え?

 こんな事をあなたに話してしまってよかったのかって?

 ……正直に言えば、分からないんですよ。

 結局彼女が話してくれたのは彼女自身の枕元に死神が見えてからですから、果たして僕に話をしたせいで死んだのか、それとも違うのかなんて誰にもわかりません。

 僕自身もなんとなく人に言う気になれなくて今の今まで他人に話したことなんか無かったですからね。

 これで僕が死んでしまえば、その死神の……なんというのか、呪いとでも言うんでしょうかねぇ。そのせいだということになるんでしょうがね。

 ふふ。気になるでしょう? 僕もずっと気になっていたんですよ。三十年もね。

 だから、これはちょっとした復讐みたいなものなんです。

 僕以外の誰かが、ばかばかしいと思いながらもふとしたときに身震いするような、そんな奇妙な感情を一生持ちつづけてくれれば、今まで誰にも理解してもらえなかった僕のこの感情も少しは報われるような気がするんですよ。

 何故あなたを話し相手に選んだかって?

 あなたはこの寂れた居酒屋に一人で来ている人の中で一番幸せそうに見えましたから。

 聞いていましたよ。さっきカウンターで話していたでしょう? あなた昇進が決まったそうじゃないですか。僕なんか定年まで勤め上げさせてももらえずリストラです。

 ですから、これは幸せそうなあなたに僕からの僻みをこめたちょっとした意地悪なんですよ。

 僕は生きていれば1週間後にまたこの店に来ます。あなたはそれを確かめてください。僕がこなければ死神の呪いを受けて死んだということですから。

 どうです? 僕の三十年に比べたら、あなたはたったの一週間で結果が分かるんですよ。

 僕が生きてこの店にきた暁には、またこうして杯を酌み交わしましょう。

 勿論僕が奢りますよ。

 でも、もし僕がこなかったらあなたは決して死神の話を他でしてはいけませんよ。僕が死ぬということは、聞いただけの人間にも死神の呪いは効力をもつということなんですから。

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