046話 名も無き村へ

吹雪ふぶく白銀の世界を、見慣れた金狼の背は、たくましく疾走している。


肌を刺す寒さは、ゴウゴウと唸りを上げ耳をかすめる風も相まってか、いつまでもその手を緩める気配は感じられない。


永遠に続きそうな白銀の世界も、もう少しで終わるだろう。

もう少しで、あの名も無き村にたどり着くのだから…。



私達はあの後、オリゴの大聖堂…カメリア教団の総本山に、結界に囚われた光の巫女ヒュウガを置き去りにしたまま、足早にオリゴを去った。


光の巫女ヒュウガとの相性の悪さを考えれば結界が解ける前に、逃げるのが最善策だと、私とナルの意見が最速で完全一致した瞬間だった。


私達はどこかで、神の御言葉みことばや、オーブのことは、後回しにしていたと思う。


イマリを早く救い出したい…その一心が身体を動かしていた。


これからやること…目的は単純明快だ。


イマリを救い出し、魔の巫女ローズ=マリーを倒す…ただ、それだけなのだが…。


ローズ=マリーが、去り際に放ったいくつかの言葉が、不安要素として払拭出来ないでいた。


血の巫女…聖杯…あの蝙蝠は何?



変化の無い白銀の世界で、考えを巡らせたが、答えは出なかった。



ふと気づけば金狼は疾走を止め、ゆっくりとした歩みに変わっている。


手綱を緩めたナルが決意に満ちた表情を、こちらに向けた。


「…着いたわね」


あの村全体を見下ろせる崖の上だ。


私は、まだゆっくりと進んでいた狼橇いぬぞりから空に飛び立ち、一足早く村を見下ろした。


真っ白に染まった石造りの村。


白銀の世界に唯一逆らう…その闇は…その存在感に視線が吸い込まれ、離すことが出来ない…。


中央広場に、黒ずくめの少女が一人、背を向けて立っていた…。


「…イマリ……今行くよ」


イマリに視線を奪われていた私の後ろから、ナルがイマリを見つめながら…呟いた。

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