第32話・オペレーションゴールドフィッシュ

 まるで目の前に落雷でも落ちたのかのような出来事に驚いた凪と玲奈が次に目にしたのは軽トラックサイズにまで巨大化した先程まで水の入ったビニール袋の中にいた三色出目金だった。


 サイズ以外に他の金魚と違う点と言えば、肉食魚のような鋭い歯が剥き出しなっており、腹びれの部分がカエルの足のようになっている。


 金魚は大きな目でギョロリと凪たちを見据えるとグアッと口を大きく開けて飛びかかった。


 だが、既に異形などを相手にしてきた凪と玲奈にとって、存在だけで圧倒されるような相手ではない。


 凪は「フルメタルアルケミスト!」と叫んでシャドウを出し、飛びかかってきた金魚の異形に右拳でカウンターの蛙飛びアッパーを打ち込んだ。


 金魚の異形はそのまま宙へ打ち上げられ、仮面を装着した玲奈が「グレイプニル!」と右腕から青白い光を放つ鎖を出して金魚の異形の胴に巻き付けてると金魚の異形の体がみるみる縮んでいき、元のサイズに戻ると同時にポチャンと水路の蓋の隙間に落ちて行った。


 そこへコンビニから出てきた咲が幽麻達と慌てた様子で駆けつけてきた。


「咲! ヨイチに言われてきたのか?」


 凪は驚きながらも咲にそう尋ねると、咲はヨイチからの伝言を伝える。


「はい、なんでも「複数の犯人が鈴羅ファミリーを狙っている可能性がある」からということでサムと一緒にこっちに来ました!」


 それを聞いた凪はこんな指示を出す。


「サムに誘導用の機体を発進するように言ってくれ! 相手が複数なら多方面に別れた方が効率がいい。ラジコンサイズの戦闘機やヘリコプターが見えたらソイツを追え、援護が必要な奴のところに誘導してくれる」


 凪は最後に「散開!」と言って全員が四方八方に別れるが、玲奈だけは凪についていった。


「出来れば幽麻についていって欲しかったが……」


 小走りで会場内を駆けながら凪は玲奈にそう言うと玲奈は「すまないが私はお前の監視役だからな」と申し訳なさそうな声で凪に言うと、自分達の後ろで先程と同じ落雷のような光が落ちて金魚の異形が現れた。


 2人は振り向くと、そこには小学生ほどの子供たち4人がそこにいた。どうやら近くにいる者を優先して襲うのか? 金魚の異形は近くにいた小学生ほどの子供たちに襲い掛かっていた。


 この時、玲奈は何を思ったのか……凪より先に前に出て「グレイプニル!」と叫んで右腕から青白い光を放つ鎖を金魚の異形に巻き付けて元の姿に戻す。


 だが、金魚の異形は一体だけではなかった。玲奈の目の前には3匹の金魚の異形がいる。


 凪は玲奈の援護に入ろうとしたが玲奈は「行け! ここは私がやる!」と言って構えた。

後ろ髪を引かれるような思いで凪はその場を後にし、異形使いを探しに向かう。


 一方、幽麻達の方にも金魚の異形が出てきており、幽麻は射的屋の近くに現れた異形と対峙していた。


 幽麻はチラッと自身の左でコルク銃を持って異形に驚いている子供の手元にある予備のコルクが置かれた白の小皿を見て「おっちゃん! これでこの子にもうワンゲームやらせてくれ」とお代を置いてコルクを手に取る。


「凪はベアリング(鉄球)でこの技をやるんだが……俺ならコレでも十分だ」


 幽麻はそう言ってシャドウを出し、紫色のカンテラから出た光の玉は右手とコルクにつき、幽麻は人差し指を巻き付けるように固定したコルクを親指で弾いた。


 放たれコルクの速度は、最早人の目で追えるようなものではなかった。

光と同じ速度で飛んで行ったコルクは金魚の異形の眉間を貫き、衝突の衝撃で木端微塵にした。


「……前に飴玉でひったくりの原付を破壊したことがあったが……運転手にあてなくて良かったな」


幽麻はそう言ってその場から次の場所へ向かって駆け出した。


 場所は戻り、凪は人気のない会場の端の方を駆けていると、路地の方から「ピュイッ!」とこちらを呼ぶような口笛が聞こえ、そちらへ視線を向けた。


 その時、凪が見たのは自身の下腹部に突き刺さる寸前のオレンジ色の光を放つ矢だった。


 矢が体に接触すると同時に爆発が起こり、凪は爆炎に包まれる。

路地の中から右手の人差し指にオレンジ色の光を放つ指輪をつけた茶色のテンガロンハットをかぶったカウボーイのような格好をした日本人の20代の男が路地から出てきた。


「大当たり! これで懸賞金500万は頂きだ!」


 男は意気揚々とそう言うと、爆炎の中から浴衣の所々が焼け焦げた状態の凪が出てきて「懸賞金500万だぁ? 安く見られたもんだな。裏社会は景気が悪いのか?」といつもの青い炎の柄が入ったチューブバンダナをマスクのようにつける。


 路地の奥へ下がっていく男に対してパキパキと鳴らしながら凪は近づこうとしたが、男は凪にこう言った。


「鈴羅 凪……シャドウの名はフルメタルアルケミスト、射程距離は徒手空拳と同じなんだろ? だから近づかれないように君を仕留める」


すると、凪の右足に突然ガチン! とトラバサミが噛みついた。


 凪は「いったぁ!」と驚いていると、男は自身の体の周りに無数のオレンジ色の光を放つ矢を展開した。


「そのままでは避けることは出来まい。この魔道具「緋色の矢玉」は手榴弾と同じ威力の爆発を起こす光の矢を発射できる! 今度は爆炎がお前の中まで焼き焦がすだろうな!」


 男はそう言って凪に向かって自身の回りに浮いている光の矢を全て放った。

それによって起こった爆発の炎は路地の外まで吹きだす。


 一方、その頃……

全ての異形を倒し、肩で息をしながら両手で鎖を引き延ばすように構えていた玲奈は、周辺に被害が出ていないことを確認してフウッと一息つくと、凪の向かった方からドーンと爆発音が響いてきたため何かあったのかと思った玲奈は「凪!」と言いながら音の方へ向かった。

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