死神の話によると、兄は本当は最初の発作を起こした時に死ぬはずだったらしい。けれど体ばかりが妙に丈夫で、離れようとする魂の緒を一向に離す様子が無い。

 死神も普段ならばチョイチョイと念じるだけで離れるはずの緒がなかなか離れないので躍起になって、なりふり構わず座り込み必死に念を送ったそうです。

 そのなりふり構わずというのがまずかったようで、念を送ることに夢中になりすぎて自分の姿を隠すことを忘れてしまったのです。大人達は気付きませんでしたが、純真な子供には見えてしまったのですね。

「もう間もなくお兄さんは亡くなるよ。わたくしが枕元に来たからね」

「間もなくっていつ?」

「そうだねぇ……。わたくしが枕元に来れたのは昨日の昼過ぎだったからね。明後日の昼前にはポックリ逝くだろうさ」

 そう言うと死神はまたニタリと笑ったそうです。

「本当は死神の姿を見た者も一緒に連れて行かねばならぬ決まりなのだがね。君のお兄さんを連れて行くためにわたくしは力を使いすぎてしまったようだ。だから、今回は見逃してあげるよ」

 そこで母親が病室に戻って来たので彼女は話をやめました。

「ああ、大事な事を言うのを忘れていた。よくお聞き。決してわたくしの事を誰かに話してはいけないよ。話せばわたくしはすぐにお前を迎えにこなければいけなくなるからね。尤も言ったところで誰にも信用しては貰えまいが」

 それきりもう死神は話さなくなりました。そして死神の予告通り、兄は2日後に死にました。

 兄が死んだ時、彼女はその体から小さな青白い光の塊がふわふわと浮かんで来たのを見たそうです。

 死神はそれを手に持っていた麻袋に入れると、彼女の方を見てニタッと笑い、そしてパッと消えてしまったんですって。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る