第31話・打ち上げ花火とか金魚とか
そんなこんなで出店を回り始めた凪たちだったが……
自分達が心配していたようなトラブルが起こることも無く。甘味や小物などを取り扱っている屋台などを渡ってお祭りを楽しんでいた。
「おじちゃん! あのお面置いてないの?」
幼稚園児くらいの小さい子供が自身の後ろを歩いている玲奈を右手で指しながらお面の出店をやっている初老の男性にそんなことを尋ねて初老の男性を困らせていた。
そこを通り過ぎながら凪は「夏祭りとはいえなんでその仮面付けてきた?」と玲奈に尋ねると、玲奈は「前にも話したが顔を見られるのが好きじゃないんだ」と答える。
「既に俺とメリーに素顔見られてるだろうが!」
凪はそう言うと、口論になりそうなのを察した亜由美が後ろから「そろそろ花火の時間やし移動せえへん?」と声をかけてきた。
「あと10分はあるし、そんな急がなくてもいいんじゃないか?」
幽麻は腕時計を見ながらそう言うと、凪は何かを思い出したように「陸橋に行くのか?」と尋ねると亜由美が嬉しそうに「懐かしいやろ?」とはにかむ。
「眺めは良いが車の通りが多い場所だからな。最後に来た時は交通事故が起こってなかったっけ?」
最後に来た時に悲惨なことが起こったことを思い出した凪はそう尋ねると、亜由美が「あれなぁ……」と懐かしそうに言うと、幽麻が「あれって酔っ払いが当たり屋したんじゃなかったっけ?」と当時の事を思い出す。
そんな話をしていると、咲との一件で幽麻が飛び降りた河川にかかる陸橋についた。
それと同時に夕闇に染まる夜空がシュッと少し明るくなると一呼吸置いてドーンという爆発音がその場に鳴り響いた。
「おお、始まった!」
凪はそう言いながら周りの通行人たちと同じ方向を向いて、夕闇の空を彩る打ち上げ花火の方を見る。
打ち上げ花火が夜空を鮮やかに彩る中、凪の左に立っていた玲奈はふと花火に夢中になっている凪の横顔を見た。
「……」
何か決意めいたような玲奈は再び花火が彩る夜空の方を向く。
打ち上げ花火が終わり、凪たちは会場の方へ向かっていた。
「いやぁ、楽しかった! 今度来るときはヨイチ達も呼びたいぜ」
歩きながら凪はそう言うと、玲奈は「凪……話がある」と凄みのあるような声でそう言った。
何やら重要な話でもするような雰囲気を察した幽麻が「俺ら外れた方がいいか?」と尋ねると、玲奈は「そうしてもらえると助かる」と答える。
「じゃあ、俺らちょっとそこのコンビニ行ってくるわ」
幽麻はそう言って亜由美と一緒に凪たちから離れて近くのコンビニへ入っていった。
唐突に重大な話を持ち掛けられた凪だったが、特にそう言った話になる心当たりが無かったため「なんだ? 愛の告白か?」と茶化す。
玲奈は冗談抜きでの話ということもあり、右手で仮面を外した。
普段は滅多なことで仮面を外すことがない玲奈に凪は真剣な話であることを察する。
玲奈は「凪……」と静かに名前を呼ぶが、それから先の台詞が出ずに口をつぐむ。
一体何を言い出すのか? 楽しみと不安が混在している中、凪は何も言わずにただ玲奈が何を言うのかを待った。
一方、コンビニに入っていた幽麻と亜由美だったが、予想外な出来事が起こっていた。
幽麻はドリンク売り場の扉を開けてスポーツドリンクをひとつ取って扉を閉めて振り返るとそこには咲がいた。
「幽麻さん! こんなところで奇遇ですね」
凪の話では忙しくてこっちへ来れないはずの咲がなぜここにいるのか? 幽麻は驚きながらも「驚いた! どうしてこっちに?」と尋ねる。
幽麻の質問に対して咲はレジに向かいながら答えた。
「実は私の所属しているクランの「団長」が「もしものことがあるから2人程現地に向かって凪にこのことを伝えてくれない?」と言い出したもので……」
それを聞いた幽麻は「団長」とはクランマスターであることは解るが、咲と一緒にきたメンバーが誰なのか気になった。
「咲さん以外には一体誰が来たんです?」
幽麻の質問に咲は相方の事を話す。
「メンバーの中で索敵能力の高いサムを連れてきました。今は少し離れた所にある歩道橋から会場全体を見張ってます。ところで凪は近くにいますか? 犯人が複数である可能性が……」
咲がそう言うと、外の方でドーン! と雷が落ちたような轟音が鳴り響き、コンビニの窓ガラスを揺らす。
ほんの数秒だけ時を巻き戻し、玲奈が凪に何かを言おうとした時……
「凪……わた……」
玲奈は喉の奥から絞り出すように凪にあることを尋ねようとしたその時、2人の足元に金魚すくいで捕まえたであろうビニール袋に入った1匹の三色出目金が2人の足元にポスッと落ちた。
一体誰が落としたのであろうそれに凪と玲奈は揃って金魚に視線を向けると、金魚と一緒に紫色の結晶のような物が入っていた。
金魚と結晶が触れるとパリッと金魚から電流が迸り、空に向かって一筋の光が伸びると同時に落雷のような轟音が辺りに鳴り響いた。
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