第5話

 門を通ったら、気付いたら俺は草原のど真ん中に立っていた。空は雲一つない青空だ。心地の良い風が俺の頬を撫でる。


 ここが……アウターなのか……


 憧れの世界に足を踏み入れて、俺は感動していた。

 ここはただの草原と言えばただの草原なので、俺が夢想していたような変わった場所ではないんだけど、それでも、これたというだけで万感の思いが立ち込めてくる。


 ただ、俺の目的はアウターに行くことではない。この場所を隈なく冒険することだ。


 来れたというだけで満足はしたくはない。


 しかし、周囲になにもない草原だが、どこに行けばいいのだろうか? 


 後ろを見てみると、門はなかった。キョロキョロと周りを見てみても、どこにも門は存在しない。門を通ってきたはずなのに、それがないなんて不思議な。だから簡単に戻ることが出来ないのか。


 突然、何もなかったところに、先ほど遺跡にいた冒険者志望の男が出現した。


 門を通るとこういう感じでアウターに来るのか。


 同じように続々と、冒険者志望の者たちが出現してくる。


「うわー、草原ですねー。ってか通ったもんがどこにもないんですけど。確かにこれじゃあ帰れませんねー」


 セリアもこちらに来たようだ。


「見事に何もない草原ですねー。どこに行けばいいんでしょうか。そうだ。出戻り組の冒険者の人に聞いてみましょう」


 持ち前の人当たりの良さで、笑顔で話しかけるセリア。

 冒険者の男は、「ここで待っていれば、そのうち案内人が来る。それまで待機した方がいい」とだけ言って、どこかに急いで立ち去っていった。


「案内人ですってー。本当なんでしょうかー? 一応待ってみますかー」

「そうした方がいいな」


 ここはさっきの男の話を信じて待ってみた方がいいな。

 早く冒険したい気持ちはあるが、案内人がいるというのなら、まずは話を聞いた方がいいだろう。俺も来た瞬間に死にたくはないし。


 一分くらい待つと、遠くから女が一人近づいてきた。

 あれが案内人か? 思ったより早く着いたな。


「新しい冒険者の皆様、こんにちは。わたくしは案内人のミファエラと申します」


 行儀よく女は頭を下げて挨拶をした。


「今から1st.緑の世界グリーン・ワールドにある、冒険者が作った街、ファースト・シティにご案内します。ファースト・シティには、引退した冒険者が多数住んでおりまして、そこの町長は新しい冒険者になる皆様に、アウターについて、詳しく説明をいたします。アウターは危険な場所ですので、何の情報もなく旅をするのは大変危険でございますので、まずはわたくしに付いてくるのをおすすめします」


 へー、初心者に説明してくれるとは、結構親切な人がいるんだな。


 問題はそれが本当かどうかだけど、俺は信用できると思う。理屈は特になく勘だけど、嘘は言ってなさそうだ。


 ところで最初に彼女が言った、1st.緑の世界グリーン・ワールドって何だろうか。この場所の事か? よく分からないけど、恐らくそれを含めて説明してくれるのだろう。


 ミファエラが歩き始めたので、俺たちは付いていく。中には付いてこない者もいたが、それに関してミファエラは完全にスルーしていた。


 意外にも、シラファとブロズの二人は、大人しく付いてきていた。


 特にシラファはあそこまでセリアを徹底無視していたので、単独行動するタイプだと思っていたが。草原を闇雲に歩き回っても仕方ないと判断したのだろうか。


 ミファエラに付いて歩くこと数分後、町が見えてきた。


 木造の家が立ち並んでいる街だった。俺の出身国であるべストーン王国は、レンガ造りの家がほとんどなので、木造の家というのはほとんど初めて見たくらいだ。


 木の家で頑丈性は大丈夫なのかと、何か不安になってくる。木の家が普通の国はあるようなので、大丈夫なんだろうけど。


 町の人たちに、俺たちは注目を集めていた。「そうか、今日は門が開く日かぁ」「頑張れよ新入り」などという声が飛んでくる。


 気になることがあった。


 何人かが、まるで可哀そうなものを見るかのように、俺を見ていたのだ。


「あいつ"器"が……」「うん……」


 ひそひそと俺を見ながら、そんなことを話している。

 視線はもしかしたら、隣を歩いているセリアに向けられている可能性もあるので、自意識過剰かもしれないが、何か気になるな。


 町中を歩き続けて、広場に到着した。

 広場の真ん中に、遺跡にあったのと似ている門がある。

 扉は開いている状態だ。


「ここがファースト・シティの中央広場です。えーと……町長から詳しい話をしてもらうつもりでしたが……いないですね……ちょっとお待ちください」


 ミファエラはそう言って、どこかに行った。


 数分時間が経過するが戻ってこない。


 俺の意識は広場中央にある門にあった。


 何だあの門は、通ったらどこに行くのだろうか……?


 元の世界に戻るための門なのだろうか?

 簡単には帰れないって言ってたから、違うか?

 じゃあ、あそこを通ればどこに行くのだろうか?


 聞いてみたいが、ミファエラがどっかに言ったので聞けない。

 

 俺は門に近付いて、じっと中を見つめてみる。遺跡にあったもんと同じく、真っ白で先には何もないように見えた。


「その門は"試練"をクリアしなくては、通ることは出来ないぞ」

 

 突然、背後から声をかけられたので、振り向いて確認すると、中年の男が立っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る