第33話・野蛮な打者

 場所は戻って爆発が起こった路地の方では噴煙が立ち込める路地からヒョコッとカウボーイのような格好をした男が出てきた。


 その視線の先にはバンダナが下にズレて浴衣がボロボロに焼け焦げ、ガードレールに海老反りで寄りかかっている凪を見て「♪」と高揚したような様子で歩み寄る。


「魔法で隠していたトラバサミに足を挟まれた状態で6個以上の手榴弾が至近距離で爆発したんだ。中までこんがりなって……」


 ピクリとも動かない凪に歩み寄りながら男はスマホを取り出して写真を撮ろうとしたその時……死んでいると思っていた凪はグアッと起き上がった。


 突然の出来事に男は「なっ!?」と驚きの声を上げるとともに左頬に凪の右ストレートパンチが決まる。


 男は「はぐぅわあ!?」と後ろに倒れ、凪はゲホッと黒い煙を吐き出しながら軽く咳き込む。


「バカな! 直撃したはずだぞ!」


 男は倒れたまま痣色に腫れあがった左頬を左手で抑えながら驚く男に、凪は「あんな爆竹なんぞで俺を殺せると思ったら大間違いだ」と嘯きながら男に歩み寄る。


 不思議なことに凪の浴衣と両手の包帯は焼け焦げてボロボロだが、髪留めと肉体に関しては不自然なほどに傷一つもない。


「俺の射程距離は解っていても能力の利便性は知らないらしいな?」


 凪にそう言われた男は凪の能力を改めて思い出す。


「しまった! フルメタルアルケミスト……死神の中では珍しく治癒の能力も持つ稀有な死神!」


 そういう男に対して凪は藪から棒に「ところで俺の家系の黒い話は聞いたことはあるか? 魔女狩りの魔祓い師が最も得意とすると言われていることだが……」とそう言いながら唐突に自身の右側の建物の壁を破壊する。


 破壊した壁の向こう側は男子トイレになっていた。


「さて……ちょっとお話しようか? いやなに怖がることはない! もげてもちゃんと治してやるからさ」


 凪にそう言われた男はこれから自分の身に起こることを理解してしまい「いやああああぁぁぁぁぁ!」と目の端から涙をこぼし、悲鳴をあげながら凪に引きずられるようにトイレに連れて行かれた。


 一方その頃……亜由美は会場近くの人がいない公園で青の浴衣を纏った金髪ショートヘアの女性と対峙していた。


「逃げさへんぞ? お前を絞めて異形の発生を止めさせてもらうで!」


 しかし、相手も覚悟を決めていた。女は紫色の野球ボールサイズの水晶を取り出す。


「かくなるうえはある! レベル4スキル・百鬼夜行!」


 突然、水晶が眩しい光を放って割れると女性の回りに百体近い、大型犬ほどのサイズの蟻や蜥蜴、そして金魚の異形が煙を挙げて現れた。


「これほどの数の差は流石に埋められまい!」


 女は余裕そうにそう言ったその時、機関銃の乱射音が鳴り響くと同時に自身の両脇にいた異形達が蜂の巣され、ラジコンサイズの戦闘ヘリがプロペラの回転音を響かせながら女の頭上を通過した。


「凪の言うてたサムっちゅう子の能力か? いくらウチの奥の手でも少し心配やったから助かるわ」


 亜由美はそう言いながら浴衣の懐から右手で普通のスマホより一回り小さい黒の板にトリガーのような輪っかと黄色のUSBメモリーのようなものがはめ込まれている何かの装置のような物を取り出した。


 凪や幽麻と同じように亜由美はそれを前にかざすとUSBが光り、電子音声が鳴り響く。


アイちゃんボイス「スマッシャー! 皆をポカポカ! デストロイ♪」


亜由美「モード・ブルータルスラッガー!」


 装置から黄色の光が放たれるとともに、黄色の野球のバッターが被るヘルメットと同じ色の金属バットが装置から出てきた。


 亜由美は左手でヘルメットを被り、右手にバットを握ってバッターボックスに立つように構えて叫ぶ。


「よっしゃ、いくでえ!」


 亜由美は足元に落ちていた空き缶を拾って異形使いであろう女に向かってカキーンと済んだ音を鳴らしながらノックした。


 女は即座に自身の周りに出している異形を盾にするが「巻き上げろ! エネルギーのビート!」と亜由美は呟くように言うと、異形の群れの一体に当たった空き缶が糸のように解けて蜘蛛の巣のように広がって異形達に絡まり、竜巻のように上空へ巻き上げて食い込んだ糸が異形達を細切れにした。


 そして、亜由美は異形使いの女に向かって突進し、それに続くように先程のラジコンサイズの戦闘ヘリが機銃掃射をしながら後に続く。


「波打て! エネルギーのビート!」


 亜由美はそう叫んで地面に向かってバットを振り下ろし、先端がゴッと音をたてて当たると同時に地面が捲り上がって異形の群れを吹き飛ばした。


 暴れ狂う亜由美に異形使いの女はただその場から動くことが出来なかった。

亜由美が「ヒャッハー!」なテンションでバットを振り回していると、気づけば百体近くまでいた異形はいなくなっていた。


「この……化物がああああ!」


 女は懐から拳銃を抜いて、自身の目の前にいる亜由美に向かって右手で構えると亜由美はバットの先端を銃口を塞ぐように当てた。


 興奮していたせいか? 引き金に指をかけていた女の銃は暴発する。

だが、パアンという耳をつんざくような火薬の炸裂音だけがその場に響き、亜由美は銃口からバットを離すと、潰れていない状態の銃弾が地面にポトリと落ちた。


「バカな……銃が爆発するならまだしも、なぜ発射された銃弾が潰れもしない!」


 そう驚く女性に亜由美は自身の能力を説明した。


「ウチの能力「ハードビート」はエネルギーを操る能力……運動エネルギー・電気エネルギー・熱エネルギーetc……ウチの体は変電所と同じ!」


そして、呆気に取られて動けない女性の腹部に左拳をポスッと当てた。


「さっきの銃弾の運動エネルギーを吸収して拳に載せた! 身体連破……」


 そう言う亜由美に対して、一体何をする気なのか理解が追い付かずに棒立ちになっている女性に亜由美は「オーバードライブ!」と叫び、左拳に溜まっていた運動エネルギーを放出した。

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