第17話 現状認識
第17話 現状認識
腰に下げた小さなポーチからオリアナ先生の上半身ほどもある巻物を取り出して部屋に用意されている食事用テーブルの上に広げ、オリアナ先生は席に着いた。先生の隣の席にアンナさんも腰かける。俺は二人の向かい側に腰掛ける。
そもそも体積から行ってそのサイズの巻物がポーチから出てくるわけがないのだが、魔法のある世界なんだから気にしてもどうしようもないことなのだろう。それよりも、この巻物、なんも書いてないことの方が気になる。
「さて、相互理解のためにまずはこの世界のことを話そうじゃないか」
オリアナ先生の言葉と同時、巻物の表面がモヤモヤと動き、何かの形を作り始める。グニャグニャと動き回るそれは、わずかな時間で巻物を埋め尽くすほどの地図になった。
「これは……」
「カーバルティア王国。この国の詳細な周辺地図だ。普段は盗難や情報漏洩を避けるために何も書いていない巻物に隠ぺいしてある。本当は少年に見せることもリスクがあるんだが、弟子の教育のためだ、仕方ないよな?」
そう言ってウィンクしてみせるが、キメ顔が絶妙にイラっと来るな、かわいいけど。
地図で見る限り、カーバルティア王国は北部に峻厳な山脈を持ち、そこから流れる川を中央に持つかなり広い平原に立地しているようだ。そこから東西、南方向に街道が伸びている。西側に聖王国、東側には海を有する商業国、南側にはそれほど大きくない自治都市国家の集合体のようなものがあるらしい。
そして、北部の山脈の向こう、魔族領はほとんど情報がない。
「この世界は、南に向かうほど温かくなるんですか?」
「ふぅん、何故そう思うんだい?」
「地形に対して国家の規模が小さいように見えます。沢山の自治都市国家が成立するということは小規模な国であっても食料を潤沢に手に入れることができるということです。つまり、農業の効率が高いか、もしくは何もしないでも食べ物に困らないほど食料資源が豊かであるかです。どちらであっても、温暖で降雨量の多い地域であることが想像できます」
まぁおそらく都市国家同士でそれなりの殴り合いはしているんだろうが。そのうち帝国志向の支配者が生まれて統合されていくんだろう。
「まぁおおむね正解だ、南の方は春が来るのが早く、冬が来るのが遅い。遅いというか、冬らしい冬は来ない。まぁ都市国家が多いのは人種同士で固まっている地域だからだがな。獣人たちが多く住んでいるんだ。彼らは家族意識が強い」
獣人か……。猫耳おねーさんとかいるのかな。
「西の聖王国、ロムリアは、創造神を信奉する宗教国家だ。神託を下すことができるほどの優秀な巫女を多数輩出し、各国に派遣している。神の声をもたらすことができるのは彼らだけだからな、周辺国家のみならず、はるかに離れた国々にさえ影響力は大きい」
はーん、なるほどね。そうだった、この世界は神が実在するんだ、宗教が強いのはまぁ当たり前と言えば当たり前か。
「東の商業国。彼らは商業国の名の通り、商人たちの国だ。大商人による合議制で国家を運営している。活気にあふれ、機を見るに敏、金と資源のにおいのする場所なら彼らはどこにでも現れるよ。人種のるつぼのような国だな」
アメリカみたいなもんか。なるほどな。
「そして北側、山脈を挟んだ向こう側に、魔族たちの住まう魔族領がある。ここの情報はほぼわからないといっていいな。勇者とそのパーティーしか踏破したものがいないし、彼らもほとんど帰ってこないからな」
「北方で山を隔てているなら、かなり寒そうな地域なんでしょうね。それなら南に攻め入ろうという気持ちになるのもわからなくはないな」
民の苦しい生活をよくするために支配地を広げようとする。ありそうな話だ。
「いや? 魔族たちは別にこちらに攻め入ったりはしていないぞ?」
え、じゃあなんで勇者なんて召喚してまで魔王殺しなんてしようとしてるのさ。
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