第7話・凪の能力について

 授業が終わって放課後……少し疲れた様子で、凪は玲奈と一緒に帰り路を歩いていた。2人の後ろには幽麻と亜由美もおり、4人で下校という形になっている。


「本当に……酷い目に遭ったぜ。中学時代に散々暴れたから高校生活は静かに過ごそうと思ってたのに、どこで道を間違えたんだろうな?」


 凪の自問に亜由美が「それがお前の運命だからやないの?」と言う。


「俺の「能力」でそんな運命なんかぶち壊して理想の運命に作り変えれたらいいのに……」


 ウンザリしたような顔でそう言う凪に凪の能力がどういったものなのかを知らない玲奈は「そう言えば凪のシャドウの「能力」って何なんだ?」と尋ねた。


 凪はそんなことすら話していなかったことを思い出し、玲奈に自分の死神の異能を説明する。


「俺のシャドウ「フルメタルアルケミスト」は触れただけどんな物でも破壊し、破壊した物を別の物に作り変えたり、破壊する前の状態に再構築することが出来る能力だ。物理法則による制約がかかる能力だが、それでも便利な能力なんだ。骨折しても元通りに直せるし、手足を切断されても切断された手足があればつけ直すことが出来る。治療に使う際の欠点としては治した瞬間に激痛が走るところだな。度合いによってはショック死を起こす可能性もあるから治療能力としては万能じゃない」


 聞く限りでは汎用性の高い異能の力だと解る。だが、なぜそれほどの異能があるのにも関わらず「氣功術」を使っているのか? 気になった玲奈は凪に「普段の戦闘でなぜ「能力」ではなく「氣功術」を使うんだ?」と尋ねるとそれについては幽麻が話してくれた。


「答えは簡単……凪が安易に「能力」を使ったら2次被害の規模がとんでもないことになるからだ。まさかとは思うが凪があんな「三下相手に本気を出していた」なんて思ってたのか?」


 アレが全力ではない……幽麻の言葉を聞いて玲奈は戦慄した。


「伊達なんかで当時13歳でこの街の「異能力者ランキング」に2位につけるわけあらへんからな」


 続くように亜由美がそう言うと玲奈は思わず「え!? 異能力者ランキングでそんな上位に上り詰めたのか! 地域にもよるがひとつの街で上位に入れる可能性を持つ奴は6000人中僅か0.0005%しかいないと聞くぞ」と驚く。※6000人中3人の割合

 凪は当時のことを懐かしく思いながら話す。


「まあ、当時は「師団」に仲間として認められたい一心でやっていたからな。結局は認められなかったが……」


 そして、玲奈はそんなレベルの実力者である凪が本気を出したらどうなるのか? 思い切って聞いてみた。


「ちなみに……仮にだぞ? もし凪が本気で「能力」を使って戦ったらどうなる?」


 玲奈のその問いに幽麻と亜由美は口をつぐんだ。凪もそれだけは言いたくないような顔をしている。

少し間が空いて、凪は固く閉じていた口をようやく開いた。


「……冗談として捉えるかどうかはそっちの勝手だが、俺はこの街の「異能力者ランキング1位」の人に挑んで戦った時……もちろん全力を出した。あの時に使える力は全て使った……場所は4階建ての廃ビルで決着をつけようとした俺は。まだ「未完成の技」でビルもろとも相手を潰しにいった……結果、その場に大きなクレーターが出来上がって廃ビルは粉々になってその瓦礫がクレーターを埋めた」


 凪はその時の事が脳裏に焼き付いていた。夕暮れの照らす瓦礫の山の上で疲れ切った様子で白のTシャツの上に羽織った黒のジップパーカーのフードを被って履いているジーンズの両膝に両手をついている中学1年の時の自分とそんな自分を見下ろすように夕日なんかよりも真っ赤に輝くオーラを放つ人物だった。


「……明日はGWだし、知り合いのところに挨拶回りに行こうかな?」


 ふと、凪はそんなことを言い出した。今日は金曜日で明日から大型連休が始まる。

凪はこの街の出身だ。


 玲奈はまだ土地勘があるわけでもなかったことと、街の案内を頼める人物がいなかったこともあり同伴できないかと考えた。


「私も同行していいか? この街の出身ではないから色々と知りたいのだが……」


 そう言いだした玲奈に凪は悩むことなく了承した。


「別に構わないぜ。ひとりで回るのも何かあれだったし……幽麻と亜由美も来るか?」


凪はそう言いながら後ろにいる2人も誘うが……


幽麻「スマン! 明日は朝から自転車便のバイトだ」


亜由美「ウチは「チーム」の仕事があるから無理やな」


 2人も暇をしているわけではなかったため、結局……玲奈と一緒に行くことになった。

幽麻達と別れた後、玲奈は凪にあることを聞いた。


「なあ、凪……お前とこの街の「師団」の間には一体何があるんだ?」


 玲奈の質問に対して凪は委員長の前で見せた時と同じ怪訝な顔つきになるが、スッと肩から力を抜くようにハアッと小さく溜息をついて答えた。


「俺と「師団」の間にはな……2つの溝があるんだ。ひとつは「嫌悪」俺は血筋では魔祓い師だが、魔祓い師の力が発現できない……言わば出来損ないだ。もうひとつは「恐怖」俺はこの街の異能力ランキング・2位の座についた時、俺より強いと思われていた魔祓い師全てを俺が倒してしまったことだ。全員というわけじゃないがそれを脅威として見ている奴が「師団」にいる……まあ、俺の事を出来損ないとバカにした仕返しを受けるんじゃないかとビビり上がってるチキン共に過ぎねえけどな」


 そう考えると今日、自分達に仕掛けてきた京地はどうなるのだろうか? 玲奈はそのことについて凪に尋ねる。


「京地先輩も凪の事は知っていたのか?」


 玲奈の質問に凪は解っていることを話す。


「いんや、知らなかったと思うぞ? 氷室なんて名字の魔祓い師は今日になって初めて聞いたからな。恐らく俺がいない間に他所の街から越してきたお上りさんで、俺の事なんて全く知らなかったんだろ」


 仮にそうだとしたら京地は相当愚かな奴になる。そんな京地とその部下を完膚なきまでにボコボコにした凪に喧嘩を売るのは無知な人間ぐらいだろうと玲奈は思う。

 そんなことを話していたら凪の自宅の前についてしまった。


「じゃあ、明日のお昼過ぎに!」


玲奈はそう言って凪と別れ、そのまま自身が住んでいるアパートへ向かった。


 ひとりで夕暮れの住宅街を歩いていると、なぜか寂しさを感じる。さっきまで凪たちと一緒にいたからだろうか?


(なんかひとりになると急に寂しく感じてしまうな。この街に来たばかりの時はそんなモノは感じなかったが、通学路を変えたからか?)※委員長から「監視」の指令を受ける前までは凪の家の前を通ることは無かった。


 謎の寂しさを感じながら玲奈は家路を急ぐ。玲奈の住むアパートは今歩いている道をまっすぐ進んで交差点に出たところを右に曲がって50m歩いたところにある駅の近くにある4階建てのアパートだ。


 だが、おかしなことに歩いても歩いても交差点にたどり着けない。

早歩きで歩いても交差点が見えないのだ。日が暮れて辺りが暗くなり始め、玲奈はふとあることに気づく。


(ん? 変だな。私はとっくに凪の自宅を通り過ぎていたはずだが……)


 玲奈が見て気づいたのは凪の自宅だった。今朝一番で訪れて少し前に凪とここで別れたばかりのため、見間違いではない。


(ループ現象? 凪の悪戯か? いや、凪は魔法を使えないはずだ。だとしたら何者かの悪戯か何かだろう)


 玲奈はそう思いながら何もない空間から右手で青白い光を放つ長さ2m以上の鎖を取り出すと、パリンとガラスが割れるような音がした。


 そして、取り出した鎖が煙のように消え、玲奈はそのまま真っ直ぐ歩き続けると、車が行きかう交差点に出ることが出来た。


「やれやれ……あんなところにループ空間を作ったのは一体どこの誰なのやら……」


 玲奈は呆れたようにそう呟きながら家路を歩く……この時、玲奈は自身の背にしている電柱の影からこちらを覗いている存在がいたことに気づいていなかった。

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