第39話・大乱闘スマッシュハイスクール! R1

 ゴキン! という鈍い金属音がその場に鳴り響き、素早く左手に握り直した刀で玲奈は朱霧の一撃を防ぐ。火花を散らし、凄まじい膂力のせいで刀身に亀裂が入った。


「グレイプニル!」


 玲奈は能力を発動し、青白い光を放つ鎖を右肩にくっ付いている血の塊にぶつけると血の塊は霧散する。


(流石は異能破壊の性能を持つデスサイス! この一撃でケリをつける!)


 先程の防御で刀はあと一撃を相手に当てる程度しか耐久力が残っていないと判断した玲奈はそのまま逆手で構えて朱霧の懐に飛び込んだ。


 そんな玲奈に朱霧は、右手をブラウスのポケットに入れて、銀の懐中時計を取り出して、パチンと蓋を開く。


「レベル6スキル! 時元崩壊・ワンタイムインフィニティ」


 この時、玲奈は何が起きた理解できなかった。

気づけば、数本の血のナイフで服を壁に縫い付けるように張り付けられていた。


 弾みで刀を落としてしまった玲奈は「しまった!」と声を上げると、朱霧はスッと玲奈に顔を近づける。


「……こうして見ると綺麗な首筋しているわね? その仮面の下の顔、拝見させて貰おうかしら?」


 朱霧はそう言いながら玲奈の仮面に左手を伸ばすと、グレイプニルで右腕の袖に突き刺さっているナイフを消して、自由になった右手で玲奈は朱霧の左手首をガッと掴んでこう言った。


「すまないが……この仮面は極力アイツと2人きりの時だけ外すと決めているのでな!」


 刹那、朱霧の真後ろでピリッと電流が迸ると、口元を焔の柄が入ったチューブバンダナで覆った凪が背後を取ってスーッと息を吸う。


「身体連破……」


 凪は左手を前に出して右拳を脇に構え、右足を半歩後ろに左足を半歩前に出した構えで、カクンと両膝の力を抜くと同時に両足の踵を反時計回りに回転させながら「オーバードライブ!」と叫んで朱霧の腹部に拳を突き出した。


 振り向いている最中ということもあって、凪の放った一撃は朱霧のブラウスの右ポケットに直撃し、ビキリッと何かが割れる音がその場に鳴り響く。


 だが……驚くべきことに、朱霧は会心の一撃を受けたのにも関わらず、少しよろめいて数歩後ろに下がってから、両足で踏ん張って体勢を立て直す。


 凪は驚きながら朱霧から距離を取った。通常なら吹き飛ぶか魔術的装甲をつけている者ですら口から血を吐くようなダメージを受ける一撃を受けて倒れない朱霧に驚きを隠せなかった。


「あの時もそうだった……あの子は私を守ってくれる」


朱霧はそう言いながら壊れた懐中時計をポケットから取り出して凪に見せる。


「懐中時計!? 打点がズレたのはそれか!」


凪は不意打ちで決めれなかった原因に驚きながらトレーサーを右手で構えた。

 左人差し指で赤のメモリーを擦ると青のメモリーに変わり、起動する。


葵ちゃんボイス「ナイト&ナイト! オーバードース! ガッシーン!」


凪「モード・マルチギア!」


 装置から青い光が放たれると、ウルフ&セイントの黒の十字剣が出て、凪はそれを両手で掴んで構えた。


 朱霧がデスサイスを構えると同時に、凪は地面を蹴るように踏み込んで朱霧に斬りかかった。


 間合いに入ると同時に、上段から振り下ろすも朱霧は柄の部分でその一撃を受け流し、クルリとプロペラのように回転させて左から右へ振りぬいた。


 凪は剣を盾に火花を散らしながら防ぎ、その場に重い金属音が鳴り響く。

玲奈は加勢するために服の袖に突き刺さっている血のナイフをグレイプニルで無力化して拘束から逃れる。


 そして、床に落ちていた自身の刀を手に取って加勢しようと思ったが、負傷して床に倒れている亜由美を見て、頭の中に浮かんでいた優先順位の一番が「凪の加勢」から「亜由美を保健室連れて行く」に変わった。


(凪なら負けることは無いだろう)


 そう思った玲奈は、亜由美に左腕を掴んで肩を貸すように持ち上げて引き摺るようにその場から離れた。


 一方、その頃の幽麻は……

学校の屋上で「ウラァ!」という掛け声とともに顔を隠すように包帯を巻いた黒のローブを纏った男にシャイニングウィザードをぶちかましていた。


 男は「へぶぅ!?」という悲鳴をあげて吹き飛び、地面を転がるも体勢を立て直し、右膝を地面について右手で顔面を抑える。


 幽麻は能力のリキャストタイムに入っていながらも自前の脚力で男に肉薄し、右足で追撃の突き蹴りを放ったが、男は「フォース・トゥ・アイアン」と呟くとゴーンと重い金属音が鳴り響き、自身の放った蹴りが跳ね返された幽麻は後ろによろめく。


 よく見ると、幽麻と男の間にある空間が蜃気楼のように歪んでいた。


「防御魔法! お前……レベルいくつだ?」


 幽麻は能力のリキャストタイム終了までの時間を稼ぐために男にそう尋ねる。


(俺の予想では多分2か3……)


 頭の中で幽麻は1から6のカースト図で、目の前の男の実力をレベル2と3の中間と予想したが、男は包帯の隙間から見える目で幽麻を睨みながらこう言った。


「答えると思うか? レベル3スキル・ロックスピット!」


 男はそう叫ぶと同時に右人差し指を上に向かって指すと足元の床が隆起し、6本の槍となって伸びて幽麻を串刺しにしようとしたが、その攻撃は幽麻に当たることは無かった。


「バカが! 時間は十分稼いだ。スピードスター・バンブルビー」


 能力を発動した幽麻は光の速度で動く。当然、秒速30万km(1秒で地球を7周半できる速度)で動ける幽麻にとって能力発動中は周りの世界が静止している状態に近い。


 床から伸びる槍の右脇を通って男の後ろに回る。


「安心しな。殺しはしねえ!」


幽麻はそう言って、右足を振り上げて男に向かって振り下ろした。

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