第8話

 初心者の洞窟前に到着したが、何やら様子がおかしい。


 洞窟前には俺たちと一緒にアウターに来た、初心者冒険者たちがいたのだが、全体的に雰囲気が暗い。

 服が赤く汚れている者も多い。怪我でもしたのだろうか。


「どうしたんだろう……」


 ブロズが心配そうに呟いた。やっぱりこの男は、見た目と中身が違う可能性が高い気がする。


「クソ……こんなところなら最初から言っておけよ……」

「三人やられちまった。一度出たらもう二度と入れねぇとか……どうすんだよ……」


 どうやら中にいたモンスターにやられたようだ。


 町長は弱いから倒せると言っていたが、なめてかかっていい相手ではなさそうだ。


「こ、これは気を引き締めていかないと、まずいようですねー」

「そのようだな」


 やはりアウターは、油断していいような場所ではないようだ。


「こ、怖い……」


 ブロズは怯えているのか、震えている。

 怖い物なんか何もない、と言いそうな風貌なのにビビってるようだ。


「……ふん」


 シラファは特に怯えた様子もなく、やられて帰ってきた冒険者たちを鼻で笑った。自分がやられるわけはないと思っているのだろうか。よほど腕に覚えがあるのだろう。


 俺は実戦経験が皆無なので、正直自分の剣がどれほど実戦で使えるかは分からない。ただ模擬戦では、負けた覚えはない。王城にいる凄腕の剣士相手でも負けなかったので、多分弱くはないと思う。王子だからと手を抜かれていたわけでもない。本気で行かないと、親父がめちゃくちゃ怒るからな。


 実戦となると、命を取られる可能性もあるし、模擬戦とはまるで違うが、俺に恐れはなかった。

 どちらかと言えば、自分の力が試せるという事と、アウターにいるモンスターとやらが見れるということで、ワクワク感があった。


 しかし、ワクワクしてばかりもいられない。油断したらやられる。それは肝に銘じていなければ駄目だ。


「よし、じゃあ入るぞ」


 俺は腰にかけていた剣を抜いて、洞窟の中へと入った。ほかの者たちも同じく武器を手に取って、俺に続いた。


 洞窟の中は薄暗かったが、前が見えないほどではなかった。壁に光を放つ謎の鉱物があるようだった。


 こんな鉱物は見たことないし、もしかしたらこれを採掘して元の世界に戻り売れば、大金が手に入るかもしれん。

 まあ、元の世界に戻る気もないので、やらないが。そもそも、採掘道具がないと採れないしな。


 洞窟の道は細く、一列になって歩いた。一番最初に入った俺が先頭を歩いている。


「お、俺が前を歩くよ」


 おっかなびっくりな様子で、ブロズがそう申し出てきた。


「お前怖いんじゃないのか?」

「怖いけど……でも、盾になるのが俺の役目だしさ。あんまり斬るのとか得意じゃないし。頑丈なだけが取り柄なんだ」


 怖がりなのに盾役とは変わった奴だ。

 というか、ちゃんとやってくれるのか不安だ。確かに頑丈そうなのは間違いないが。

 特に先頭を歩くという事に拘りもないし、俺は譲った。ブロズは先頭に来て、俺はそのすぐ後ろを歩く。


 すると後ろから肩を叩かれた。

 セリアである。彼女が小声で尋ねてきた。


「ブロズさんって案外普通の人なのでしょうかー……?」

「さっきからずっとそう言ってるだろ」

「そうでしたねー。疑ってたけど本当かもしれません。あ、わたしは弓を使うんで後衛にいますよ。援護は任せて下さい」


 まだセリアの実力はわかないが、この薄暗い洞窟中なので、弓は当たり難くなりそうだと思った。


 進んでいると道はどんどん広くなっていった。


 壁や地面に血の跡が見える。


 先に入った奴らの血か?


 そうなるとこの辺にモンスターがいそうだな。十分警戒して進もう。


 俺以外の奴もそれに気づいたようで、緊張感が走る。


 慎重に歩いていると、前方から足音が聞こえてきた。姿は見えない。こちらに走って向かってきているようだ。一旦止まって待ち受ける。


 敵が近づいてきて姿が見えた。茶色い毛に覆われたモンスターだった。手が四本あり、目が一つという異形の姿だ。


 口元が血に汚れてる。もしかして、先に入った初心者冒険者を食べたのか。


 それを見て、俺は恐怖を感じるのではなく怒りを感じた。


 食われた奴は別に友達というわけではないし、俺の器が一つだという事を馬鹿にした奴かもしれないが、人を食いやがったという事実に、同じ人間として怒りを感じていた。


 敵の動きは特に早くはない。俺はブロズの前に出て、敵の腹を斬りつけた。


 あっさりと腹と胴を一刀両断した。


 普通に弱かったけど、何で先に入った人たちはやられたんだろうか。


 まだ死んでないかもしれないと思い、警戒しながらモンスターを見ていると、白い光に変化して俺の胸の辺りに入ってきた。


 あまりに早すぎて避けることが出来なかったが、どうやら敵の攻撃ではなかったようだ。体に異変はない。

 むしろ少し軽くなったくらいだ。


「もしかして、今ので魂力を吸収したんですかねー?」

「たぶんそうだな。何か体が軽くなったし」


 倒したモンスターは跡形もなく消えていた。完全に吸収されたのだろう。死体は消えてなくなるようだな。


「でも、あんなにあっさり倒して、君は強いんだな」


 ブロズが感心したようにそう言ってきた。


「いや、奴らが弱かっただけだ。動き遅かったし」

「確かにそうですねー。あれならわたしでもヘッドショット決められましたよ。何でほかの冒険者の皆様は苦労してたんでしょうか?」

「弱かったからだろう。それ以外に理由はない。金目当てで実力もないのに行くとそうなるんだ」


 セリアの疑問に、シラファが厳しい口調で答えた。

 的を得ていることではあるが、そこまで言わなくても良いのにな。


 シラファはそのあと俺を見て、


「意外だったのは、お前がそこそこ出来る奴だったってことだな」

「何で意外なんだよ。始まったばかりだから、器の数は関係ないだろ」

「言動がアホっぽかったから、てっきり雑魚だと」

「ア、アホっぽいだと……?」


 何と失礼な事を言う奴だ。


「とにかく足手まといにはならないようだから、安心した」

「て、てめぇこそ足手まといになるんかねーのか? お前みたいな偉そうな奴は、だいたい弱いって決まってんだよ」

「何だと?」


 シラファは俺に見つけてきた。結構頭に来ているようだ。大した挑発じゃないが、乗って来るとは、クールそうに見えて、案外短気なのか。


 睨み合っていると、再び足音が聞こえてきた。


 今度は前より多い。五体くらいはいそうだ。

 まあ何体いようと、さっきと同じ奴なら、倒すのは楽勝だ。


 モンスターが視認できる位置まで来た。前のやつと同じく、四本腕の猿っぽいモンスターだ。数は七体いる。


「ふん、弱いと思われるのは不愉快だ。私が貴様より遥かに強い事を証明しよう」


 シラファはたった一人で、七体のモンスターに突撃していった。

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