第9話

 シラファは確かに強かった。

 動きも速さ、槍扱いの技術の高さ、どれも高水準だ。


 ただ、じゃあ、勝てる気がしないかというと、そうでもない。俺と互角くらいだと思った。


 シラファはモンスターを一人で全部倒そうとしている。魂力はどうやら、殺した人しか吸収できないようだ。モンスターの数には限りがあるかもしれないし、そうなるとシラファの奴ばかりに倒させるわけにもいかない。


 俺は急いで、モンスターを斬りに行った


 相変わらず遅いし、呆気なく倒せた。魂力が吸収される。


 セリスも弓を引いて、モンスターの頭を一撃で射抜いた。


 中々の精度があるようだ。

 セリアは強そうには見えないが、思ったより実力がありそうである。


 ブロズの方は積極的に攻撃に参加しなかったが、一匹がブロズの元へと向かった。左手で持った盾で攻撃をガードし、右手に持った片手剣で、モンスターの頭を攻撃。


 あまり剣自体の斬れ味は良くないのか、斬れはしなかったが、ブロズはかなりの怪力のようで、モンスターの頭を粉砕した。


 性格は見た目と違うが、パワーは見た目通りのようだ。


 俺を含めここにいるものは、全員それなりの戦闘能力を持っているみたいだ。


 モンスターは七体きて、俺が三体、シラファが二体、セリアとブロズが一体づつ倒した。


「全員私が倒してやるつもりだったのに。邪魔を……」

「俺の方が一体多く倒したぜ」


 勝ち誇った笑みを浮かべて俺がそう言うと、シラファはイラッと来たのか眉間にシワを寄せる。


「ふん、あんな雑魚一匹多く倒したがくらいで、勝ったつもりか? いいだろう。この洞窟にいるモンスターを、一番多く倒して、実力の差を思い知らせてやる」


 かなりイラついた様子で、シラファはそう言ってきた。

 この女、相当負けず嫌いなようだな。まあ、俺も負けるには嫌いだ。こいつみたいに、性格が悪そうな奴に負けるのは特にな。


「じゃあ競争だ。俺が一番多くのモンスターを倒してやる。お前が負かして、二度と偉そうな口を利けなくしてやる」


 俺とシラファは睨み合う。


「あのー、もうちょっと仲良く出来ませんかねー……洞窟を攻略する仲間なんですから」


 セリアが困ったような口調でそう言った。


 残念できないそれは相談だ。気に入らない奴は気に入らないものだ。


 そもそも向こうは、俺たちのこと仲間だとは思っていないようだしな。


 シラファと競争する事になったが、流石に未知の場所とあって、一人で抜け駆けして狩りに行くわけにも行かず、四人固まって先に進んだ。


 敵が出てきたら、すぐに狩ってやると、神経を研ぎ澄ませながら、先へ進む。


 しばらく歩き続けて、広い空間に出た。


 ここだけ天井に穴だ開いており、上から光が入ってきていた。光が降り注いでいる箇所には、植物が生えている。


 俺たちがその空間に足を踏み入れた瞬間、黒いもやが発生した。


 驚いて一旦後退して様子を見ていると、先ほど出た腕四つの猿にようなモンスターが出てきた。


 こいつらって、こんな湧き出るような感じで出来るのか? 親から生まれるとかじゃなくて。


 どうやらモンスターは、普通の生物と大きな違いがあるようだな。


 今回は大量に出てきた。パッ見て二十はいる。

 まあ、何体いようがこいつらに負ける気はない。


 シラファが先に戦うために駆け出した。俺も負けじと走り出して、モンスターを倒しに行く。


 さっき出会した連中同レベルか、むしろ少し弱いくらいで、数分足らずで倒し切った。


 俺は十一匹倒した。


 魂力を大量に吸収したせいか、凄く体が軽い。今なら相当早く走れたり、高くジャンプできる気がする。


 ほかの連中はどれだけ倒したのだろうか?


「……器がいっぱいになった?」


 シラファが突然そう呟いた。


「どうしたんだ?」

「敵を倒したらいきなり頭にそう声が響いた。なるほど器をいっぱいにしたら、わかるんだな」

「え? 俺にはそんなの聞こえてないぞ?」

「ふん、と言うことは、私の方がモンスターを大勢倒したと言うことだな」


 シラファがそう言うと、セリスが「えー?」と口を挟んできた。


「後ろから見てましたけど、お二人の倒した数は互角でしたよー。累計だとスレイさんの方が倒してますー」

「数え間違いだ」

「えー? 絶対互角だったと思いますけどー」


 実際俺は十一体倒したし、敵の数は二十くらいだから、互角くらいの可能性が高いと思うが。

 しかし、俺の器がいっぱいになっていないのは事実だ。そんな声は聞こえていない。同じモンスターでも、吸収できる魂力の量に違いがあるのかもしれない。


 疑問を残しながら先に進む。


 今度は違う敵が出現した。


 目が一つで角のある大きめの猫だ。虎ほどの大きさはなく、体毛の色は黒色である。


 こいつはさっきの奴より強かったが、それでもあっさりと対応できた。


 俺自身が魂力の力で強くなったと言うのも大きい。


 剣をかなり軽く感じていた。剣速も間違いなく速くなっている。


 防御力も上がっているようで、一度不意打ちで背後から爪で攻撃されたが、あまり痛くなかった。結構鋭い爪だったので、以前なら切られててもおかしくないと思う。


 そのまま洞窟を進み、モンスターを倒していった。

 魂力を集めていき、そのたびに強くなっている事を実感していたが、器がいっぱいになることはなかった。


 シラファの器がいっぱいになったと聞いたのが、実は聞き間違いえだったのではと思ったが、セリアとブロズも器がいっぱいになったと報告してきた。


「流石にわたしたちよりは、間違いなくスレイさんは敵を倒してますよね」

「どういうことだろう……?」


 セリアとブロズが不思議そうに言った。


 積極的に敵を倒す俺とシラファとは違い、ブロズとセリアはあまり敵を倒していなかった。


 それで、器がいっぱいになり、俺のはなっていない……


 俺だけ聞き逃したとか、もしくは俺は器が小さいだけでなく、吸収率が悪かったりするとか。


 まあ、考えても分からないし、この洞窟を出たら誰かに尋ねるか。




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