第13話

 ブルースター? どんな魔法だ?


 いまいち想像がつかない。俺は男に魔法に付いて尋ねる。


「ブルースターって魔法を習得したんだけど、どんな魔法だ?」

「……ブルースター? うーん、聞いたことないんだが」


 知らないのか。かなり珍しい魔法なのか?


「その魂石は初心者の洞窟で手に入れたものじゃないよな? あそこは巨大蜘蛛が落とす奴と、ロックミミックが落とす奴だけで、ロックミミックが落とす紫の魂石では、初級の四種類の魔法どれかが習得できるだけで、その中にブルースターなんて魔法はねぇ。どこで手に入れたんだそれ」


 俺は訳を話そうとしたが、そう言えばあの冒険者の男は、魂石を持ち帰ってはいけないとか言ってた事を思い出した。ここは話さない方がいいかもしれない。


 俺が訳を話すのをためらっていると、中年の元冒険者は何かを察したようで、「まあいいや、話したくないなら」と無理に聞いては来なかった。


「どんな魔法か分からねーと問題がある。魔法ってのはそれぞれ発動条件があるんだ。例えばサーチだと、器の数を調べたい対象の胸を数秒見るとかな。発動条件を満たした上で、魔法の名前を言えば発動すんだが、それが何なのか分からないんじゃ、使う事は難しいだろーな」

「何だ。使えないのか……」


 俺は少しがっかりする。


「俺はそんなに詳しい方じゃねーから、ほかの物知りな奴なら知ってるかもな。まあ、最も、この町にゃあ、町長くらいしか、物知りはいないがな」


 なるほど、じゃあ、あとで町長に尋ねてみるか。


 俺以外も魂石を食べ始める。


「あ、そうだ。スレイさん。白い魂石あげますよ」

「ん? いや、自分で食えよ」

「ほら、わたし蜘蛛のとどめを刺しちゃって、横取りしちゃったじゃないですかー。それのお詫びみたいなもんですー」


 あれはそこまで気にしなくてもいいのにな。


 くれるというのだから俺は貰って、魂石を食べた。


 これで合計五つ食べたが、俺の器はまだいっぱいにならない。


 ブロズが白いのを食べて、「あ、いっぱいになった」と呟いていたから、一個でそれなりの魂力を吸収していると思うんだけどな。


「わたし魔法飛距離アップ1ってスキルがつきましたよー。魔法はサーチでしたー」

「俺も魔法はサーチと、それからフレイムって魔法を習得した……スキルは毒耐性1だったよ」


 それぞれ習得した魔法とスキルを話す。

 ブロズは、岩のモンスターを倒した時に回収した、紫色の魂石を持っていたため、それも食べて魔法を習得したようだ。


 シラファは言う必要はないと感じているのか、無言だった。


「スキルの効果は大体名前で分かると思う。ま、1だと大した効果はねー。初心者の洞窟だと、それ以上の奴は出ねーさ。これから難しいレッドエリアに行けば、もっと強い魔法、スキルを覚えられる、魂石をゲットできるだろうぜ」


 俺に身に付いた炎耐性も数字は1だった。

 効果が低いなら、過信して火の中に飛び込んだりしてはいけないだろうな。


「そんで、フレイムは炎属性の魔法だな。手のひらを前に出した状態で、フレイムって言うと発動するぜ。使うと2%魂力を消費する」

「2%って、何の2%なんですかー?」

「器一個分の魂力の2%だ。あんま多くはないが、無駄使いはしては駄目だぜ。魔法は強いが、使うと魂力を消費して弱体化してしまうという、大きなデメリットがあるからな」


 魂力が身体能力を上げているから、魔法を使いすぎるとまずいのは確かだ。きちんと考えて使う必要があるだろう。


「スレイさんと、シラファさんは何だったですか?」

「俺は炎耐性1だった」


 尋ねられたので俺は答えたが、


「教える必要はない」


 シラファはあくまで冷たい態度を取り続ける。

 しかし、セリアがかなりしつこく尋ね続けたので、最終的に折れて答えた。


「逆境1ってスキルだ」


 シラファはイライラした様子だったが、最初に会ったときは、名前をしつこく聞かれても完全無視してたのに、今回は答えはしたので、若干態度が軟化しているのかもしれない。本当に若干だが。


「えー? それどんなスキルなんですかー?」

「さあ、ピンチになったら強くなるとかだろう。私はピンチにならないから、いらないスキルだがな」

「蜘蛛の糸に絡めとられたときは、ピンチじゃなかったのか?」


 俺が口を挟むと、イラッとした表情で、俺を睨み付けてきた。痛いところを突かれたのか、返す言葉はなかったようだが。


「さて、色々教えたが、まだ知りたいことはあるか?」


 まだ聞きたいことは――あるな。

 俺の器の件についてだ。一番それが聞きたかった。


「俺、器が一個なんだが、どんなに敵を倒してもいっぱいにならねーんだ。どういうことか、気になってるんだが、知らないか?」

「器がいっぱいにならない? 変だなそりゃ。さっき魂石五個食べてが、それでもいっぱいになってないのか?」

「ああ、ならなかった」

「それはおかしいぜ。魂石は五個食べれば、器一個は必ずいっぱいになる。ふーむ……そうだな町長に聞けば詳しいことが分かるかもしれないが……器一個に入る魂力の量は、普通より多い場合があるから、それかもな」


 あれ? 器一個分に入る魂力の量は全員一緒って言ってなかったか?


 レブロンの話を思い出してみると、そう言えば、極まれに少なかったり多かったりするやつがいるって、言ってたな。


「高位の冒険者に、器一個だけど最強レベルで強い奴がいるって噂を聞いたことがある。確かそいつは一個の器に入る魂力の量が、桁違いに多いんだったな。お前もそいつと一緒かもな」


 男はそう言った後、ハハハ、流石にそこまでは大きかねーか、と笑い飛ばした。


 だが、俺はその噂話を耳にして、自分の器は実はとんでもなく規格外な物かもしれないと、直感で感じた。



 ――――俺は最強になれるかもしれない。



 そう考えると心が大きく震えた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る