第42話・玲奈、剣聖に会う
全てが片付いた頃・・・・・・
保健室で目が覚めた亜由美は、朦朧する意識の中で付き添ってくれていた玲奈を目にして「ウチ・・・・・・死に損ねたん?」と尋ねた。
そんなこと言う亜由美に玲奈は「相手が殺す気が無かっただけだ」と安心したような口調で言うと、亜由美は浮かない顔で玲奈に「なあ、玲奈・・・・・・」と声をかけ、なんか言いたげな顔をしていることに察しがついていた玲奈は「なんだ?」と返すと亜由美はこんなことを聞いてきた。
「ウチって強いか弱いかで言ったらどっちになるんやろな?」
朱霧に負けたことが余程ショックだったのか? 普段は勝気の亜由美にしては珍しい質問だった。
亜由美の質問に対して玲奈は、自分が朱霧と対峙した時の事を思い返してからこう返した。
「まあ、戦う相手が自分の能力と相性がいいかにもよるな」
そう言われた亜由美は「さよか」と静かに言って体を起こす。
「チェン姉に言うて鍛えて貰わんとあかへんな」
ベットを出ながら亜由美はそう言って、玲奈と一緒に保健室をでた。
・それから数日後、私服姿で背中に竹刀ケースを背負って河川敷を歩きながら玲奈は語る。
異能風紀委員の集団催眠による暴動染みた騒ぎのせいで、凪が本気を出したとかで病院送りになった朱霧自身の処罰はうやむやになった。
まさか凪もわざわざ中間世界へ転移して戦うとは思わなかったが、考えてみればある程度の常識があるアイツらしい戦い方なのかもしれない。
朱霧も処刑人という仕事柄治癒系の能力者からの処置でたった1日の入院ですぐに登校してきた。
彼女の監視を担当していた委員の子だが、事件の当日・・・・・・女子トイレの個室で痙攣しながら気を失っていたとかで、監視をつけるだけ無駄だと判断し、問題を起こしたらすぐに「執行」する勢いで「鎮圧」することが決まった。
それでもあの日以降、朱霧が凪に変に付き纏うということは無くなり、自身の都合が合えばこちらの仕事を手伝うと言い出した。
手伝って欲しいことと言えば、今回の事件も含んだ鈴羅ファミリーを狙っている組織の捜査ぐらいだ。今回の事件の犯人も黙秘権を行使して口を割らないし、伊佐乃市の夜天華撃団の情報網にすらかからない始末なのだ。一体・・・・・・どんな闇が私たちに迫っているのか?
元凶にたどり着くまでの道のりは長い・・・・・・私は元凶にたどり着くその時に備えてヨイチにあることを頼んだ。
聞けばバカバカしいと思われるかもしれないが・・・・・・それでも、ある人物の事を聞いてから試してみる価値はありそうだと思っていたからだ。
そして、玲奈は陸橋の下にある空き地につくと、そこには黒髪ロングヘアの20代後半の男性がいた。玲奈のように竹刀ケースを背負っており、玲奈を見るなり「君か? 僕に手合せをして欲しいと頼んできた凪の友人は?」と玲奈に尋ねる。
時は遡ること事件終結の翌日の夜、玲奈はアパートの風呂場で風呂の蓋の上に通話中のスマホを置いて湯船に浸かりながらヨイチに電話していた。
ヨイチ「霧雨市の剣聖・ノブさん? 確か凪の前任で霧雨市能力者ランキング2位に入ってた人だよね?」
玲奈「他に詳しいことは知ってるのか?」
ヨイチ「一応、霧雨市と伊佐乃市にいる有名な能力者の情報は網羅してるから・・・・・・何が知りたいの?」
玲奈「連絡先とかも解るか?」
ヨイチ「知ってはいるけど・・・・・・まさか弟子入りする気? 迷惑だよ! あの人はもう引退した身だ! おまけに引退して早々に他の地方の師団や連合から散々武術指南役を頼まれたせいでそう言った事にかなり苛立ってる!」
玲奈「落ち着け、手合せを頼みたいだけだ」
ヨイチ「手合せ? なんでまた・・・・・・」
玲奈「凪が霧雨市で最も苦戦を強いられ、敬意を払うほどの剣士だ。動きを見て研究したい」
ヨイチ「うーん・・・・・・確約は出来ないけどやってみるよ」
玲奈「すまないな。今度そちらへ遊びに行く時に風見鶏の菓子を持っていく」
通話を切って玲奈は「ふう」と一息ついて、肩までしっかり湯に使って肩の力を抜いた。
そして、ヨイチの協力もあって今に至る。
玲奈の目の前に立っているこの男こそ、現役時代に霧雨市能力者ランキング2位「鬼鉄」の称号を持ち、その絶技とも言える剣術から「剣聖」とも謳われたノブさんこと伊達 忍 25歳なのだ
「師団が凪に監視役をつけると聞いたからどんなゴリラをつけるのかと思ったら・・・・・・こんな愛らしい子猫をつけるとは思わなかったよ」
最後に「愛らしさではウチの嫁に負けるけど」と既婚者であるノブはそう付け足し、竹刀ケースから木刀を抜く。
玲奈も木刀を抜いて帯刀するように左脇に木刀を持って一礼しながら「一手! お相手願います!」と叫んだ。
両者が木刀を正面に構え、睨み合いになる中、玲奈は仮面の下で瞬きをした瞬間、仮面もろとも頭部を両断される自身のビジョンが見えた。
(流石は剣聖! 瞬きしただけで死を予感させられる。真剣を握った相手に木の枝を向けてるような気分だ)
両者の間合いは約2m飛びかかれば届く間合いではあるものの、ノブは一向に動く気配がなく。玲奈は自身より格上の剣術を使うであろう相手に攻めあぐねる。
約1分が経った頃になって、ノブは急に「やめだ」と言って構えを解き、玲奈にこう言った。
「気迫で敗けを認めているような相手に剣を振る気はない。自信がついたら出直してこい」
そう言われた玲奈は「ウッ・・・・・・!」と喉の奥から絞り出すように雄叫びを上げながら飛びかかろうとしたその時……
「おーう、玲奈ー! 差し入れ持ってきたぜ!」
後ろから紫色の包装紙に包まれた「風見鶏」の菓子と緑茶の入った水筒を左手に下げた凪が声をかけたため、驚きのあまりにガクッと態勢が崩れる。
近くにあったベンチに腰を下ろして3人は凪が買ってきたどら焼きを齧って雑談をしていた。
「どうしてここが解った? ヨイチにしか話していなかったはずだが……」
玲奈の問いに、凪は紙コップに注いだお茶を一口飲んでから答える。
「昨夜ヨイチと会議してる最中にノブさんと会うって聞いたから弟子入りでもしたのかと思ってさ」
それを聞いたノブは「だから僕の分までお菓子を買ってあったのか」とお茶菓子の事を口に出す。
「ノブさんこの時期だと芋餡のどら焼き買うって師匠が言ってましたからね」
ノブも「風見鶏」の常連ということもあって、凪の師匠である霞とは顔見知りなのだ。
そう言われたノブは「僕の嫁もこれ好きだからね。あとで寄って行こうかな?」と帰りに寄り道していくことにした。
日が西に傾き始めた頃、ノブと別れた凪と玲奈は帰り道を歩いていた。
「ノブさん強かったか?」
凪の質問に対して玲奈は隠すこともなく「いや、気迫で敗けて構えただけで終わってしまった」と答え、「ハハハ」と力なく笑う。
「ノブさんの剣術は二刀流による嵐のような乱舞が特徴的だからな。構えた状態で向き合っただけでなます切りにされたような感覚になる。鉄属性の魔法剣士以前に剣士としてのレベルが異能者並みに高い」
辛くもノブに勝つことが出来た凪はそう言うと、本来の実力以下の状態で気迫で敗けていたことに気づいた玲奈は自分がどれ程未熟なのか思い知った。
「特筆した才能もまた異能か・・・・・・」
玲奈はそう言うと凪は「大体合ってる」と言って、話題をヨイチとの会議の議題に変えた。
「ああ、それと・・・・・・来週、大仕事があるから師団の方に報告してもらっていいか?」
それを聞いた玲奈は「どんな仕事だ?」と尋ねると、凪は楽しそうな顔で答える。
「ここ最近俺らにちょっかい出してきた奴らを潰す!」
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