010話 竜の巫女との決戦

闇夜に巻き上がった粉塵を見つめつつ、イマリが言った。

「……ナル…次で決める」


「はぁはぁ…了解!全力で行くわ」

地に突き立てた《アマテラス》に寄りかかり、何とか立ち上がったナルは答えた。


その声は、この窮地でも明るい。


イマリはナルに、ズタズタになった左肩を貸し、ナルは右腕をイマリの右肩まで回した。


ナルは右手で《アマテラス》を握り直す。


「……スゥ」

一息、イマリが息を飲み。


次の瞬間、月に向かって、赤と黒が闇夜に舞った。


粉塵が収まり、竜の姿が月明かりに露になり始めたころ


"ドスッ、トス、キンッ、ドスッ……"


漆黒しっこく手裏剣しゅりけん》が天から竜に振り注いだ。


命中したのは二つだが、分厚い鱗に阻まれ致命傷は与え切れていない。


竜は天を見上げた。


そして、天より降ってきた声に双眸そうぼうが向かう。


斬魔ザマ夜歌夜ヨカヨぉぉぉおお!!」

猛烈な落下速度で、赤い流れ星が白銀を伴い、竜に堕ちてきた。


竜は豪腕をクロスさせて頭上に掲げる。


避ける時間はない。


「…封殺陣フウサツジン

イマリの声が天から聞こえた。


次の瞬間、竜を中心に赤い光が地面から立ち上がる。


それは、円と五芒星ごぼうせいだ。


地に刺さっている五つの《漆黒しっこく手裏剣しゅりけん》上を通る真円に、それぞれの《漆黒しっこく手裏剣しゅりけん》同士が直線で結ばれ五芒星ごぼうせいを地に描いている。



―― 封殺陣ふうさつじん


私たちは、それを知っていた。


その陣の中では、身体の自由が奪われる恐怖の忍術だ。


その束縛力は、イマリの戦闘力に比例する。



―― 竜に赤い流れ星が堕ちた。


白銀の流線は、竜の豪腕を一つ切り飛ばし、もう一つの豪腕の中で停止した。


ナルの右手から《アマテラス》が離れる。


力尽きたかのように、地に崩れるナル。


イマリの封殺陣により緩慢な動きだが、竜は口腔に並んだ牙をむき出し、ナルを咀嚼しようとした。


ナルの目前で竜の口腔が大きく開かれる。


"…ザシュッ"


竜の後方に降ってきた黒い流れ星は、竜の背中から《漆黒しっこくのカタル》を心臓に突き刺した。


刃はまず、背中の分厚い鱗を突き破る。


次に肋骨をへし折りながら奥へと進み、肋骨に包まれた、鼓動を打つ心臓と、紫色の柔らかい肺を、斬り潰しながら反対側の鱗を突き破り、竜を抜けた。


竜の口腔から大量の血が吐き出される。


ナルは血を浴び真っ赤だ。


イマリは、突き刺した右手の《漆黒しっこくのカタル》を握り直し呟く。


「…砕刃さいは

刹那、《漆黒しっこくのカタル》に、逆刃が六本、飛び出した。


一度は、心臓と肺を破壊した《漆黒しっこくのカタル》は、逆刃で再び心臓と肺を斬り刻む。


イマリは《漆黒しっこくのカタル》をひねりつつ、竜から引き抜いた。


無表情なイマリの顔に、噴出した竜の血が降りかかる。



―― 血まみれの少女が向き合う中、竜の身体がいくつもの光りのたまとなり、天に昇った。


赤い陣の光の中で、天に昇る青白い光りを見つめつつ、二人の少女は一言二言、何かを呟いた。



―― 東の空が明るみ始めていた。


私は、その空に

この戦場を去っていく

蝙蝠こうもりらしき

黒い何かを見ていた。

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