第38話・真っ赤なベリー

 昼休みの予鈴が鳴り、凪たちは屋上から校内へ続く階段を下って廊下に差し掛かったところで、ある生徒とカチ合った。


「あれ? 京奈先輩?」


 玲奈は自分達の進行方向を塞ぐように廊下の真ん中に仁王立ちしている凪と玲奈を襲った元異能風紀委員の氷室 京地の妹で現異能風紀委員である京奈に気づき、声をかけると、京奈は虚ろな目で「ラグラス」と呟くと、何も無い空間から青い金属光沢を放つ槍を取り出して構え、凪たちに向かって突進した。


 流石にもう学校で襲ってくる奴はいないだろうと思っていた凪たちは「え? ちょっ!?」と驚きの声を上げる。


 だが、なにかおかしいと思った玲奈が「グレイプニル!」と叫んで、右手から伸ばした自身の能力の鎖で京奈の上半身をグルグル巻きにした。


 すると、糸が切れたように京奈はその場に前のめりに倒れ、うなじからボトリとタコのぬいぐるみが落ちた。


「これは?」


 凪はスッとぬいぐるみを手に取るが、見た目とは裏腹にズシリと重い感触が両手にかかり「?」と変に思った凪はぬいぐるみをビリビリと引き裂いた。


 すると、ぬいぐるみの中から姿を現したのは、ぬいぐるみと同じ形をした機械の骨格で、所々に奇妙な模様が描かれている。


「これは……所々かけてはいるが……軽量化と催眠術系のエンチャントをかけたゴーレムか? なんでこんなものが異能風紀委員の首に……」


 凪は疑問を口に出していると、下の階からダカダカと上履きを鳴らしながら異能風紀委員数名が上がってきた。


 全員の目が虚ろで各々が手に血縁種特有の武器を握って、こちらを殺すような勢いに凪たちは顔を青くする。


「散開! 幽麻! 校舎を中心に半径1km圏内にいる不審者を叩きのめせ!」


 凪はそう叫ぶと幽麻は能力を発動してその場から消え、その場に残った3人は散り散りになった。


 時はほんの少し遡って予鈴が鳴ってすぐの事……


「もう教室へ戻りましょうか? にしても会議が長引いてるのかな? いつもは予鈴が鳴る前には教室の前にいるのに……」


 朱霧の学校案内を請け負っていた女子生徒が朱霧にそう言うと、朱霧は廊下の奥の方を見て「……少しお花摘みに行ってくるわ」と言ってひとりでトイレに向かうと女子生徒も後に続いた。


 場所は戻り、亜由美は一階の体育館へ続く渡り廊下へ出た。


「ここなら大丈夫やろ?」


 亜由美はそう言ってトレーサーを取り出して起動する。


アイちゃんボイス「スマッシャー! 皆をポカポカ! デストロイ♪」


亜由美「モード・ブルータルスラッガー!」


 亜由美はトレーサーから出た黄色の野球ヘルメットをかぶり、バットを構えた。


「ブッ飛べぇ!」


 そう叫びながら亜由美は戦闘に立っていた風紀委員の腹部に会心の一撃を叩き込み、吹っ飛ばされた風紀委員は後続組に直撃して、ドミノ倒しのように倒れる。


 間髪入れずに亜由美は、一度バットを地面に叩きつけてからドミノ倒しで倒れている風紀委員たちにバットの先端を当てた。


「奔れ! エネルギーのビート!」


 バットを介して地面を叩いた際に発生した運動エネルギーと衝撃エネルギーを直で流された風紀委員たちのうなじについていたタコの人形は、ガワがはじけ飛び骨格が飛び出してバラバラになった。


「これがチェン姉とかやったら校舎もろとも終わっとるな」


 亜由美はそう言いながら右手に握るバットをトンッと肩に置くと後ろからザリッと足音がした。


 亜由美は「ん?」と振り向くとそこには朱霧がいた。


「あれ? アンタ確か監視役の付きのはずじゃ……」


 クラスが違うとはいえ、朱霧のことを知っていた亜由美はそう尋ねると「邪魔だからしばらく再起不能になって貰った」と答え、突然何もない空間から巨大な大鎌を取り出す。刃の部分は鋸のようにギザギザしており、禍々しい赤黒いオーラを出している。


「次はアンタの番!」


 朱霧がそう言った瞬間、津波のような強烈な殺気が亜由美に押し寄せた。

唐突な殺気に棒立ちになりかけた亜由美はハッと我に返ると、自身の目の前に肉薄して大鎌を右に振りかぶる朱霧がおり、ゴキンと重い金属音が鳴り響く。


 亜由美は朱霧の大鎌の一撃を両手に握ったバットで防いで鍔迫り合いになる。

凄まじい膂力にバットに亀裂が入り、亜由美は「嘘やろ!?」と驚きの声を上げると、朱霧はスッと右手で一枚の奇妙な模様が描かれた一枚の札のようなものを取り出した。


「スキルカード発動! 空域・幻葬万華鏡!」


 次の瞬間、朱霧の背後から青色の炎が伸び、ドーム状になって亜由美と朱霧を閉じ込めた。自身の状況にいち早く気づいた亜由美は、顔を真っ青にして「唸れ! エネルギーのビート!」と叫びながら朱霧に殴りかかった。


 だが、その一撃は届く前に朱霧が「無駄よ」と一言言うと、亜由美は燃え盛る青い炎に包まれた。


 数秒後、炎のドームが消えると同時にトレーサーの変身が解けて学生服のあちこちが焼け焦げた亜由美が力なく両膝をついて倒れた。


 そして、不運にも玲奈がその場に着てしまい、目の前の惨状を見た玲奈は、腰に差していた刀を抜いて斬りかかった。


 振り下ろされた初撃を朱霧は一歩後ろに下がってかわし「マスク・レッドベリー」と呟くと、紅いドレスを纏った貴婦人のようなマネキン人形が現れ、玲奈に向かって右手で手刀を突き出す。


 能力を発動する暇が無かった玲奈は体を左に傾けて避けようとしたが、右肩に手刀が掠る。


 玲奈は一度距離を取ると朱霧は「ブラッディ・カッター」と呟いて右手を玲奈に向かって振ると、刃渡り50cmの血の刃が玲奈に向かって飛んできた。


 間髪入れない連続攻撃に能力を発動する暇がない玲奈は右に飛んで血の刃をかわし、刀を右脇に構えて斬りかかろうとしたが、ガクッと何かが右肩に引っかかり、見ると先程の飛ばした血の刃が床に突き刺さっており、そこから太さ1cmほどの糸状に伸びた血が、玲奈の右肩に負った切り傷にくっ付いて剥がれない。


(遠隔操作も出来るのか!)


 玲奈は驚きのあまり、動きが止まってしまい、再び朱霧の方を見るとこちらに向かって大鎌を振りかぶる朱霧がそこにいた。

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