな。流石にあの子も、困難のひとつやふたつ、乗り越えられるようになって貰わないと困る」


 薫は心配していないようにそう言うが、何かを我慢するように歯を食いしばって血の涙を流しているのを見た部下の女性は「すみません! その話題振った私が悪かったです!」と慌てた様子で叫ぶように謝罪した。


 そして、場所は凪たちに変わって4人は郊外の山の麓にある。廃工場の前に来ていた。


「モグリとはいえ商いをやるには狭すぎないか?」


少し離れた所の茂みで様子を伺いながら玲奈はそう言った。


 玲奈の言う通り、廃工場と言っても職人の作業場みたいなトタン板と鉄骨で出来た平屋で、中からは人の気配もしない。


「既に放棄して市内の方を本格的な拠点にしている可能性もあるな。サム、偵察機を出してくれ」


 凪はそう言うとサムは「インディペンデンス・カタパルト!」と言って右腕に飛行甲板が現れて、ラジコンサイズの攻撃ヘリを一機出撃させた。


 小さなプロペラの回転音を鳴らしながら攻撃ヘリが廃工場の窓の近くについたその時・・・・・・


 いきなり4人の足元の地面がボコッと音をたてて陥没し、突然の出来事に4人は声を揃えて「へ?」と間の抜けた声を出すと、そのまま底の見えない奈落の底へと落ちて行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る