第6話

「試練って何だ?」

「ここ1st.緑の世界グリーン・ワールドには、三つ試練があり、それを全てクリアすると、その門を通ることが出来るようになるのだ。この門を通ると次の世界に行くことが出来る」


 次の世界……アウターの中に門があって、さらに別の世界へ行けるとは……全く想像すらしていなかった。


「2ndにも同じく試練があり、それをクリアすると3rdに行ける。3rdの試練もクリアすると、今度は4thという感じで、どんどん次の世界へ進めるようになっている。今のところ冒険者が到達したことのある場所は6thまでだ。7thまであると言われているが、そこに到達した者はまだいない」


 さらに想像していなかった情報を与えられて、俺は興奮した。

 色んな世界を見て回れるのか、正直ワクワクしてきた。


「2ndとか3rdとかって、どんな世界なんだ? こことは全然違う感じなのか?」

「全然違う場所だ。どんな場所かは冒険者なら自分の目で確かめて来い」


 それもそうだ。他人に聞いてたんじゃ、旅の楽しみが半減してしまう。


「よし、決めた。俺はその誰も言ったことのない7thとやらに行く。どうせ来たんだから、隅々まで見て回らねーとな」

「ほう、よく言ったな。冒険者はそうでなくてはな」


 男はにやりと笑う。


「おっと、自己紹介がまだだったな。俺はレブロン・ブラームズ。ファースト・シティの町長だ。。冒険者は引退して、今は町の運営をしたり、新人冒険者に基礎知識を教えたりしている」


 この男が町長だったのか。どこかに行っていたミファエラも、いつの間にか広場に来ていた。


「色んな世界があるんですかー。お姉ちゃんは、先の世界で冒険者やってそうだなー。ってことは試練ってのをクリアしないといけないようですねー。質問ですけど、試練ってのはどこにあるんですかー?」

「次の世界の話をしていて何だが、お前らが試練を受けるのは、まだ先の話なので、今その説明はしない。アウターでは、もっと大事となる力『魂力こんりょく』の話を最初にしなくてはならない」

「魂力?」


 初めて聞いた言葉だ。アウター限定の力なのだろうか。


「人の力の源が魂力だ。ほかの生物を殺すと、自動的に魂力が人体に吸収され、体の中にある"うつわ"に貯めこむことが出来る」

「器? そんなもの体の中にあるのか?」

 

 そんな奇妙な物が体にあるとは、一度も聞いたことがない。


「アウターに来た瞬間に胸の少し下に作られる。実体があるような物じゃないので、作成されても気づくことはない。

 魂力を器に貯めこめば貯めこむほど、身体能力が向上する。それだけでなく魂力は魔法を使う原動力にもなる。そしてさらに、器一個分の魂力を消費することで、死んでも生き返ることが可能という、強力な効果もある。まずは魂力を集めなくては、やっていけないのがアウターだ」


 身体能力が上がる。

 魔法が使えるようになる。

 そして生き返ることが出来る。


 早い話、魂力とやらを集めれば、超人になれるようだ。


 これはぜひ集めたいな。


「魂力は、アウターだけに存在している"モンスター"を倒して集めることが多いぞ。モンスターは人間に害をなす、邪悪な生物だ。奴らは、アウター各地にある"レッドエリア"と呼ばれる場所にだけ出現し、レッドエリア外に出ることは出来ない。

 この町はレッドエリアじゃないので、モンスターは絶対に来ることが出来ない安全地帯なんだ。ちなみに安全地帯には、元の世界にもいた動物が生息しているぞ。イノシシとか鹿とか狼とかな。ただ、こいつらは倒しても、魂力の吸収量がめちゃくちゃ少ないから、魂力集めには向いていない」


 なるほど。

 アウターは危険だと聞いていたのに、あの草原はやたら平和そうだったので、違和感を持っていたが、危険な奴が出る場所には限りがあるのか。


 しかし、それならアウターは、思ったほど危険場所ではないということなのか?


 俺と同じ疑問を抱いた奴が、レブロンに質問をした。


「確かにアウターでも、レッドエリアに行かなければ安全に暮らしていける。ただ、試練はレッドエリアにしかなく、元の世界に戻るには3rdまで行けるようにならなければならない。試練を受けなくては3rdまでは行けないため、元の世界に戻るためには、必険な場所に行かないといけないのだ」


 危険な場所に行かなくては、元の世界には帰れないのか。八割帰ってきてないというのは、そう言う理由だったんだな。


 町長はさらに、金目のものはレッドエリアにしかなく、この町には大した仕事もないので、レッドエリアに行かなければ、貧しい暮らしをする可能性が高くなると、付け加えた。


「さて魂力の話に戻ろうか。器一個分に貯められる魂力は、個人差がほとんどない。多かったり少なかったりする者もいるにはいるが、極々稀の話なので、差はないと言っていい。ただ、器の数には個人差がある。二つだったり三つだったり、多い者は十個持っていたりもする」

「それはつまり、多い方が魂力をより多く貯められるってことか?」

「その通り。魂力が多ければ多いほど、身体能力も上がるし、魔法も使いやすくなる。その上、生き返れる回数も多くなる。いいこと尽くめだ。戦いには、技術も重要なので器の数だけで強さは決まらないが、間違いなく器の多い者は、強くなりやすいと考えていいだろう」


 確かに相当有利だなそれは。

 技術でカバーすると言っても簡単じゃないし、多い方が間違いなく良い。

 俺の器はいくつなのだろうか。


 器の数が調べられるのかどうか、レブロンに尋ねてみた。


「器の数はどうやって調べるんだ?」

「簡単な魔法で調べられるぞ。アウターじゃ誰でも覚えていて、使う際の魂力の消費も物凄く少ない。君たちはまだ使えないので、俺が代わりに全員のを調べてやる」


 町長は、「サーチ」と言って、俺の胸元を見てきた。


 器の数を調べる魔法を使ったのだろう。

 なぜか、レブロンは苦々しい表情を浮かべる。


「……君にはどうやら器が一個しかないようだ」

「……え? 一個? 複数あるんじゃなかったのか?」

「珍しいけど、たまに一個だけの者もいる……うーん、これは……」


 一個しかないって、魂力を全然貯めることが出来ないってわけで、つまりクソ雑魚ってことなのか?


 それは流石にショックだ。

 男なら強くなりたいと思って当然だし、そもそも強くならないと、今さっき定めた目標の7thに行くってのが達成できないだろう。


「ま、まあ、器が少なくとも戦闘技術を磨けば、7th行けるくらい強くなれるさ……たぶん……」


 苦笑いをしながらレブロンがフォローをしてきた。

 慰められて逆に惨めになる。せっかくアウターまで来たのに何という事だ。


 レブロンはほかの奴らの器数も調べ始めた。少なくても二つはあって、ほとんどが三つか四つだった。一つだけの者はいなかった。


 セリアは五個と普通よりも多かった。それよりも一個多かったブロズが、最高記録のようだ。


「私のも測れ」


 そう思っていたら、シラファが少しイラついたような口調で言った。どうやらシラファだけまだだったようだ。


「おお、まだだったものがいたか。えーと……!! 君は十一個もあるぞ!! これだけ多い奴は珍しいぞ!」


 じゅ、十一個って。俺が一個なのに、格差ありすぎるだろ。


 クソ、何か悔しくなってきたな。


 こうなったらレブロンの言う通り、器の少なさは戦闘技術でカバーして、一番強くなってやる。王城にいたころも、剣術だけは結構褒められていたんだ。難しいが無理じゃないはずだ。


「これで全員測り終わったな。君たちは今から"初心者の洞窟"に行くといいだろう。一番簡単なレッドエリアだ。ほかのレッドエリアにいるモンスターは、魂力なしの状態で倒すのは正直かなり困難だろうが、ここのモンスターは弱いので倒せるはずだ。

 この初心者の洞窟に入るには制約が三つある。一つ目は四人以上仲間がいないと洞窟内に入れないという制約だ。二つ目は、アウターに来てから一月以上経過した者は、入れないということ。三つめは洞窟に入って一度外に出たものは、二度と再び入ることは出来ないということだ。ここにいる者たちで、組んでから行くと良い。

 この広場に、地図があるからそれを参考に向かってくれ」


 組まないといけないのか……

 器一個の俺は少し不利か? いや……最初は器の数なんて関係ないだろうし、問題ないか。


「それでは、俺からの説明はここまでだ。分からないことがあれば、この町の元冒険者に尋ねてみろ。親切な奴も多いし、話してくれるとは思うぞ」


 そう言って、レブロンとミファエラは一緒に去っていった。






 レブロンとミファエラは、説明をしたあと、街道を歩きほかの仕事を行うため、町長の館へと向かっていた。


「今回の冒険者は少なかったですね」

「そうだな。最近減ってきたな……元の世界の方が平和になったようだしな……」


 冒険者になるようなものは、元の世界で居場所を失ったものも多い。純粋な憧れでなろうとするスレイは、相当珍しい部類に入る。


 戦は人の居場所を奪う。

 元の世界が荒れれば荒れるほど、冒険者志望も増える傾向にあった。


「さて、初心者の洞窟で何人死にますかね」

「さあな。最近はあの洞窟で死ぬ、戦う覚悟も技量もない奴が増えたな。そんな奴はそもそも冒険者になる資格がないんだ」


 初心者の洞窟は、きちんと戦える者なら簡単に突破できるが、腕のないものはあっさり死ぬことも多かった。


 レブロンは、冒険者を助けると言ってはいるが、最初から最低限の戦う力を持たない者に、戦い方を教えてやる気は全くなかった。冒険者にはドライな者多いが、レブロンも根っこの部分では、ドライな人間だった。


「それにしても、器一個とは久しぶりに見たな……」

「そうですね。いつ以来でしょうか……」


 レブロンとミファエラは、かなり長いこと初心者冒険者にアウターの基礎知識を教え、器の数もその度に測っていた。そんな彼らでも、器一個だけの者は滅多に見た覚えがなかった。十一個あったシラファはも珍しいが、それでも何回か見たことがあったので、二人の意識はスレイの器一個に向いていた。


「ブラッド以来か?」

「ああ、ブラッドがいましたね……彼が来たのは十年前くらいですかね……」

「そうなるな……ブラッドは極々稀にいる、一個の器に入る魂力の量が多いタイプだったからな。奴は普通の奴の二十倍の魂力を、一個の器に入れることが出来る、規格外の男だったからな」

「今では6thまで到達している、Sランクの冒険者です。

 ……まさか、彼がブラッドと一緒だとでも?」

「ハハハ、まあそれはないだろう。本当に少ないからな、器の容量が違う奴ってのは」


 レブロンは笑い飛ばした。


 器の数を測る魔法はあるが、容量を測る魔法は存在しない。


 この時点でスレイの本当の力に気付いている者は、レブロン、ミファエラを含めどこにもいなかった。




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