第14話

 一方その頃、べストーン王国。


 スレイが追放された後、この国では波乱が起きていた。


 原因はスレイの父親、国王のローガス・グラマンドが重病から復活したことにあった。


 実はローガスは、スレイの追放に賛同する書状など書いていなかった。それはスレイを追い出す決断をした、長兄のバルガス・グラマンドの策略であった。


 厳しく接していながらも、心の底では、武勇に優れていたスレイを評価していたため、それを知ったローガスは大激怒した。

 汚い策略を使ったことや、スレイが書き残した手紙を見ることになったというのも、激怒する要因の一旦となった。


 沙汰は追って下されると言われ、それまでの期間バルガスは怯えながら暮らすことになった。




(甘かった……)


 沙汰を待っている間、バルガスはこれからの展開を想像し、絶望感を感じながら自分の行動を省みていた。


 彼がスレイを追放したのは、自分の立場をより強固にするためだ。

 長男として、ローガスが死んだら、次はバルガスが国王になるのは決まっていることであったが、それでも兄弟の存在は怖い。


 スレイは態度も悪く不真面目であるため、嫌っているものは嫌っている。だが、武勇に優れている事は間違いないので、評価している者も意外といた。スレイの近くにいる教育係や、バルガスを含めた兄弟は、嫌っている者だらけだったので、スレイ自身はその事に全く気付いていなかったが。


 ローガスは武勇に優れた者を好む傾向にあり、兄弟の中では一番強いスレイを内心では気に入っていた。ローガスは、気に入った者を厳しく育てるという教育方針であったため、このことにもスレイは気付くことはなく、父親には嫌われていると思い込んでいた。


 バルガスは情報収集には長けており、その事には気付いていた。


 スレイは、やる気がないようだったが、もっと年齢を重ねれば、権力の強い魅力にひかれ、本気で国王を狙ってくるかもしれない。そう危惧をしたため、スレイがやる気を出す前に追放するという選択をした。


 多少の批判はあるだろうとは分かっていたが、父が重病で権力を手中に収めた自分に歯向かえるものは、どこにもいないだろうと考えていた。


 実際に上手く反対の声を抑え込んで、家臣たちを納得させることには成功した。


 しかし、そこでこのまま病で命を落とすだろうと、予想していた国王が奇跡的に復活した。


 失敗した点はいくつもある。

 そもそも急ぎすぎたこと。スレイがいつやる気を出すか分からなかったため、なるべく早く追放したいと思ったので、急いだのだが、国王が死んでからでも良かった。


 そしてそれ以上に、自分の甘さが原因であると、バルガスは思っていた。


 重病の国王は死ぬ可能性が高いのは間違いないが、復活する可能性も考慮は出来た。その可能性をゼロにするには、殺すしかない。


 殺すことは可能ではあった。国王の治療に当たっていた医者を、ちょっと脅せば済むことである。やらなかったのは、父親を自分の手では殺したくないという、気持ちがあったからだ。


 その気持ちは人間ならば、誰もが持ち合わせているものだ。しかし、権力争いをしようという人間には、余計なものであった。


 スレイを追放したことも甘さからの物だった。追放すればアウターに行くだろうというのは、分かっていた。だが、それでも何らかの罪を着せて処刑した方が、確実だっただろう。

 バルガスはスレイの事を嫌っていた。それでも、実の弟を殺すという選択はバルガスには出来なかった。


(クソ……父上はこれから私をどうするだろうか……かなり怒っておられたから、甘い処分になるとは思えない)


 不安で仕方がなかった。


 そして、沙汰が決まったので、今すぐこいと、王城の王の間にまで呼び出された。


 祈りながら王の間に向かう。


 王座には父が座っており、入ってきたバルガスを睨み付けていた。


 つい最近まで死にかけていた老人とは、思えないほどの眼力だった。


「バルガス。貴様には何度も兄弟仲良くやれと言ってきた。この世界信じられるのは血縁だけだと、何度も何度も言ってきた。スレイは、必ず武人となり国の危機を救うような男になる。わしはそう確信しておった」


 ローガスの言葉には怒気がこもっていた。バルガスは嫌な予感を感じながら、言葉を聞いていた。


「貴様はそれを破りスレイを卑怯な手を使い追い出した。そのような男にわしの後を継がせるわけにはいかん。国王は次男のルドーにする。貴様は辺境のクラーブの領主となるのだ」


 その言葉を聞いた時、バルガスは絶望した。


 国王は次男に。

 辺境クラーブの領主になる。


 バルガスが考えていた、最悪のシナリオが現実となった。



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