5
おかしな話でしょう?
でも僕は真剣に話す彼女にウンウンと相槌を打っていたのです。
「あなたに話せて良かったわ。誰にも言う事が出来なくてずっと一人で抱えていたのだもの」
彼女に不思議なものが見えるようになったのは、死神と出会ってからだという事でした。けれど、きっかけを話すには死神の事を話さなければならない。それで彼女はずっと誰にも言えず抱え込んでいたのですね。
僕自身も、彼女の事は少しおかしいのではないかといぶかしむ事がありましたから。本人は僕に全て告白して肩の荷が下りたように清々しい顔をしておりました。
けれども、そこでふと気付いたのです。
「誰にも言ってはいけなかったのだろう? 僕に言って大丈夫なのだろうか」
そう聞くと彼女は微笑んで答えました。
「昨日の夜から私の枕元に自分が座っているの。……今もそこにいるのです」
これには肝をつぶしましたね。僕はそのとき、まさに彼女と枕を共にしていたのですから。
けれど、辺りを見回してみてももう一人の彼女の姿は見えません。
「人をからかってはいけないよ」
僕はうろたえてしまったのを隠すように彼女に言いました。
彼女はまた笑って「はい」と答えましたから、僕は今までの話が全て僕をからかうための彼女の作り話だったのだと思ったのです。
すっかり気分を悪くした僕は彼女をモーテルに一人置いてさっさと帰宅し、それきり会いませんでした。
会わなかったと言うよりは、会えなかったと言う方が正しいのでしょうが……。
彼女は二日後の晩、外出先で車に撥ねられたのです。
即死でした。
何故か駅前のロータリーを……ええ、今もそうですが当時もあそこは車通りが激しかった。そこを突っ切ろうと突然歩道から飛び出したのです。
直前まで彼女と一緒にいた女友達はすっかり錯乱しておりましてね。それでも彼女と付き合っていた僕に死の間際の話を聞かせなければと必死に話してくれたのです。
その友人の話の中に少し気になるところがありました。
彼女は、ロータリーに飛び出していく直前、一人でぶつぶつと言っていたそうです。
あなたの言う通りね。やっぱり信じてはもらえなかったわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます