第4話

「質問ですー。あなた方は何なんですかー」


 セリアが手を上げて質問をした。


「我々は国王からこの門の管理を任された門番だ。アウターは危険だから、子供や覚悟のないものが入るのを防いでいる」


 あいつらが門番か。装備も強力そうだし、数も多い。力尽くで入るのは難しいかもな。


 仮に無理と言われた場合は、何とか隙をついて入る必要があるけど、普通に通してくれるかもしれないし、今は質問に大人しく答えておくか。


 門番は宣言通り、質問を始めた。


 この場に集まっている者たちは全部で三十人いるが、全員が今から初めてアウターに行くわけではなく、すでに行ったことがある者も何人かいた。里帰りでこの世界に戻ってきて、再びアウターに行こうとしている者たちだ。

 俺が五歳の頃に出会った冒険者の男と、同じような人たちだろう。その者たちは質問が免除されるようだ。


 初めてこの門を通ろうとする者たちだけが質問を受ける。

 出身地と名前、年齢を尋ねられた。


 答えると門番の一人が、紙に記録している。理由は分からないが、冒険者になるものはああやって全員紙に記録されるみたいだ。


 黒髪の女も尋ねられている。流石にここは無視すわけにはいかなかったのか、名前と出身地を答えた。


「シラファ・マイラン。出身地はタンペス王国だ」


 少しハスキーな声だった。彼女の答えを聞いた瞬間、セリアは「同郷じゃないですかー」となぜか嬉しそうにしていた。


 鎧の大男も名を尋ねられた。


「ブロズ……バルツ王国出身……」


 思ったより小さな声で男は答えた。バルツ王国というと、地元出身者か。


 そのあと俺とセリアも質問に答えた。セリアは顔の幼さで若干年齢に疑いを持たれたようだが、最後に胸をちらりと見て、その疑いは間違いだと門番は思ったようだ。


「子供はいないようだな。最後の質問だが、お前らが門を通りアウターに行きたいと思っている理由を答えろ」


 何でそんなことを聞くんだという文句が飛んだ。

 確かに理由なんて、門番に聞かせる必要があるのか疑問だ。


「たまにとんでもないくだらない理由で、門を通ろうとするやつがいるからな。大人が自分の選択で死ぬのは自己責任で、同情の余地はないが、それでもとんでもなくくだらない理由で通ろうとするやつは引き留めることになっている。ま、あとは純粋な興味だ」


 門番の目には好奇心が溢れているよう見えた。どうもあとで付け足した理由の方が、本当の理由のようだ。


「とにかく答えなかった奴は通さない。正直に答えろ」


 別に理由を話すくらいは何の問題もない。

 一人一人尋ねられて、それぞれ理由を話していく。


 最初五人連続で金のためと答えた。

 アウターについて詳しくない俺は、金になるという話を初めて聞いた。


「アウターって金になるのか?」


 俺は隣にいたセリアに小声で尋ねた。


「わたしも詳しくは知らないですけど、アウターでしか取れない宝石とか金属とかあるらしくて、それがめっちゃ高く売れてるってのは聞いたことあります」


 初めて知ったなそんな事。

 もしかしたら、五歳のころ冒険者の男に貰った紫の石は、売れば高い宝石だったかもしれん。仮に高くても売りはしないが。


 鎧を装備した大男、ブロズもアウターに行く理由は「金のため」と答えていた。


 そのあと、黒髪の女シラファに質問が来る。


「復讐」


 そう答えた。

 門番は理由について深堀しないので、詳しい事情は分からないが、何かややこしい事情がありそうだな。アウターにいる冒険者の誰かに恨みを抱いているのだろう。


 セリアにも質問が来た。


「わたしは人探しですー。お姉ちゃんが冒険者になるって言って、家を出ていきましてねー。わたしお姉ちゃん大好きなので、会いたいんですよー」


 彼女は自分からペラペラと聞かれてもいないことまで喋った。


「高確率でお前の姉とやらは死んでるぞ。それでも行くか?」


 門番が無慈悲な事を言ったが、セリアはそれでも笑顔を絶やさず言った。


「生きてますよーお姉ちゃんは。そんな簡単に死ぬような人じゃないですしー」


 姉の事を心の底から信じているようだった。


「さて、最後は赤髪のお前。お前はなぜ門を通りたいんだ?」


 最後は俺に質問が来た。

 答えて困る理由など俺にはない。正直に答える。


「アウターがどんな場所かこの目で見てみたいからだ」

「興味本位で行くのか? くだらんな。お前は通らない方がいいぞ」


 くだらないと馬鹿にされて頭に来た。門番を睨み付けがら反論する。


「俺はガキの頃アウターの話を聞いて、それから今までずっとアウターに行くことを夢見てたんだ。くだらなくなんてない」

「…………お前はアウターが見れれば、死んでも構わないといえるか?」

「構わねぇ」


 門番の男が、ふっ、と笑みを浮かべた。


「最近は、お前みたいな奴は減ってきたな。まあいいだろう。見て来いよアウターを」


 その瞬間、門番たちの後ろにある門が開いた。


 門番たちが、門の前からどいてた。


 門の向こうには何も見えない。ただ真っ白な空間があるように見えた。


 最初にすでに冒険者となっていた者たちから、門を通る。


 門の中に足を踏み入れた瞬間、姿が一瞬にして消失した。不思議な現象を目の当たりにして、俺は興奮する。



 ――――今からアウターに行くんだ。



 実感を持った俺は、我先にと門の前まで行って、門を通った。



 この瞬間、俺の冒険者としての生活が幕を開けた。



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