第11話
扉の先には広い部屋があった。
先ほどまで歩いていた洞窟は、自然にできた凸凹の地面だったが、この部屋は石のタイルが敷かれている。
壁もタイルが張られていた。明らかにここだけ人の手で作られた形跡がある。
緊張しながら中に入ったが、中には何もいなかった。
ただちょっと前に、何もないところに黒いもやが発生して、モンスターが出てきたのを目撃していたので、ここもそうだと思い、俺たちは部屋の奥までは行かず、入り口付近で身構えた。
俺の予想は当たり、黒い靄が部屋中に発生した。
中央に巨大な黒色の蜘蛛が出現した。人間より遥かにデカい。普通の家くらいの大きさだ。巨大蜘蛛の周辺には、小さい蜘蛛が数十体いる。小さいと言っても、通常の蜘蛛よりは大きい。狼くらいの大きさだ。
蜘蛛たちにはそれぞれ鋭い牙が生えていた。あれに噛まれると痛そうだ。
「き、気持ち悪いですー……」
セリアは顔を青くして蜘蛛たちを見た。女はああいう虫が苦手だよな。俺は全然平気だけど。
「お、俺も苦手だ蜘蛛は……」
男であるブロズも苦手のようだ。
シラファは特に怯える様子もなく、蜘蛛たちを睨み付けていた。こいつは俺と同じく平気なようだ。
さっきまでのモンスターは雑魚だったが、流石にあのデカいのは弱くはないだろう。油断はしてはいけないな。
早速巨大蜘蛛が攻撃してきた。
何か白い物が飛んでくる。一番前にいたブロズが咄嗟に盾を構えて、それを受け止める。
「う、うわ! 糸だこれ!」
攻撃の正体は蜘蛛の糸だった。絡めとられて動きにくそうにしている。
そのブロズに小さい蜘蛛たちが襲い掛かる。五体が一斉に飛びかかってきた。俺は咄嗟にブロズを襲ってきた蜘蛛を剣で斬った。セリスも矢を放ち、ブロズを助ける。
シラファだけは、連携をする気がまるでないようで、巨大蜘蛛めがけて走っていった。自分が倒して実力を示したいのだろうか。
ただシラファの行動は蜘蛛たち注目を集めた。そのおかげで、ブロズを蜘蛛の糸から解放する時間が出来た。それを考えての行動――ではないだろうけど。
剣でブロズの糸を切って、俺は解放した。
「助かったよ」
「当然の事だ。あの糸は受けない方がいいみたいだな」
「うん。今度からは避けないとね」
糸の速度自体は早くはなかった。避けるのは難しくないだろう。
さっき戦って分かったが、あの小さい蜘蛛は、はっきり言って雑魚だ。この程度なら何体いても、倒せると思う。
問題は巨大蜘蛛の方だ。あいつはたぶん弱くはなさそうだ。
今のところシラファが、上手く引き付けてるので、まずは小さい蜘蛛から倒して、そのあと四人で一斉に叩くのがいいだろう。
「まずは小さい蜘蛛から倒して、そのあと巨大蜘蛛を一斉に倒そう」
「わたしもそれがいいと思いますー。おっきいですけど、四人でかかれば倒せなくはないと思いますよー」
「俺も異論はないかな」
二人が了承したので、戦闘方針は決まった。
俺は小さめの蜘蛛だけをまず狙って斬って斬って斬りまくる。
やはり小さい蜘蛛は弱い。
俺が強くなったので、楽に倒せてるという事もあるかもしれない。
セリアとブロズも、小さい蜘蛛を倒していく。二人にとっても小さい蜘蛛は雑魚のようで、何の苦も無く倒していった。
一番倒したのはシラファだった。多くの蜘蛛たちが、奴をターゲットにしているため、一斉に襲い掛かられていたが、それを悉く切り伏せていた。ただし、それが原因で、シラファは巨大蜘蛛に攻撃は出来ていない。
ここでシラファに、巨大蜘蛛の糸攻撃が当たった。今までは避けていたが、小さい蜘蛛に気を取られ過ぎたようだ。糸に絡めとられ動けなくなる。
動けなくなったシラファを狙って、小さい蜘蛛たちが襲い掛かった。
気にくわない奴だし、助けてやらないと思ったけど、やっぱり殺しにするのは寝覚めが悪い。
シラファに襲い掛かっている蜘蛛たちを、剣で斬り裂いた。
セリアとブロズも、シラファに襲いかかる蜘蛛たちを倒す。
そのあと、シラファを絡めとっていた糸をほどいてやった。
「……」
なぜか助けたのに、恨めし気な表情で見られた。
まあ、感謝の言葉が聞けるとは思ってなかったから、別にいいけど。
小さな蜘蛛は殲滅できたようだ。あとは巨大蜘蛛だが……
こいつさっきから糸を吐いてくるばっかで、直接攻撃を全くしてこないんだよな。
出来ないのか、それともやってこないだけなのか。
そう思って巨大蜘蛛を見ていると、いきなり体色が黒色から赤色に変化した。
そのあと、黄色い液体を吐き出してきた。
当たるとまずそうだと思ったので回避した。
液体は後ろの壁に着弾。ジューと音を立てて、壁を溶かしている。これは当たらなくて正解だったようだな。
色の変化は、どうもこれから本気出すぜってことっぽいな。
巨大蜘蛛は、いきなり高速で動き始めて、俺を鋭い牙の餌食にしようとしてきた。
俺は避けるのではなく、チャンスだと思って、ジャンプして、剣を巨大蜘蛛の頭に突き刺した。
やったかと思ったが、思い違いだった。
巨大蜘蛛はまだ動けるようで、頭に乗っている俺を振るい落とすため、体を大きく揺らす。
何とか落ちまいと、頭に刺さった剣を固く握りしめていたら、剣が巨大蜘蛛の頭から取れてしまった。
俺は地面に背中から落ちる。
結構な高さから落ちたが、魂力の力で体が強化されていたためか、痛みはない。
しかし、落ちた場所が巨大蜘蛛の顔の真ん前だった。
巨大蜘蛛の牙が迫ってきた。体勢が悪いので避けられない。
――食われる。
そう思ったとき、槍が凄い速度で飛んできて、巨大蜘蛛の頭に突き刺さった。
シラファの槍だ。
どうやら彼女が投擲して、俺を助けてくれたようだ。
シラファは、若干不機嫌そうな表情で、
「借りは返す主義だ」
そう言った。
シラファの槍が刺さったが、巨大蜘蛛は苦しむだけで、死にはしていないようだ。俺は瞬時に立ち上がり、剣を手に取った。
そして、蜘蛛の頭部を何度も剣で斬り裂く。
緑色の液体が、大量に飛び散って、体に降りかかった。体にダメージはないので、先ほどの吐いてきた黄色い液体とは全く違うようだ。気にせず巨大蜘蛛を斬り続ける。
確実に弱ってきている。もう一押しで倒せそうだと剣を振り続けていると、矢が一本巨大蜘蛛の頭に突き刺さった。
その瞬間、巨大蜘蛛は態勢を崩し、動かなくなった。
どうやら死んだようだ。
巨大蜘蛛の魂力は――とどめを刺したセリアに吸収された。
「……な、何かごめんなさい」
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