第34話・団長参上!

 亜由美が異能使いに会心の一撃を決めてから1時間後のこと……凪たちは霧雨署にいた。


 取調室の前の廊下の長椅子に凪たちは並んで座って談笑していた。

すると、取調室の扉が開いて白Yシャツとジーンズ姿の茶髪ショートヘアの凪たちと歳の近い男子高校生が出てきた。


「おう、サム! 今回は助かったぜ」


 出てきた男子高校生に凪は労いの言葉をかけるとサムは気さくな態度でこう言った。


「流石に10機近くの機体を飛ばして操作するのは疲れたよ。おまけに俺の能力は燃費が悪いからすぐに腹が減る」


 サムはそう答えると「ぐるるるる」と腹の虫が鳴る。

菅野 治 あだ名・サム 16歳、クラン「夜天華撃団」の団員の1人で凪や幽麻と同じ死神の力を持つ。シャドウ名「インディペンデンス・カタパルト」右腕の飛行甲板からラジコンサイズの戦闘機を発進して戦うことが出来る装飾型のシャドウの使い手で「デストロイヤー・サム」の異名を持つ。


 そんな話をしていると、取調室から黒髪ロングヘアの30代後半のスーツ姿の女性が左を腰に当てて出てきた。


「とりあえず聴取は終わりだ! 咲ちゃんとサム君の2人はあたしが駅まで送るから凪たちはもう帰っていいよ」


 女性は凪たちにそう言うと、玲奈を見て「玲奈ちゃんは今夜ウチの家に泊まっていくかい? パジャマはあたしかメリーのを貸すけど?」と尋ねると亜由美がこう言った。


「玲奈はウチと一緒にクランの拠点に泊まるから大丈夫やで!」


 そう言われた女性は「そうか」と言って凪の方を見てこんなことを尋ねる。


「ところで凪、お前が捕まえた容疑者なんだがちゃんと10本ついているのに「指が千切られた」のなんだの喚いていたらしいが本当にやったりしてないだろうな?」


 そんなことを尋ねてきた女性に凪は呆れた顔で答えた。


「母さん……俺が本気でそんな拷問すると思う?」


そう、実を言うと凪たちと話しているこの女性刑事は凪の母親なのだ。

鈴羅 薫(かおる) 41歳、ここ霧雨署の異能捜査課の課長で階級は警視で霧雨市支部の師団の幹部でもある。


 凪は最後に「まあ、目隠しつけて指の骨2本ぐらいへし折りはしたけど」とボソッと小声で答えると薫は「まあいい」と右手で頭を掻いてから何かを思い出したかのように凪にこう言った。


「ああ、そうだ! 凪、ヨイチ君も事情聴取で明日の午前中にこっちへ来てもらうから駅に迎えに行ってくれ。寄り道するんじゃないぞ?」


 そう言われた凪は「解った! あとで本人にメールを送っておく!」と言って咲たちと別れて玲奈と幽麻と亜由美の3人と一緒に署を出た。


 そして翌日の朝、凪は浴衣からいつもの白Tシャツの上に黒のジップパーカーを羽織って裾をふくらはぎの辺りまでロールアップしたジーンズ姿に着替えた凪とメリッサに選んでもらった明るい緑のYシャツを袖を捲って着て、水色のプリーツの入ったミニスカートと黒の2分丈のスパッツを履いた服装でいつも通り竹刀ケースを右肩に背負って猫のぬいぐるみの頭を模した藍色の仮面を被った玲奈が駅の改札口近くに来ていた。


「……ここ最近で思ったんだが夏場にそれつけてて顔周り蒸れたりしないのか?」


 凪は玲奈の顔を見ながらそんな疑問を口にすると、玲奈は「別に化粧もしないから気にしたことは無いな」と答えると玲奈の素顔を見たことがあった凪は少し驚く。


「お前、あれでスッピンだったの! ビックリだわ」


 そんな話はさておき、これから会うことになるヨイチについて玲奈は尋ねる。


「ところでこれから会うヨイチと言うのはどう言った奴なんだ?」


 玲奈の質問に対して凪は「ただの高校生だ」と答えると、玲奈は少し間を開けて「……真面目に聞いているんだが?」と尋ねると凪は「真面目に答えているんだが?」と答えた。


 納得のいく答えを貰えなかった玲奈は師団への報告に困ることもあって詳しく聞いてみることにした。


「私たちみたいに能力を持っているんだろう? 咲さんみたいな強力な能力を持つ能力者を纏める程だ。きっとそれ以上の異能の力を……」


 玲奈を遮るように凪はヨイチの事を話す。


「いや、冗談抜きでヨイチは異能の力を持たないただの人間だ。おまけに喧嘩嫌いで現場では単独による実戦経験が無い……だが、情報収集能力と危機感知能力が優れている」


 そんな人間が異能の力を持つ者たちを纏めている? 些か信じられなかった玲奈は「信じられん……異能の力を持たないのになぜそんなことが……」と口に出すと、凪はこんなことを言った。


「前にも言ったが俺は異能の力を捨てて戦っていた人間だ。無論、その間にやった仕事では一度の失敗も無かった。ヨイチと俺は真逆の人間とよく言われたが……まさにその通り、俺は肉体派でアイツは頭脳派! 俺は対魔法使い戦専門でアイツは解析専門! つまりはそう言うことだ」


 凪はそう言いながら自分に襲い掛かってきた魔法使いがつけていた指輪を見せた。


「!? お前それは!」


 玲奈はそれを見て驚きの声を上げるが、凪はそれを遮るように「お袋からちゃんと許可は貰って来たから大丈夫だ」と答えて持ってきた目的を話す。


「ヨイチに解析させる! 連中にどれ程の財力があるのか? 専属の魔道具職人がいるのかが解る」


 そんな話をしていると、到着した電車から降りてきた人たちが改札口から出てきた。その中に周りの人間に揉まれている青年がいた。


「こっちだヨイチ! 久しぶりだな」


 凪はそう言いながら人混みに揉まれている青年の左腕を右手で掴み、引っ張り出した。


 凪が引っ張り出した青のTシャツと白の半ズボン姿の茶髪ショートヘアの青年は自分達と歳は同じだが、男にしては随分と体の線が細く。自分達のように武術を嗜んでいないのは解る。


「ゴメン凪君! 助かったよ」


 玲奈はヨイチの優しそうな顔を見て、すぐに解った。


(……凪の言う通り本当にただの一般人だな。魔道具などを持っている気配を感じるが……まるで殺気を感じない)


 ヨイチはふと玲奈の頭から爪先を見て、凪にこんなことを尋ねた。


「ところでこの子は凪君の彼女さん?」


 玲奈は仮面の下の顔を茹った蛸みたいに真っ赤にしながら「断じて違う!」と大声で否定した。


 そんな玲奈に対し、ヨイチは「ああ、ゴメン!」と謝ってから自己紹介を始める。


「夜天華撃団・団長の奈留上(なるかみ) 要一(よういち)だ。みんなからはヨイチって呼ばれてる」


こうして、玲奈はまた凪の交友関係を知ることになるのであった。

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