あそび
☆☆
駅の反対側はすなわち学校の反対側であり、車が行き交う国道沿いだ。大型トラックが大地を揺らしていく。スポーツ・カーが法定速度をはるかに超える速度で過ぎ去ってゆく。轟音が鼓膜を揺らす。人間には出すことのできない速さを、人間を載せた機械が出している。
「彼らは、もはや人間ではないのかもしれない」
ヒダリは、道路沿いの公園に立ち寄った。
こじんまりとした空間には滑り台とブランコ、水飲み場があった。必要最低限の物でこしらえたような場所だ。案の定、子どもの姿は見られない。夏休みだというのに、彼らはどこで何をしているのだろうか。
最初に目についた滑り台に向かった。後ろ側の階段は小さく、手摺りを持ちながら歩くには腰を折らなければならなかった。ヒダリの思い出の中では、手摺りに捕まらずに階段を一気に駆け上がっていたはずだ——そんなことを思い出す。野蛮な時期だった。一段登ろうとするたびに、スネをぶつけた。痛みに悶えつつも、登り切った。
一番上に立つと、周りの風景が小さく見えた。そして、少し先までも見渡せた。世界はこんなにも小さかったのか、と気付く。子どもの頃は何もかもが大きかった。ヒダリは自分が大人になっているのだと、少しだけ寂しい気持ちになった。
滑る箇所に腰を降ろす。急な勾配だ。腰をなんとか枠に納め、両手を離した。重力に従って、滑っていく。ヒューン、というよりも、ずぞぞぞ……と言った具合だった。もっと速かった気がするが、どうやら思い出が美化されているようだった。
「こんなものだったかなあ」
下まで着き、ギャザー・スカートを手で払う。ネール・ピンクの生地は砂で汚れた。生地も少し伸びている。しかし誰も怒る人はいないので、ヒダリは気にも留めなかった。
そのまま歩いてブランコに腰を掛けた。
ブランコは子ども用で、鎖が短かった。低身長のヒダリが座っても、脚が余るほどだ。
地面を蹴ると、身体が揺れる。何度か蹴ると、揺れが大きくなる。
どんどん。
どん、どん。
どんどん。
どん、どん、どん。
視界に何も映らなくなるまで、揺れを大きくした。
視界に空だけが映るその時まで、重心を操る。
「えいっ、えいえいっ」
とうとう、鎖がガシャンと音を立てるまでになった。急降下をして浮上し、後ろ向きのまま急降下して浮上する。脳味噌が耳や目から飛び出しそうな衝撃に、これだよこれ、とヒダリは嬉しくなった。しかしどんなに頑張っても、視界の端には駅の屋根だったり、そばを走行するトラックだったり、目の前に植えてあるポプラの木などが邪魔をした。結局、望みを叶える前にヒダリは飽きてしまった。
地面を蹴って揺れを抑える。ミュールの靴底が「ガリッ」と乾いた音を立てる。その音が面白くて、大きな音が立つように地面を蹴り上げた。ときおりつま先を擦ったりもしたが、ブランコはヒダリの意思に従って止まった。
「ふふふ。キミはいいね。変わらないから」
トラックの轟音が隣のブランコを揺らしていた。あるいは、夏の微風のせいかもしれない。
水飲み場で水を飲んでから、公園を後にした。
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